人事担当者であっても混同しやすい言葉に「昇進」と「昇格」がある。それぞれ具体的にどのような状態を指すのか、また、何を基準に「昇進」と「昇格」を決めればよいのか理解しておきたい。本稿では、「昇進」と「昇格」の意味や違いをふまえた上で、それらを決定するためのプロセスや、実行する際のポイントを解説する。
「昇進」と「昇格」の意味や違いとは? 試験や面接などのプロセス、モチベーション向上のポイントを解説

「昇進」と「昇格」の意味とは?

◆「昇進」の意味とは

「昇進」とは、会社が定めた職位・役職が上がることを意味する。具体的には、一般社員が主任になる、次長が部長になるなど、「役付きになる/肩書きが上がる」ことを指す。「昇進」することで社内での地位が高まり、それに合わせてより責任の大きな仕事を任され、給与も上がることになる。

●「昇進」の例
一般的には、以下のような流れで職位が上がっていく。

(1)一般社員
(2)主任
(3)係長
(4)課長
(5)次長
(6)部長
(7)本部長、事業部長
(8)常務取締役
(9)専務取締役
(10)代表取締役社長

◆「昇格」の意味とは

「昇格」とは、「職能資格制度」と呼ばれる等級制度に準拠し、等級が上がることを意味する。ここで言う等級とは、社員が有する職務遂行能力や職務・役割などによって区分けされたものを言う。「昇格」によって能力がより評価されることになるが、職位も必ず上がるというわけではない。

●「昇格」の例
「職能資格制度」では、職務遂行能力に合せて等級が定められている。等級の呼称は統一されておらず、企業によって異なる。多いのは「1級、2級」や「ステージ1、ステージ2」だ。ただ、等級が上がるに連れて、業務内容の難易度や責任が高まるのはどの企業でも同様といえる。

●「昇格」における「職能資格制度」
「昇格」のベースとなる「職能資格制度」とは、社員の在籍年数や年齢ではなく、職務遂行能力によって等級を決定する制度だ。入社時は低い級からスタートし、等級が上がるに伴い、担う業務範囲が広がると共に量も増えていく。ただ、等級は常に上がるだけではない。能力の伸びが認められなければ等級が下がるケースもありうる。この「職能資格制度」を導入していない企業では、「昇格」という制度もないということになる。

「昇進」と「昇格」の違い

「昇進」と「昇格」の違いを改めて整理すると、「昇進」は社内で役職、職位、地位、肩書きが上がることであり、「昇格」とは「職能資格制度」における等級が上がることである。

◆「昇進」と「昇格」の相関性

「昇進」と「昇格」は意味が異なるものの、相関性がないわけではない。企業によって、職位に相応する等級範囲が定められている場合もある。ただし、等級が上がると自ずと職位も上がるということはない。

一般的な流れとして、まずは「昇格」によって能力があることが認められ、等級も上がる。その等級の中から、個人の適性や社内のポジション状況などを踏まえて選出された人材が「昇進」していくことになる。

◆「昇給」、「昇任」、「就任」との違い

「昇進」や「昇格」と似ている言葉に「昇給」、「昇任」、「就任」がある。それぞれについて整理しておこう。

●昇給
「昇給」とは給与が上がることを指す。ここで言う給与とは一般的に基本給を意味しており、賞与や手当を含めていない。「昇給」は以下の5つに分けられる。
(1)定期昇給:毎年決まった時期に行われる
(2)臨時昇給:業績が好調な場合に臨時で行われる
(3)考課昇給:仕事の考課によって行われる
(4)普通昇給:通常の業務の範囲内で能力向上などに基づいて行われる
(5)特別昇給:特別な実績や功労に基づいて行われる

●昇任
「昇任」の意味は「昇進」とほぼ変わらない。現職よりも上位の役職につくことを言う。概して、公務員に対して用いられるのが「昇任」、社員に対して用いられるのが「昇進」となる。

●就任
「就任」とは、新たな職務や任務に就くことを意味する。

「昇進」・「昇格」のプロセス

実際に、「昇進」・「昇格」をどのような基準で決めれば良いのか。そのプロセスを紐解いていこう。

◆候補者の選定

・人事評価
人事評価とは、一定期間における社員の勤務態度や実績を評価することを言う。その際の指標としては、仕事に必要となる能力や仕事に対する態度、仕事の成果の3つが挙げられる。また、評価を行う際には上司のみが評価する企業もあれば、上司だけでなく同僚などを含めさまざまな関係者が評価する360度評価を行う企業もある。

・目標設定における達成度
目標管理制度(MBO)とも称されている。社員が期間ごとに達成すべき目標を設定し、その達成度を判断基準とするものだ。日本企業における人事管理の概念が年功序列から能力主義へとシフトしつつあることに伴い、「昇進」・「昇格」の判断基準として導入する企業がかなり増加している。

ただし、達成率を上げるために最初から目標を低く設定するケースなども考えられるため、上司と部下との1on1の場で適切な目標設定を導くように働きかける必要がある。

・取得資格
上位の役職や等級に必要な資格を設定する企業も多い。「昇進」や「昇格」の要件として専門資格の取得やTOEICテストの規定スコアが必要となるなど、業界特有の資格を課すケースもあれば、グローバル化にキャッチアップしていくために英語力を求める企業もある。

・勤続年数
「入社5年以上」や「3等級に2年以上滞留している」など、勤続年数や勤務態度などの評価項目において条件を設定することがある。年功序列型の企業で多く取り入れられている。会社に長期的に在籍すれば評価されやすいという一面があるが、その一方ではいくら成果を出してもすぐには反映されにくいといったデメリットもあり得る。

・上司からの推薦
上司による推薦状を課す企業もある。推薦状には、部下の業績や志向で評価している点、今後職位や等級が上がることで見込まれる期待値などが書かれることが多い。

◆昇進/昇格試験

昇進・昇格試験の代表的な方法としては、面接・小論文・適性検査が挙げられる。

・面接
「昇進」や「昇格」の判断をする場合、該当者の実績や能力に加えて、マネジメントの適性も重要である。選考対象者と面接を行い、人柄や仕事に対する意欲、今後のビジョンなどをヒアリングすることが有効だ。この際、判断基準が面接官本人の主観に左右されやすい点が懸念されるが、適性検査や小論文では把握しにくい部分を確認できるメリットがある。あらかじめ社内で選考基準を明確化したうえで実施するとよいだろう。

・小論文
小論文は、選考対象者の将来性や適性を見極めることを目的に行われることが多い。設定されたテーマの意図を理解し、論理的に解決策を導き出していける能力があるかどうかが評価される。特に昇進試験では良く用いられている。

出題されるテーマとして多いのは、「自社の戦略遂行に向けて求められること」や「自分自身の役割と組織との関係性」などである。

・適性検査
適性検査とは、業務遂行能力や仕事への意欲などを測定するために行う検査である。能力や適性を数値化し、客観的に評価できるようになっている。

具体的には、以下の3つに大別される。
(1)性格検査:業務に相応しい性格を持ち合せているかを確認する
(2)能力検査:業務を進めるための能力があるかを確認する
(3)志向検査:自分自身の今後のキャリアに向けた考え方を確認する

「昇進」・「昇格」を行う際のポイント

リクルートマネジメントソリューションが2021年に行った「人材マネジメント実態調査」によると、「昇進」・「昇格」に関する課題として最も多い回答は「昇進・昇格そのものに魅力を感じない者が増えている」(57.4%)だった。以下は、「昇進・昇格要件(基準)があいまいで納得性がない」(42.6%)、「現管理職の後に続く人材が枯渇してきている」・「管理職全体の質(レベル)が低下してきている」(いずれも41.8%)と続いた。

判断基準の不明確さ・不公平さは、「昇進」や「昇格」へのモチベーションおよび組織全体のマネジメントの効率を下げる大きな要因の一つだろう。社員の活躍を正当に評価し、適切な人材の「昇進」や「昇格」を実施することは、組織としてのマネジメント機能の向上、ひいては生産性の向上にもつながっていくと考えられる。その点を踏まえて、「昇進」・「昇格」を行う際のポイントとして以下の4点をあげたい。

●役職・等級とその定義を整理する

役職・等級を定める目的は、会社のミッションや経営戦略を実現するために各自の役割を明確にするためだ。それには、役職・等級の定義をクリアにするとともに数を適正にする必要がある。役職の定義があいまいであったり、等級数が多すぎたりすると、責任の所在がわかりにくくなる。また、等級数が少なすぎる場合は、同等級間であっても業務遂行能力に差が出てしまうだろう。

●評価基準を明らかにする

社員の納得感を高めるために、評価項目や評価基準を明らかにするのは有益な取り組みだ。評価基準は、「昇進」・「昇格」のための基準と、役職・等級で任される仕事の基準の2つに大別される。前者では、自社の事業ビジョンに基づいて序列をどう位置付けるかを考えて、「昇進」・「昇格」に必要な要件を定めていく。一方、後者ではそれぞれの職種ごとに職務詳細を定めるパターンと、職位・等級に共通する汎用的な概念を落とし込むパターンの2つがある。

●社員の適性や価値観を理解しておく

「昇進」・「昇格」の判断基準が明確であったとしても、それを満たすための適切な指導やマネジメントがなければ、モチベーションは向上しないだろう。日頃のコミュニケーションを通じて、部下の適性や価値観を理解するよう努め、本人が「昇進」・「昇格」を望む場合には、どのような行動や成果を上げれば良いか、適切な目標設定をサポートしていくことが有効である。

●評価者の認識を一致させる

「昇進」・「昇格」を判断する評価者の認識が人によって大きく異なるようでは、公平性が担保できない。あらかじめ、評価を行う目的や要件を明確化し、評価者に対して教育しておく必要がある。また、評価対象者の人数を適正化すること、複数人で評価結果をすり合わせる機会を設けることも必要だ。


何を基準として「昇進」・「昇格」させるかは、それぞれの会社で違いがある。重要なのは、公平性を担保することである。社員の「昇進」や「昇格」へのモチベーションを高め、適切な人材配置で組織体制を整えるためには、社員が納得できる公正な判断基準を示し、評価プロセスを透明化することが求められる。また、会社のミッションやビジョン、職位・等級の意義、期待する役割などを日頃から伝えることで、「昇進」や「昇格」が社員の能力開発や優秀な人材のリテンションにもつながるだろう。
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