「求める人物像」と人材要件や採用基準の違いとは?
「求める人物像」とは、企業が持続的に成長・発展していくためにどのような能力や考え方、性格、行動特性を持った人物が必要かを具体化したものである。採用の際の判断基準のもととなるものであり、「求める人物像」が定まっていない場合、自社が求める能力に満たない人や社風にフィットしない人を迎え入れてしまう可能性がある。それは、早期退職につながりかねず、会社にとっても入社した本人にとっても不幸な結果となってしまう。当然ながら、企業によって目指すべき目標やビジョンは変わってくるので、設定される人物像も異なってくる。もっと言えば、同じ会社であっても部署や職種が違うと「求める人物像」は異なるし、新卒採用とキャリア採用でも同様に、それぞれに合せて設定することが重要である。
◆「求める人物像」と「人材要件」の違い
「求める人物像」と混同しやすい用語が「人材要件」だ。「人材要件」とは、採用のターゲットと言い換えられ、例えば「前向きな人」とか「自分で考え行動できる人」といった抽象的な条件を指す。これに対して、「求める人物像」はペルソナと定義でき、どんな人なのかがより詳細にイメージできる内容を意味する。◆「求める人物像」と「採用基準」の違い
「採用基準」とは、選考にあたり採用するかどうかを判断するための基準である。その切り口としては、能力や経験、考え方などがあり、各要素において自社が求めているのはどのような人材なのか、一定の基準を設けておく必要がある。この「採用基準」を決めるために不可欠なのが「求める人物像」だ。どんな能力や行動特性を持った人材が必要なのかを具体化した「求める人物像」から、詳細な「採用基準」を設定することができる。つまり「採用基準」の元となるのが「求める人物像」だといえる。「求める人物像」を定めるメリット
「求める人物像」を定めるメリットとしては、下記3点があげられる。●採用活動を効果的に行うことができる
「求める人物像」を明確化しておくと、それに基づく人材獲得に向けた募集時期や求人媒体、選考方法などを決めやすく、求める人材により効果的にアプローチする採用を行うことができる。求人票の作成や面接の内容、重視すべき点など、「求める人物像」に沿った方向性が定まることで、採用活動がスムーズになり、ミスマッチを減らすことが期待できる。●採用において経営層と現場の方向性を合わせられる
2つ目のメリットは、経営層と現場の方向性を合致させられることだ。「求める人物像」を定めるにあたっては、人事は経営層や現場の意向をヒアリングし擦り合わせることが望ましい。経営陣と現場に認識のズレがあると、採用が円滑に進みづらいのはもちろん、経営層の意見が優先された場合は、入社後に現場でうまくオンボーディングできない可能性もある。あらかじめ両者の意見をふまえて人物像を設定しておくとスムーズだろう。●採用のミスマッチ防止、定着率向上につながる
3つ目のメリットは、採用におけるミスマッチの防止、定着率の向上につなげられることだ。繰り返しとなるが、「求める人物像」は「採用基準」の元となる。「採用基準」が決まっていれば、面接もそれに基づいて判断することができ、結果的に自社の社風や価値観に合った人材を採用していけるようになる。採用に効果的な「求める人物像」の作り方
では、効果的な「求める人物像」を作るにはどうすればよいだろうか。ポイントを解説していこう。●今後のビジョンや目標を整理する
まず、会社全体あるいは配属部署のビジョンや目標を整理することが必要だ。それに照らし合わせて、どういった施策・業務を進めていかなければいけないのか、どのような能力や経験、考え方を持った人材が必要となるかを洗い出す。あわせて、会社の社是や社風なども自社の方向性をふまえて見直しておくといいだろう。企業や組織の今後の在り方は、単なる理想像ではなく、あくまでも現状の労働環境や制約条件を鑑みた上で現実的なビジョンを描く必要がある。●現場の意見を聞く
「求める人物像」の設定には、経営側だけでなく現場の意見も聞くことが重要だ。採用した人材は、経営層や人事のもとだけで働くわけではなく、各現場にも配属されていく。当然ながら、現場の意見をヒアリングせずに採用活動を進めてしまうと、現場のニーズに合致しない人を選んでしまう可能性がある。そうしたミスマッチは、採用プロセスのみならず入社後の育成プロセスをも無駄にしてしまうので、できる限り避けなければいけない。そのためにも、現場がどんな能力や経験、価値観を持った人を求めているのかを聞き出す必要がある。なかには、経営層と意見が違う箇所もあるかもしれない。両者の意見をすり合わせた上で優先順位をどこに置くか、人事として最終的に設定することが肝要だ。●自社のコンピテンシーを明らかにする
「求める人物像」は、会社の特性によって異なる。自社で優れた成果を上げている人が、どのような能力や行動特性などを持っているのかを分析し、共通項をコンピテンシーとして明確化しておくと、より自社にふさわしい「求める人物像」を定めやすい。成果の高い人材の定性的な特徴を浮き彫りにできれば、それにフォーカスしたペルソナ設定ができるだろう。●社風や職場の雰囲気を言語化する
新入社員が入社前後で社風や職場の雰囲気にネガティブなギャップを感じてしまう要因の一つとして、会社側が社風や職場の雰囲気を応募者に伝えきれていないということが考えられる。ふだん、当たり前になっている自社の性質も、応募者にとっては貴重な情報となるため、改めて的確に伝えられるよう言語化し、選考の際も共通認識として把握しておくといいだろう。「求める人物像」に沿った人材獲得のためのポイント
次に、「求める人物像」に沿った人材を獲得するために意識したいポイントについて説明する。●より具体的に設定する
「求める人物像」が具体的であればあるほど、人材獲得の昇順を合わせやすい。求める能力や経験については、資格名や、PCスキルならばソフト名、経験年数などを細かくあげるといいだろう。行動特性や価値観についても、例えば単に「分析が好きな方」とするのではなく、「さまざまな数字やデータを基にしながら分析するのが好きな方」と、よりイメージしやすいよう設定したい。文言を読んだ人によって解釈が違うことがないようにするためにも、具体性が重要となる。●採用関係者内で「求める人物像」を共有する
「求める人物像」を定めたら、採用に関わるメンバー全員で共有しておくことが重要だ。共有できていない場合、選考基準や自社についての説明にもばらつきが出てしまい、選考そのものが難航すると予想される。自社が求める人材について、社内で認識を合わせておくことが必要である。●「求める人物像」に合わせた採用アプローチを行う
「求める人物像」を設定したら、それを実際の採用活動でどのように活用するか考える必要がある。一般的には、選考プロセスの設計に反映させることが多い。自社が「求める人物像」がしっかり言語化できているのであれば、自社採用サイトや採用パンフレット、会社説明会、インターンシップなどで応募者に的確に伝えることができる。また就職サイト以外にもSNSやダイレクトリクルーティングなど、ペルソナに合わせたアプローチ手法を選択しやすい。また、「求める人物像」は選考基準にも落とし込める。自社として何を重視しているかを明確に打ち出すことで、応募者側も自分がこの会社にフィットしているか、フィットしていないかを判断しやすくなる。自ずとマッチングの精度は高まると言って良い。
●「必須要件」「希望・歓迎要件」「行動特性・価値観」を分けて記載する
求人票をわかりやすく書くこともポイントだ。そのためにも、「必須要件」と「希望・歓迎要件」、「行動特性・価値観」を分けて書くことをお勧めしたい。要件の優先順位が整理されていると選考を進めやすい。また自社として何に優先順位を置いているかが明確な方が、応募者にも伝わりやすい。採用には多大な時間とコストを要する。採用活動をスムーズに進め、採用ミスマッチによる早期退職を防ぐためにも、「求める人物像」を経営層や現場の両方から聞き出し、多角的な視点で要素をあげていくことが重要な意味をもつ。「求める人物像」を作り上げていくことは、自社の現状や方向性について見直す機会にもなる。そのうえで、効果的な採用アプローチやプロセスを設計していくことが、人材獲得のカギとなるだろう。
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