労働基準法で定める「休業手当」とは
大型台風が接近すると公共交通機関の運休が発表され、従業員も通勤できず、やむなく欠勤となるケースがある。その場合、休業手当を支払う必要はあるのだろうか。台風による公共交通機関の運休で休業した場合、それは外部的要因であり、不可抗力によるものとして考えられることから、「使用者の責めに帰すべき事由」には該当せず、休業手当を支払う必要はないといえる。また、休業にしない場合でも、従業員が欠勤し、労働を提供できないのであれば、「ノーワークノーペイ」の原則により賃金を支払う必要はないといえる。
それでは、休業手当を支払う必要があるのはどういったケースか。
休業手当については、労働基準法(以下、「労基法」という)第26条において、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定められ、使用者の責に帰すべき事由によって労働者を休ませる場合には、支払いが義務づけられている。
「使用者の責に帰すべき事由」に該当しない不可抗力の判断基準については、
(2)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避けることのできない事故であること
という、上記2つの要件を満たすものでなければならないと行政解釈では解されている(「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」令和3年7月15日)。
この場合、不可抗力な事情は発生していないが、“会社の判断で休業とする場合”は休業手当の支払いが必要と考えられる。台風については、進路が反れたり、直撃する時間帯によっては出勤が可能であったりするので、判断が難しい場合がある。
それでは、どう対応すべきであろうか。
「台風で休業」となる場合の“実務上の対応”は
事案により休業手当が必要となる場合もあることから、企業としては、以下の対応を検討することが考えられる。新型コロナウイルス感染症拡大により、多くの企業で在宅勤務制度が導入され、台風時も在宅勤務で対応する企業が増えている。その場合、休業手当支払いの問題が生じないため、対応が可能であれば、在宅勤務に切り替えたいところだ。
●年次有給休暇取得を奨励する
台風が直撃する日に休みを取得しても業務上の支障がない場合、従業員に年次有給休暇取得を奨励することも可能だ。しかし、会社から年次有給休暇取得を強制することはできず、あくまで本人の意思に基づく必要がある。
●労働日を休日と振り替える
台風が直撃する日を休日とし、もともと休日としていた日を労働日に振り替えることも可能である。なお、事前の振替を行う場合は、就業規則への規定が必要であり、また、振り替えた結果、1週40時間超の時間外労働や、1週1日の休日が取得できていない場合は、割増賃金の支払いが必要な場合もあるので、注意が必要だ。
●恩恵的に欠勤控除を行わず、賃金を全額支払う
従業員にとって最も有利な対応となるが、一度恩恵的な対応をすると、色々な場面で休業手当支給を求められることもあり、対応には慎重になりたい。
上記のとおり、休業手当の支払いについては、休業が使用者にとって不可抗力かどうかという点によって判断される。今回は台風の際の会社の対応について解説したが、この判断基準は様々な場面で共通となるため、まずは休業手当の支払いについて理解し、休業時の対応に活かして頂きたい。
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