【前編】2022年6月から「日本とスウェーデンとの社会保障協定」が発効。海外進出企業に伝えたい“年金制度上のメリット”とは
「5年以内のスウェーデン赴任」なら厚生年金のみに加入
初めに、社会保障協定の「二重加入の回避効果」について、スウェーデンとの協定の場合を見てみよう。日本の企業が社員をスウェーデンに赴任させる場合には、赴任予定期間が5年以内か5年超かで取り扱いが異なる。●赴任予定期間が5年以内の場合
その社員はスウェーデン赴任中も「日本国内で勤務している」とみなされる。そのため、赴任国であるスウェーデンの年金制度への加入が免除され、日本の厚生年金だけに加入すればよい。●赴任予定期間が5年を超える場合
日本の厚生年金への加入が免除され、赴任国であるスウェーデンの年金制度だけに加入すればよい。その結果、日本とスウェーデンの2国の年金制度に同時加入することがなくなり、保険料の二重負担も発生しない。この社会保障協定のルールは、協定の発効日である2022年6月1日よりも前からスウェーデンに赴任している社員に対しても適用される。具体的には、協定発効前から赴任している社員の「2022年6月1日以降の赴任期間」が5年以内の予定であれば、同日以降は日本の厚生年金だけに加入し、5年を超える予定なのであれば、同日以降はスウェーデンの年金制度だけに加入すればよいのである。
スウェーデンの老後の年金には「加入年数の要件」がない
次に、社会保障協定の「短期加入の年金化効果」について、スウェーデンとの協定の場合を見てみよう。実は、スウェーデンの「所得に基づく老後の年金」には、加入年数の要件が存在しない。そのため、日本の年金加入期間を合算しなくても、スウェーデンの同年金は受け取りが可能である。なお、スウェーデンでは「所得に基づく老後の年金」が少額の場合に、それを補填する目的で「保証年金」という年金が支払われる仕組みになっている。「保障年金」を受け取るには、一定年数以上スウェーデンに居住することが必要だ。しかしながら、この要件を満たすことを目的として、日本の年金加入期間を合算することは認められていない。
一方、日本の年金制度の場合には、老後の年金を受け取るには原則として10年以上の加入が必要である。そのため、日本の年金加入期間だけでは10年に満たないのであれば、スウェーデンの年金加入期間を合算して要件を満たすことで、日本の年金を受け取ることが可能になる。
スウェーデンの年金加入を免除されるには『適用証明書』が必要
社会保障協定は非常に有用な仕組みだが、海外赴任者に対して自動的に適用されるわけではなく、手続きが必要となる。例えば、5年以内の赴任予定の社員が、スウェーデンの年金制度への加入を免除されるには、日本の厚生年金に加入中であることを証明する書類を入手しなければならない。この書類を『適用証明書』といい、企業が管轄年金事務所に申請をすれば、交付が受けられる仕組みになっている。交付された『適用証明書』は、スウェーデンの年金制度実施機関から提示を求められた場合に迅速に対応できるよう、スウェーデンの赴任先で管理するとよい。
一方、赴任予定が5年を超えるためにスウェーデンの年金制度のみに加入する場合には、日本の管轄年金事務所に対して、海外赴任させた社員を厚生年金から抜く手続きを行わなければならない。その際は、厚生年金の『資格喪失届』に「スウェーデンの年金制度に加入した事実が確認できる書類」を添えて、申請をすることになる。
企業年金があれば検討したい厚生年金の「特例加入制度」
社会保障協定の利用には注意も必要である。企業年金制度を導入している場合には、協定の「二重加入の回避効果」がデメリットになることもあるからだ。企業の中には、社員のリタイア後の年金収入を充実させるため、確定給付企業年金制度や企業型確定拠出年金制度を導入していることがある。これらの制度には、原則として厚生年金の被保険者でなければ加入ができない。
しかしながら、社会保障協定を利用した結果としてスウェーデンの年金制度のみに加入する場合には、日本の厚生年金からは抜けることになる。その結果、日本での勤務時に加入していた確定給付企業年金や企業型確定拠出年金への加入の継続が不可能となり、将来、企業年金制度から受け取る年金額が低下するという問題が発生するのだ。
このようなトラブルを避けるには、社会保障協定によって加入が免除された厚生年金に任意で加入する「特例加入制度」という仕組みを利用する方法もある。この制度を利用すれば、赴任国の年金制度に加入中も日本の厚生年金の被保険者としての立場を継続できるため、スウェーデン赴任中に企業年金への加入が中断しなくなるからである。
もちろん、その分、保険料負担が増加するので、コスト面も踏まえて導入を検討するとよいだろう。
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