※:【第1回】「人事制度」の目的とは? 仕組みと従業員へのメッセージという二つの側面から解説
※:【第2回】「人事制度」の作り方や設計構築に向けて理解しておきたい「職能主義型」と「職務主義型」の違いとは
※:【第3回】人事が「等級制度」や「評価制度」などを設計する上で押さえておきたい3つの課題
「人事戦略」とは何か? 定義や違い分かりにくい言葉を図で整理!
まずは一般的に語られている「人事戦略」の定義を確認してみましょう。人事戦略は「戦略的人的資源管理(Strategic Human Resources Management)」とも呼ばれるので、こちらの定義も含めて主要なものを整理した表が以下です。「人事戦略」の定義としては、こうした解釈は分かりやすく受け入れやすいものかと思います。しかし、人事の世界を見渡すと、「人事ポリシー」や「人材マネジメント方針」、「人事中期計画(人事中計)」、「戦略人事」など「人事戦略」との違いが分かりにくい用語が溢れています。これらの違いは何なのでしょうか。オフィシャルな定義ではありませんが、私なりの整理としては以下の通りです。
ここで押さえておく必要があるのが「戦略」という言葉が付いている事の意味です。戦略という言葉自体も様々な定義がありますが、経営学の視点で言うと「経営資源の意図的な傾斜配分」という解釈になります。
なぜこの定義を改めて確認したか。それは、戦略は「やることを決めること」と同じくらいに、「やらないことを決めること」が重要だからです。つまり、人事戦略においては、「組織や人事としてやらないことを決める」というのも意識的に行う必要があります。
例えば、「処遇・報酬」に関する人材マネジメント方針においては、「公平性や納得感を重視する」というようなことだけを定義するのではなく、「処遇・報酬として諦めること・捨てるべきことも出来る限り具体化したほうがいいでしょう。
報酬制度の水準を検討する場面を例に考えてみます。報酬水準の設定において「公平性」や「納得感」は確かに非常に重要です。しかし、これを具体的に制度へ落とし込む場合の解釈は2通り存在します。1つは「内的整合性」を担保するという観点で、社内における役割の位置づけや職務価値と報酬水準の整合性が取れているという状態を目指す方向性です。
もう1つは「外的整合性」という観点で、マーケットと比して水準の整合性が取れている状態を目指す方向性です。これらはどちらを重視するかによって制度の作り方が異なります。例えば、前者を重視する場合は、長期的な視点で昇給の大きさが適切なのか、等級間における報酬の逆転現象が起こらないかが重要となります。逆に後者の外的整合性を重視する場合は、そうした視点よりも、報酬水準が現在の市場価値とマッチしているかが重要となります。こうした検討をする際、「やること」だけを定義した抽象度が高い方針は、判断の拠り所とすることが困難です。
ゆえに、「人事戦略」を策定するときには、関係者間の衝突や議論が巻き起こるような領域まで踏み込むことが必要です。それは、前述したような「諦めるべきこと・捨てるべきこと」が何なのかという様な領域です。
例えば、「公平性や納得感」に関しては、「報酬のメリハリを大きく付けることは行わないのか」、「評価の納得感は追求するが、報酬額そのものの納得感は追求しないのか」などの問いに踏み込むことです。こうした「やらないこと」の視点でも方針や戦略の具体化を進めていくことで、企業として大切にしていきたい想いを生々しく抽出していくことが出来ます。
「人事戦略」を立案する目的や重要性とは何か?
では、こうした方針や戦略を立案することはどの様なメリットがあるのでしょうか。まずは、先述した例でお分かりの様に、人事の制度や各種施策を検討する際の拠り所とすることが出来る点です。言うまでもなく、人事の領域は絶対的な正解がないものが多く、「何かを選べば何かを捨てなければならない場面」が多々あります。例えば、近年よく議論に挙がる定年延長はその最たる例の一つです。従業員のモチベーションを考えると、60歳以上も現役世代と同様の役割や報酬を維持してあげることが良い一方で、人件費や若手登用の問題が生じます。こうした検討において、予め「何を大切にするか」、「何は諦めるか」を方針として定めておくことで、判断に迷うことが少なくなります。
さらに重要なのが、こうした方針・戦略と人事の各種制度・施策が結びつく事で、制度・施策が経営戦略や事業に貢献するものとなることです。つまり、経営戦略・人事戦略・人事制度や施策に一貫性とストーリーを持たせることが出来るということです。この点が最大のメリットと言えるかもしれません。では、どの様にこの人事戦略を策定していけば良いのか。次回の記事で、詳しく解説させていただきます。
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