100年に一度の変革期の最中にある自動車業界。電動化やカーボンニュートラル対応の波に乗り遅れれば、企業の存続すら危うくなる可能性もある。この荒波の中で未来への道筋を切り拓けるかどうかは、経営戦略と人材戦略をいかに結びつけて実現するかに懸かっている。

今、三菱自動車は、創業から続く歴史とプライドを糧に、経営基盤の再構築と次世代を担う人材の育成に取り組み、変革を未来の価値創造へとつなげている。今回の対談では、執行役員 人事本部長の泉田龍吾氏と、フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社 取締役副社長の竹村富士徳氏が、人材戦略の課題と解決策を具体的に議論。新しい時代を切り拓くリーダーの育成や、社員のエンゲージメントを高める取り組みについて語り合った。(以下敬称略)

【プロフィール】


  • 泉田 龍吾氏

    ■泉田 龍吾氏
    三菱自動車工業株式会社 執行役員 人事本部長

    1986年、三菱商事に入社。人事第一部に配属し、新卒から7年間人事業務全般に携わる。
    海外拠点の人事としても、1993年、欧阿三菱商事(ロンドン)兼 英国三菱商事の総務課長、2001年、米国三菱商事(ニューヨーク)の総務人事部長代行、2012年、北米三菱商事(CAO)兼 米国三菱商事の総務部長と要職を経験。海外勤務を挟みながら、三菱商事の人事部にてキャリアを重ね、2007年に部長代行 兼 企画チームリーダー、2010年にビジネスサービス部門CEO補佐、2011年にHRDセンター長と重要ポストを歴任。2014年より関連会社のメタルワン(鉄鋼総合商社)に出向し、人事部長に就任。人事制度の抜本的な改革に取り組む。2017年、三菱商事の関西支社にて副社長 兼 総務部長を経て、2020年に三菱自動車工業の人事本部長に就任。人事部門を牽引し、人事戦略の推進に奮闘している。

  • 竹村 富士徳氏

    ■竹村 富士徳氏
    フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社 取締役副社長
    国立大学法人筑波大学 客員教授

    1995年、旧フランクリン・クエスト社の日本法人に入社後、経営企画、事業部管理等を経て1998年28歳の最年少で取締役に就任。2000年より現職。HRD事業の開発・販売の指揮をとりながら、自らファシリテーターとして現場に赴き、これまでに1,000回以上の講演・セッションを実施。また研修ツールの小売事業推進から『7つの習慣』をはじめとした出版事業の翻訳及びマネジメント、新規事業開発にも携わる。法人向けサービスだけでなく、学校教育分野における学校改革や児童・教師のリーダーシップ開発も手掛け、10年以上大学での教鞭をとっている。現在、全世界で2,500社以上の組織に導入されているStrategy & Executionの事業本部長兼エグゼクティブ・コンサルタントを務める。

フランクリン・コヴィー・ジャパン竹村氏、三菱自動車工業 泉田氏

時間軸を合わせて経営戦略と人事戦略を連携し、社長・役員が人材開発会議を月次開催

竹村 富士徳氏(以下 竹村) 本日は、どうぞよろしくお願いいたします。さきほどショールームで、新型アウトランダーPHEV(プラグインハイブリッド)を見せていただきました。外観は精悍で堂々とカッコよくて、インテリアはとても上質。オーディオの音も素晴らしい。乗って走ってみたくなる、いいクルマですね。

泉田 龍吾氏(以下 泉田) ありがとうございます。私は現世代のアウトランダーに乗ってその自在な走りを楽しんでいますが、新型はさらにすべてがグレードアップしています。ハイブリッドのSUVというのは最初「何で?」という意見もあったようですが、三菱自動車の得意分野である四駆の技術と電動技術は相性が良く、SUVでPHEVを作ったのはわが社にとって必然だったと聞きました。
三菱自動車工業泉田氏
竹村 アウトランダーのご説明を伺って、泉田さんの車好きが伝わってきました。人事の方というより、モノづくりの方のような印象を受けました。

泉田 学生時代はメーカー志望だったんです。ハンドボールをやっていて、作る人、売る人が一緒になってチームプレイするところに憧れていました。でも縁あって三菱商事に入社。30年以上人事をやってきて、2020年にようやく念願叶ってメーカーに来ることができました。三菱商事では本社、海外、関連会社等で様々な経験をしてきたので人事の業務はわかったような気になっていましたが、製造業は全く違う。さらに時代が変わって、以前の常識が通じなくなっている。人事も大きく変化していますね。

竹村 時代の変化のなかで、変えていくこと、変えていかないことがあるのではないでしょうか。今日はそうしたことも含めて、三菱自動車工業様の人材戦略についてお伺いしたいと思います。最初に人事戦略全般に対しての泉田さんのお考えを伺えますでしょうか。

泉田 人的資本経営では、変革期に価値創造をするために経営戦略と人事戦略の連動が重要と言われ、私もそこに重きを置いています。しかし、経営戦略が3年程度の中期で計画されるのに対して、人事戦略、なかでも人材戦略はもっと長期での考え方や哲学に立つべきものです。

2020年に私が入社した時の中期経営計画(以下、中計)は「Small but Beautiful」で、構造改革がテーマで、人事施策として報酬カットや人員削減も行いました。確かに経営計画に連動はしていますが、これらは人事戦略というより対処療法と言うべきでしょう。経営戦略に連動した人事戦略というのは、人事屋の実務の観点からすると結構難しいものだと感じています。

竹村 経営戦略と人事戦略は、時間軸の捉え方が違う。そこをどのように連動していくのかが課題となりますね。
フランクリン・コヴィー・ジャパン竹村氏
泉田 2023年にスタートした現行の中計「Challenge2025」は、「更なる成長と次の時代に向けたChallenge」で、大きな変化は2025年以降にやってくるから、そこに備えて経営収益基盤を安定的、絶対的なものにしようというのがテーマです。これは、人事戦略は長期的であるべきという私の考えに沿いやすいものでした。

竹村 なるほど。経営戦略を実行するための経営計画そのものが、3年先ではなくて、2025年の先を見据えた長期的な視点となっていることで、人事戦略が連携しやすいということですね。他にも連携をしていく工夫はありますか。

泉田 最も大きいのは2022年に人材開発会議を作ったことです。メンバーは、社長以下の役員で構成され経営戦略を担っている人達が、月例で人材開発をテーマに話し合っているので、当然、経営戦略に沿った人事・人材戦略になります。さらに人材開発会議と連携して、各部門トップが自部門の人事会議を毎月開催しており、人事パートナーが各担当部門にいて取りまとめをして、それぞれの課題解決を行っています。

竹村 まさにトップから部門まで、経営と人事が一体化した連携体制を構築されて、素晴らしいです。企業の人材戦略が実現できる優れた体制だと思います。

協力:フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社


この後、下記のトピックが続きます。
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●三菱自動車工業の新たな時代に向けて行ったリマインディング(Re-Minding)
●人材の量・質のギャップに対して取り組む打ち手とは?
●リーダー人材育成に注力したことで見えてきた変化
●激変する時代だからこそ大事にしたい「変わらない3つの要素」
●好調なキャリア採用やエンゲージメント向上を支える要因とは?

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