世界的なリーダーシップ開発コンサルティング企業であるDDI社は、2~3年に一度、世界規模の人事とリーダーシップに関する調査、グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト(以下、GLF)を実施しており、GLF2021では50カ国以上が参加している。
今回、DDIの日本唯一のパートナー企業であり、日本におけるGLF調査を担当する株式会社マネジメントサービスセンター(以下MSC)の取締役 福田俊夫 氏、理事 プリンシパル・コンサルタント 中野 誠 氏にインタビューを実施。リーダーシップのトレンドや、コロナ禍における働き方、ダイバーシティ&インクルージョン、リテンションといった人事が抱える様々な課題や対策について伺った。(以下敬称略)
プロフィール
福田 俊夫 氏
クレアモント大学院大学 ピーター・ドラッカースクール オブ マネジメント 経営学修士課程修了(M.B.A)。外資系コンサルティング、外資系半導体企業のHRBPを経て現職。
株式会社マネジメントサービスセンター 取締役
26年余のリーダーシップ開発、組織開発、サクセッション マネジメントなどコンサルティング経験を有する。現在、DDIのソリューションを主に扱うグローバルサービス部、およびマーケティングの責任者として日系、外資系企業にコンサルテーションを展開。中野 誠 氏
早稲田大学理工学部卒。1986年全日本空輸株式会社入社。2001年から株式会社マネジメントサービスセンターのコンサルタントとして活動し、執行役員、取締役を経て現職。
株式会社マネジメントサービスセンター 理事 プリンシパル・コンサルタント
20年にわたって、企業の成長と発展に寄与するリーダーシップ開発に関するコンサルティングに従事。アセスメントやコーチングの分野に多くの実績を残している。近年は、成功する人や企業にはウェルビーイングが必要との考えを推進している。自身のライフスタイルにはトライアスロンやマラソンを取り入れる現役のビジネスアスリートでもある。
予測不能な事態は、職場やリーダーにどのような影響を与えているか
寺澤 今回は、「将来の戦略推進に向けたリーダーシップのトレンド」をテーマに、GLF2021のデータを解説いただきながら、人事の新たな役割や現代の人事課題について伺いたいと思います。まずは、GLFの概要についてご説明いただけますか。福田 GLFとは、CEO・ビジネスリーダー・人事担当者、3つの視点から、課題の明確化と将来求められるリーダーシップ上の課題や能力を明らかにする、世界最大の調査です。前回のGLF2021の調査では、50カ国以上、1,742の組織、15,787人のリーダー、2,102人の人事担当者に回答をいただきました。GLFの調査は、1999年より2~3年に1度実施しています。
GLFを主催するのは、世界的なリーダーシップ開発コンサルティング企業であるDDIです。世界42カ国で事業を展開しており、アセスメント、スキルトレーニング、組織開発のコンサルティングを行っています。私たちMSCは、DDIと約50年にわたる提携関係にあります。
福田 ご存知のとおり、ビジネス環境の変化は激しく、さらに次に何が起こるのか予測しにくい状況です。これは人材育成においても同じです。環境の変化に追いつくためのコンピテンシーが劇的に変わっているため、育成にも変化対応のスピードが求められるようになっています。
特にコロナ禍は、職場、リーダーに大きな影響を与えていますが、なかでもリモートワークの急速な普及の影響が大きいですね。リモートワークとオフィスワークのハイブリッド型ワーク、かつデジタルを使った環境でリーダーシップを取ることは非常に難しいことがGLF2021 の調査からも分かっています。
ここで、興味深いデータを1つ紹介します。ハイブリッド型ワークにおいて、グローバルでは平均20%のリーダーしか優れたリーダーシップを発揮できていません。一方で日本においてはたった4%という結果となっています。
寺澤 それは大きな違いですね。日本では特に、対面を重んじる傾向があるため困難を感じているリーダーが多いと考えられるのでしょうか。
中野 そうですね。リモートワークが広がっていくなか、物理的な距離感のみならず心理的な距離感がリーダーシップに大きな影響を及ぼしています。また、一人ひとりの価値観が多様化し様々な働き方が可能になっています。これは、組織にとっては、ある種の遠心力と考えられます。
従って、遠心力のカウンターバランスとなる求心力をつくることがリーダーの仕事として重要になってきます。物理的に離れていても「あの人と一緒に仕事をしたい」と人を惹きつける求心力が今まで以上に求められる状況だと思います。
ビジネスにアラインした人事戦略を策定するには
寺澤 ビジネス環境の変化、そしてコロナ禍により、リーダーはかなり厳しい状況に置かれているということですね。その状況のなかで、人事の役割は大きいと考えられますが、GLF調査からはどのような傾向がみられましたか。福田 GLFでは、人事部門が社内でどのように位置づけられているのかを、3つのカテゴリーで調査しています。
・1「受動/反応型」:方針を定め、確実に遵守し、要望に応じてシステムやツールを提供することで、ビジネスニーズに対応する。
・2「協働型」:現在の人材関連の課題について、事業部門と率直に情報交換し、互いの目標に向かって協力し合う。
・3「先見型」:分析やデータを活用して人材のギャップを事前に予測し、人材の質がビジネス目標とどのように関連しているかについての洞察を提供する。
グローバル全体のデータで、GLF2018は「受動/反応型」が21%、「協働型」が62%、「先見型」は17%でした。それが2021年は、「受動/反応型」が29%、「協働型」が61%、「先見型」は10%と、「先見型」が大きく落ち込んでしまったのです。
中野 これは、コロナ禍による影響も大きいと考えられます。まさにこの2年、人事は先々の予測よりも、目の前で起きていることへの対応に追われていました。そのため、今回のGLF2021においてはその事情を加味して数字を見る必要があるでしょう。
寺澤 なるほど。変化の激しい中では、先読みして対応する先見型が求められますが、コロナ禍という特異な事態ということで、ここは次回の数字をしっかり見た方がよさそうですね。では次に、「先見型」の人事について詳しく伺いたいのですが、どのような特徴があるのでしょうか。
この後、下記のトピックが続きます。
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●ビジネスに貢献する「先見型人事」となる手法とは
●ハイブリッド型ワークに人事・リーダーが直面する5つの課題と
データが示す優れたリーダー3つの要素
●リーダーシップ開発における注目キーワード「アジリティ&レジリエンス」
●ダイバーシティ&インクルージョンの本質はリーダーのコミュ力に尽きる
●大退職時代に人事が取り組むべき「リテンション施策」
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