経済のグローバル化やイノベーションの加速により、企業間の競争は一段と激しさを増し、より効率的な運営が組織に求められるようになってきている。そこでカギとなるのが、「組織マネジメント」である。組織をスムーズに運営し成果を導くために必要不可欠なマネジメント手法の一つだ。本記事では、「組織マネジメント」の定義や効果から、研修や人材育成を考えるうえで役立つフレームワークや理論、企業事例まで一気に解説していきたい。
「組織マネジメント」とは? 企業事例や研修、人材育成を考えるうえで役立つフレームワークや理論なども解説

「組織マネジメント」の定義やメリットとは

「組織マネジメント」とは、組織を上手く運営し生産性を高めるマネジメント手法を指す。組織マネジメントが適切でない組織では、知らず知らずのうちに非効率的な業務を行っているケースがある。
主な経営資源には、「ヒト」、「モノ」、「金」、「情報」の4つがある。それらを適切かつ効果的に配分し、有効に機能させることが、「組織マネジメント」の本質となる。

●「組織マネジメント」の目的や必要性とは

「組織マネジメント」の目的は、経営資源を適切に管理し、組織としての目標を達成へと導いていくことである。

近年、「組織マネジメント」の必要性が叫ばれる背景には、企業競争の激化が指摘できる。経済のグローバル化やイノベーションが加速したことで企業間の競争が一段と激しくなり、より効率的な組織運営が求められるようになってきている。

こうした状況下で、組織を担う社員一人ひとりが組織の抱える課題を自分事として認識するとともに、課題解決に向けた取り組みを全員が共有しながら、自らの行動をも変えていく。そのような「組織マネジメント」の必要性が高まっている。

●「組織マネジメント」のメリット

「組織マネジメント」を行うことで、どんなメリットがあるのだろうか。

・個に合わせたマネジメントができる
そもそも管理職は、メンバー一人ひとりの適性や志向、価値観に合わせて仕事を割り振り、サポートする必要がある。加えて、近年は非正規社員や業務委託、時短勤務など、働き方が多様化しつつあるだけに、それぞれに合わせたきめ細かな対応が求められている。こうした労働環境の変化に対しても、「組織マネジメント」を活用すれば、スムーズに組織を運営していくことができる。

・マネジメント層の負担が軽くなる
近年は、マネジメント層の中でもプレイングマネージャーが増えている。自分自身もプレイヤーとして働きながら、並行してメンバーの育成やサポート、マネジメントを行わなければならないとあって、多忙を極めている。その点、「組織マネジメント」ができていれば、メンバーは自発的に行動をしてくれる。その分、マネジメント層の負担が軽くなってくるというわけだ。

・組織の生産性が向上する
「組織マネジメント」を行うことで、組織全体の生産性を向上させることも可能だ。なぜなら、人やモノ、資産が円滑に動くようになり、業務が効率化し、結果的に生産性のアップにつながるからだ。

・人材の流出を防止できる
「組織マネジメント」を行うことで、人材の流出を防げるメリットもある。昨今は、働き方が多様化しており、社員はいずれも自分にとって働きやすい職場を求めている。そうした人材を上手くマネジメントすることができれば、社員は居心地の良さを感じて長く働いてくれるはずだ。

・組織全体のマネジメント力が向上する
近年は、プレイングマネージャーがかなり多くなった。プレイングマネージャーとして自ら成果を出しながら、マネジメントもするのは簡単なことではない。特に新たに管理職になった場合、プレイヤーとしてはなんとかできても、マネジメントの経験がないため、チームを上手く取りまとめられていないというケースは少なくない。「組織マネジメント」の研修や能力開発を通じて、プレイングマネージャーのマネジメント力を向上させたり、管理職としての責任感を養ったりすることができれば、組織全体としても大きなメリットとなるだろう。

「組織マネジメント」のフレームワークや種類、理論を一挙に解説

ここでは、「組織マネジメント」のフレームワークや種類、理論を紹介していこう。

●「組織マネジメント」のフレームワーク(7S)

組織マネジメントを行う上で、「組織マネジメント」のフレームワークは押さえておきたい。ここでは、国際的に有名なコンサルティングファームであるマッキンゼー社が提唱する「7S」を取り上げる。「7S」は、ハードの3Sとソフトの4Sに分けられる。

【ハードの3S】
・戦略(Strategy)

ハードの3Sにおける戦略とは、企業が目指す将来像に到達するために行うべきロードマップを示したものだ。企業のビジョンを明確にする「企業戦略」、商品やサービスの在り方・展開の仕方を考える「事業戦略」、事業を運営するために研究、開発、営業などのさまざまな機能を設定する「機能戦略」の順に策定していくのが、一般的だ。

・組織構造(Structure)
ハードの3Sにおける組織構造は、人々が組織の中で働く上で基本となる決めごとを指す。仕事の種類や目的ごとに組織を構成する「機能別組織」、独立した各事業部が意思決定権を持ち業務を行う「事業部制組織」、特定のプロジェクト専門のチームを作り、各々のチームが独立して事業を展開する「プロジェクト組織」に大別される。

・システム(System)
ハードの3Sにおけるシステムとは、経営資源で一番重要となる「ヒト」を最大限生かすための制度(ルール)づくりを言う。業務に関する手順やルールを明文化することで、すべての社員が一定のレベルで業務を行えるようになる。具体的には、予算管理制度、目標管理制度などが挙げられる。

【ソフトの4S】
・共通の価値観(Shared value)

ソフトの4Sにおける共通の価値観とは、企業の理念やビジョン、行動指針などを意味する。組織のメンバーに共通の価値観が浸透しているのか、認識されている考え方とは何なのかを分析していくことになる。

・経営スタイル(Style)
ソフトの4Sにおける経営スタイルとは、組織の経営方針や風土などを言う。意思決定スタイルも含まれると言って良い。これは、特にルールとして明文化しているわけではない。社員の間での暗黙の了解や不文律の積み重ねとして現れてくる。

・人材(Staff)
ソフトの4Sにおける人材とは、組織に属する人材の本質を理解することを指す。ただし、人材の本質は容易に理解できるものではない。業務内外でコミュニケーションを図る機会を作り、個々の本質を理解することで、その人材がポテンシャルを発揮できる場を用意しやすくなる。

・能力(Skill)
ソフトの4Sにおける能力とは、組織が持つ競争優位性を言う。これを有していると、独自性に富むビジネスを展開することができる。その結果として、競争が優位になるとともにマーケットリーダーとなることができる。

●「組織マネジメント」の種類

次に、「組織マネジメント」の種類も押さえておきたい。

・トップダウン
トップダウンは、最も良く見られる組織経営スタイルである。経営判断の速さが特徴だ。ただし、現場の声が届きにくく経営環境の変化にキャッチアップしづらい。他にも、ミドルマネジメント層やロワー層のモチベーションを高めることが難しいと言える。

・ボトムアップ
ボトムアップは、ロワー層やミドルマネジメント層からの提案をトップが吸い上げながら、意思決定を行うという経営スタイルだ。メリットは、ロワー層やミドルマネジメント層の意見を反映できるため、彼ら・彼女らのモチベーションを高めることや、環境変化に対応しやすいことが挙げられる。ただし、トップダウンに比較すると、経営判断のスピードはどうしても遅くなりやすい。

・ミドルアップダウン
ミドルアップダウンは、トップダウンとボトムアップの良さをミックスした組織経営スタイルだ。ロワー層の意見を吸い上げてトップに提言する、あるいはトップマネジメント層の意向をわかりやすくロワー層に伝える。このように、ミドルマネジメント層がトップマネジメント層とロワー層との「連結役」としての機能を主体的に果たす体制を意味する。環境の変化が激しく、スピーディーな意思決定が求められる今日においては、有効な組織経営のスタイルと言えるだろう。

●「組織マネジメント」の理論

「組織マネジメント」の理論についても触れておきたい。ここでは、経営の大家と呼ばれるピーター・ドラッカーが提示している「組織マネジメントに必要な能力」を取り上げたい。

・目標設定
まずは、組織が目指す目標を設定すること。その上で、メンバーごとに目標を設定するのが理想と言える。ただし、個人によって能力に差があるため、誤った目標設定をしてしまうと、メンバーのモチベーションや成長に悪影響を及ぼすかもしれない。なので、注意を要する。

・組織能力
組織能力とは、目標達成に向けて必須となる仕事を調査・分析し、チームメンバーの能力に応じて役割分担することを言う。どうしても、人には向き・不向きがあるだけに、マネージャーとしては、それを客観的に理解しておく必要がある。メンバーの能力や適性に応じて、適材適所に役割を与えることによって、「組織マネジメント」を上手く進めていくことができる。

・動機付け・コミュニケーション
「組織マネジメント」を行う上で動機付けやコミュニケーションも重要な行動になる。なぜなら、いずれもメンバーのモチベーション向上につながり、能動的に組織のために行動してくれるようになるからだ。結果として組織全体の成果もあがってくるだろう。

・評価
マネージャーには、チームメンバーを適性に評価できる能力も欠かせない。それが不十分であれば、メンバーのモチベーションが下がる原因になってしまう。メンバーを正しく評価するためにも、何をどのように評価するのかという基準をオープンにすることを推奨したい。評価に平等性が生まれ、不満も減るはずだ。

・人材開発
人材開発も、「組織マネジメント」では重要な能力の一つとなる。誰でも最初は、仕事の要領が分からないものだ。先輩からのアドバイスや上司からのフォローといったサポートがあって、少しずつやり方を習得していったはずだ。それだけに、一人前に仕事が行えるレベルになるまでは、人材を丁寧に指導・教育するスタンスが欠かせない。

「組織マネジメント」の企業事例

最後に、「組織マネジメント」の代表的な企業事例として、パナソニックを取り上げたい。

パナソニック株式会社(旧・松下電器)は1933年に創業者の松下幸之助氏が、「自主責任経営の徹底」と「経営者の育成」を期待して事業部制組織を初めて導入した。各事業部が、研究開発から生産販売、収支に至るまでを一貫して担当することになった。

しかし、1990年台後半に家電のデジタル化、ネットワーク化が加速したことにより、国内家電業界は大きく落ち込んでしまった。そのため、パナソニックも事業部制のデメリットである「事業部毎に機能が重複する無駄」を削減するために、2001年に事業部制を廃止。機能別組織に移管した。その効果もあり、業績を見事V字回復させることができた。

ただ、その勢いも長くは続かなかった。新興国による低価格化攻勢や主力であるプラズマディスプレイの需要低下という厳しい環境に陥る。それだけでなく、市場ニーズや現場の意見が全社に行き届かないという機能別組織のデメリットが顕著となり、再び業績悪化に繋がってしまった。

そこで、環境変化に迅速に対応しやすい体制にするために、2010年事業部制を再び取り入れた。それが功を奏して、パナソニックは世界的な発展を遂げることができた。

パナソニックの躍進の背景には、組織形態の改革が一因としてあったことが窺える。時代の潮流や市場動向に合わせて、自らの組織構造をダイナミックに進化させていった典型的な例と言えよう。
組織を効率的に運営していくには、クリアしなくてはいけないことが数多くある。一方で、不足する部分を補ったり、強化したりすることで、個人ではとても望めないパフォーマンスを発揮し、大きな成果を導き出せるのは、組織ならではのメリットと言える。その組織も、いつの時代にあっても何も変わらないというわけにはいかない。企業事例で紹介したパナソニックのように、時流に合ったベストな組織形態を導入することで、経営課題の解決を図っていく必要がある。今回紹介した「組織マネジメント」の手法や企業事例を参考に、自社にとって最適な取り組みを模索し、個人と組織の目標達成や成果に繋げていただきたい。
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