どんなことにも流行やトレンドはあります。人事も同じく、世の中の流れやトレンドによって毎年の取り組み課題が変わってきます。過去には、「ダイバーシティ」や「働き方改革」、「ジョブ型雇用」などのトレンドがありました。人事は人に関わる仕事だからこそ、社会情勢や経営環境のトレンドに大きく左右されます。では、今年2022年は人事界隈にどのようなトレンドが起こるのでしょうか。現場視点から予想してみました。
2022年の予想人事トレンド、ビヨンド・コロナを読む【70】

2022年の人事を取り巻く環境

社会情勢など企業を取り巻く環境変化は、人事施策に大きな影響を与えます。直近では政府方針による働き方改革や、新型コロナウイルスの影響によるリモートワークの浸透があげられるでしょう。2022年はどのような環境変化が起こるのでしょうか。

まずは昨年から引き続き、新型コロナウイルスへの警戒が必要ですが、人事では感染対策への対応にも慣れ、リモートワークがすっかり浸透した企業も多いでしょう。そのため、新型コロナウイルスの影響は、大手企業では企業活動や人事施策への影響はかなり限定的なものになると考えられます。

法改正についても、労働関連法で大きな改正はない見込みです。比較的気になる改正としては、「産後パパ育休」制度の創設が10月1日に施行されるほか、従業員1,000人超の企業に対して育休取得状況の年1回公表義務化があります。ただし育休制度については、すでにダイバーシティブームの際に、ある程度整備を終えた企業も多いはずですので、そこまで大きな影響はないでしょう。

唯一、昨年から話題になった人的資本の情報開示の流れが少し気になります。アメリカの証券取引所で導入された人的資本の情報開示に関連して、人事の情報開示内容を定義したISO 30414が昨年日本でも知れ渡るようになりました。今年4月に東証が市場再編を迎えるにあたり、上場企業は、より情報の透明性を高めて、成長性に関わる情報を積極的に発信すると考えられます。例えば、人事に関するエンゲージメントなどの情報を開示する企業もある程度増えると予想します。しかし、情報開示は人事の施策ではなく、単に人事が持っている情報を対外的に公表するだけなので、そこまで大きなトレンドにはならないはずです。

このように、外部環境としては、2022年に人事に影響を及ぼす出来事は少ないと考えられます。

Well-beingとエンゲージメントが人事の中心的な仕事に

一方で、企業内部の環境は新型コロナウイルスの影響やデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、大きな変化を迫られる1年となりそうです。特に、リモートワークの浸透やデジタルツールを使った仕事の本格化もあり、「会社」が物理的な場所ではなく、「バーチャルな場」として再定義されていくタイミングにあると考えられます。それに伴って、旧時代の「会社」という概念から抜け出し、「オンラインでもオフラインでも、人が集まって、ともに何かを生み出すにはどうすればよいのか?」 という新時代の課題に真剣に向き合う必要があるはずです。

こうした企業内部の変化に対し、2022年以降に人事界隈で話題になるであろう「4つのテーマ」を予想しました。

・本格的なWell-being元年
今年は本格的にWell-beingが浸透する1年となるでしょう。すでに外資系や感度の高い企業では、昨年より以前からWell-beingに注目して取り組んできました。今年は会社がバーチャルな場として発展していくためにもWell-beingが重要なテーマになるはずです。というのも、Well-being以外に目新しい人事のテーマがないため、人事が「次、何やろうか」と思いつくのがWell-beingだと考えられます。特に、いまは日本では統一されたWell-beingの定義がないため、「Well-being経営」の先駆け事例が今年はいくつか出てきたうえで、それに追従する企業が現れてくるはずです。本格的なWell-being時代の幕開けが今年は予想されます。

・「エンゲージメント」が人事の通常業務に
新型コロナウイルスの影響でリモートワークが広まり、社員のエンゲージメント状態の見える化のニーズが高まってきました。そのため、昨年はかなりエンゲージメントサーベイを導入した企業が多かった印象があります。エンゲージメントは日本企業でも一般的な言葉になりつつあり、人事でもエンゲージメントサーベイを行うことは当たり前になっています。今年はより一層、エンゲージメントが人事の仕事として定着するはずです。取り組んでいない企業に対しては「まだエンゲージメント施策やってないの?」と、いう声が聞かれそうです。

・社員同士のコラボレーションづくり
リモートワークやデジタルツールを使用した働き方が浸透したことで、より一歩進んだコラボレーションの在り方が模索されそうです。物理的に会社に出社しないことで、どのように社員同士のコラボレーションを生み出すのかが課題となるでしょう。同時に新型コロナウィルスの影響が落ち着けば、改めて対面でのコラボレーションの良さも見直されるはずです。人事の領域というよりも情報システム部の役割として検討する場合もあるかもしれません。

・データ系人事スペシャリストの誕生
近年、企業ではデジタル人材を各部署に配置する流れが進んでいます。人事も、先進的な企業では、人事データを分析して活用するピープルアナリストが誕生しています。今年は、その流れがより一層進み、人事のDXを推進するため、人事部にデータ系のスペシャリストを設置する企業が増えると考えます。以前から、情報システム系の業務を人事部に設置している企業もありましたが、人事でも「データ分析」や「AI活用」がさらに進んでいくのではないでしょうか。

このように、社会的に大きなトレンドではないものの、各企業内部では「静かな革命」が行われ、気づけば企業間の人事戦略に大きな差がついていた、という1年になりそうです。

日本企業でも「人事部」の再定義がはじまる

2022年は、これまで以上に「人事部の存在意義」が問われる1年になると考えます。これまでの給与計算や労務管理といったオペレーション中心の人事は、デジタルトランスフォーメーションによって置き換えられつつあります。また、新型コロナウィルスの影響による業績圧迫により、管理部門そのものを外注化するという動きもあります。実際にいくつかの大企業では、管理部門の定年退職による人員数の自然減をデジタルツールや外部委託で賄うというケースが出てきています。

また、働き方の変化により、副業がよりメジャーになっていくため、さらに個人主義の時代になっていくはずです。それに伴い、より「やりがい」のある会社が選ばれるようになるでしょう。人事には、報酬の考え方、会社へのエンゲージメント、今後の人事戦略立案がより一層求められるようになります。より優秀な人材を引き付け、引き留めておくためには従来の労務管理型の「人事部」では対応しきれないはずです。

外資系企業では、人事部の名称と業務内容を変えて「エンプロイーエクスペリエンス(EX)部門」という名称にしているケースもあります。日本企業でも、「人事部とは何のためにある部署なのか」という再定義が必要になるでしょう。今年2022年は「旧型人事部」の転換期になりうると予想されます。

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