前回は就職氷河期世代について解説しました。就職氷河期世代とは、1990年代~2000年代の雇用環境が厳しい時期に新期卒業を迎え、就職活動を行った世代を指します。前回(※1)も解説したように、実際にはその後2010年代に好景気が訪れ、いわゆるこの世代のイメージにある「職を得られず、苦労している」という人は統計上ではそれほど多くありません。また、最近では政府の「就職氷河期世代支援プログラム」などの雇用促進施策により、この世代を重点的に採用する企業も出てきました。今回は「氷河期世代の人材育成」を効果的なものにするために、企業側が理解しておきたい「ポイント」をご紹介します。

世代別のトリセツ第2回:「就職氷河期世代の育成」で押さえておくべきポイント【65】

就職氷河期世代の「価値観」を探る

前回、就職氷河期世代とされる年齢層と特徴について解説しました。就職氷河期世代をひと言で定義するなら「大企業が新規学卒者の採用を絞り込む中で、大企業に就職できなかった世代である」と説明できます。実際に、この世代は中小企業で働く方の割合が高いことが政府の統計で明らかになっています。なおかつ、就職氷河期世代は1990年代後半からの「急速なIT化の流れ」や「派遣市場や転職市場の活性化」の働き方の変化を経験してきた世代でもあります。そんな就職氷河期世代は、どのような価値観をもつ傾向があるのでしょうか。

マイナビが2021年6月に発表した研究レポート(※2)の「転職したい理由」から世代の特徴がうかがえます。全ての年齢層で「給与への不満」が1位となりましたが、就職氷河期世代は全体と比べて、特にその割合が高くなっています。正社員では25.4%(全体比で1.9ポイント高い)、非正社員では29.8%(全体比で4ポイント高い)という結果でした。一方で、2位の「自己成長・スキルアップのため」は全体を下回り、正社員では17%(全体比で5.2ポイント低い)、非正社員では20.9%(全体比で4ポイント低い)という回答結果でした。他には、「会社の将来性への不安」や「人間関係の悩み」が、全体よりも高い傾向でした。

これらの結果から、就職氷河期世代は、給与に対するモチベーションや会社に対する所属意欲が高く、周囲の人間関係を重視しているという傾向が読み取れます。

ポイントは「キャリアの考え方」をどうアップデートできるか?

先述の結果で、就職氷河期世代は会社の将来性を重視していることから、会社への帰属意識が高く「就社」の意識が強いと推測できます。また、人間関係を重視している点を踏まえると、同期や同僚にも目を向け、組織での横並び意識も強いように思えます。

一方で、それより若い世代はどちらかといえば「職種や専門性を高める」ことを重視する傾向が強く、そもそも働く上で「終身雇用は前提としない」という人も増えています。「就社」よりも「就職」、あるいは自分自身のやりがいのために職種を変えることも厭わないという人が多いように感じます。いわゆる20~30代の「ミレニアル世代」や「Z世代」は“自ら学ぶ”という意欲も高く、報酬よりもやりがいや生きがいを重視します。

「終身雇用」は保証されなくなり、さらにコロナ禍のような不確実性の高くなった現代は、「1社で働く」という考え方より、こうした若い世代の姿勢のほうがマッチします。

就職氷河期世代の特徴に、就労する中で「非正規雇用の拡大」を肌で感じた経験を持つという点があります。2000年前後に、「派遣業種の拡大」や「紹介予定派遣の解禁」など、非正規雇用が大きく拡大しました。実際に、この時期に派遣社員として働いた人の中には「そのうち正社員になれるから」と言われ就職したものの、派遣社員から正社員になれなかったという人もいるでしょう。

このような背景から、就職氷河期世代のキャリアの考え方には「就社」、「正社員重視」、そして「できれば大企業がよい」という価値観があるのではないかと推察します。就職氷河期世代は自ら学ぶ意欲もある一方で、成長機会よりも報酬を重視します。それはややもすれば、「会社の中で研修を受けることよりも、働いて稼ぐことを重視する」傾向につながるかもしれません。

こうした“経験”がベースにある「キャリアへの考え方」をどう変化させられるかが、「この世代」を効果的に育成するポイントになるでしょう。

就職氷河期世代の人材育成は、「学びなおし」がカギ

就職氷河期世代の育成では、「キャリアに対する考え方」と「時代への対応」のアップデートが成長を左右します。もちろん、就職氷河期世代と一括りにしても、様々なバックグラウンドを持っています。しかし、ある程度共通する価値観として、根底にはやはり「就社」や「なるべく大企業で働ければ安泰」という考えがあるのではないでしょうか。

例えば最近の大学生に話を聞いてみると、将来はどうなるか分からないから、まずはつぶしのきく弁護士などの資格をとろうという方もいれば、ベンチャーやコンサルティング会社で経験を積んで将来に備えようという方もいます。また、意外と安定的に働くなら大企業よりも公務員がいいという方など、大企業で働くことに意欲的な方は年々少なくなってきているように感じています。少し前に学生が投稿した「日本電気(NEC)ってどこの街の電気屋?」というネタがありましたが、その投稿に対してNECの公式のアカウントがTwitterでリプライしたことが話題になったこともありました。

以前のように、「大企業一辺倒」の時代ではなくなってきているのです。最近では副業が解禁され、起業をする人も増えてきました。さらに、今後は「ジョブ型雇用」の本格導入が控えています。

こうした環境変化の中で、就職氷河期世代はどれだけ自身の価値観を変えられるか、そしてどれだけ時代に対応した専門性を磨くことができるかが大きなカギを握るといっても過言ではないでしょう。様々な経験のある就職氷河期世代は、ひょっとすると大企業よりもベンチャー企業や中小企業でその能力が生かせるのかもしれません。

採用・育成する企業側も、彼らのキャリアに対する価値観をアップデートしながら、学びなおしを通じ「現代により対応するスキル」を習得してもらうことに注力するべきです。これまでの経験を組み合わせれば、さらに大きな戦力となります。就職氷河期世代の活躍には、価値観や考え方といった「OS」をアップデートする方法がよさそうです。

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