テレワークで注目の「ハイブリッドワーク」とは何か
「ハイブリッドワーク」とは、テレワークとオフィスワークを組み合わせた働き方のことを指す。例えば、「週3日はテレワーク、週2日はオフィスワークで働く」というスタイルだ。新型コロナウイルス感染症の流行により、テレワークを導入する企業が増えた。しかし、様々な事情により出社をしないとできない業務もある。こうした事情から生まれたのがハイブリッドワークだ。ここではハイブリッドワークが注目されている背景について解説していく。●「ハイブリッドワーク」が注目されている背景
「ハイブリッドワーク」が注目されている背景には、“オフィスワークの見直し”がある。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、テレワークの導入が一気に加速した。テレワークは「通勤しなくていい」、「子育てや介護との両立もしやすい」などのメリットがある一方で、生活空間と仕事の空間が同じであるがゆえのデメリットもある働き方だ。テレワークが進む一方、オフィスワークの必要性の見直しも始まった。「通勤をしなければならない」というデメリットはありつつも、業務によっては「対面のほうが効率的に進められる」からだ。
こうした背景があり、現在は「テレワークとオフィスワークの両方のメリットを享受しつつ、デメリットも解決できる可能性がある働き方」としてハイブリッドワークが注目を集めている。
「ハイブリッドワーク」は企業や組織にとってどのようなメリットがあるのか
「ハイブリッドワーク」は従業員だけでなく、企業や組織にとってもメリットがある。ここではハイブリッドワークが及ぼす企業や組織に与える7つのメリットを解説する。(1)優秀な人材を確保できる
「ハイブリッドワーク」のメリットの1つが“優秀な人材の確保ができること”だ。背景には給与待遇に加え、働きやすさやワークライフバランスを重視する求職者が増えていることが挙げられる。その点、ハイブリッドワークを導入している企業であれば、不要な出社を避けつつも、効率的に業務を進められるため、求職者にとって魅力的に感じることだろう。(2)多様な働き方ができる
「ハイブリッドワーク」では、テレワークとオフィスワーク、どちらか一方だけを押しつけるのではなく、従業員の志向に任せて働き方を決めてもらう。従業員は、業務の内容によって、テレワークとオフィスワークを使い分けることが可能なのだ。こうした多様な働き方を企業が提供することで、遠方への移住や家庭の事情などを理由とする「従業員の離職」を抑える効果が期待できる。(3)従業員に主体性が芽生える
「ハイブリッドワーク」を行う際、従業員は業務の内容や自身の状況などに応じて、テレワークかオフィスワークかを自主的に選ぶ。従業員はどちらの働き方をするのか、自分で選ぶことで「働くことに対する主体性」が芽生えてくる。企業にとっても、主体性を持ち、自分の頭で考える従業員は大きな戦力になるだろう。(4)生産性の向上につながる
テレワークとオフィスワーク、効率のいい働き方は業務内容によって異なる。例えば、一人で黙々と行う事務作業はテレワークのほうが効率的なことが多いだろう。頻繁なコミュニケーションを伴う業務であればオフィスで働いたほうが効率的だ。また業務の効率性は、従業員の性格や作業環境にも左右される。例えば、「自宅では集中できない」、「家族がいて仕事がしづらい」という人は事務作業であってもオフィスワークのほうが効率はいいかもしれない。
その点、「ハイブリッドワーク」であれば、業務内容や自身の状況に応じて、2つの働き方を使い分けられる。結果として従業員の仕事の効率は上がり、延いては企業の生産性の向上にもつながっていく。
(5)柔軟性のあるオフィスを構築できる
テレワークをする従業員が増えれば、その分オフィスのスペースが空くため、オフィスを柔軟に構築できるようになる。例えばスペースが空いた分、フリースペースや打ち合せスペースの拡張をしてもいいかもしれない。こうした柔軟性のあるオフィスの構築により、オフィスワークをする従業員はより快適に仕事ができるようになる。そして、快適なオフィス環境は従業員の生産性や満足度の向上にもつながるだろう。(6)円滑にコミュニケーションを取ることができる
「テレワークのみ」もしくは「オフィスワークのみ」の働き方よりも、「ハイブリッドワーク」では適度な距離感を保てるため、コミュニケーションが取りやすいという人もいるだろう。テレワークでテキストベースの連絡をしつつ、オフィスワークでは顔を合わせて話をすることで、より円滑なコミュニケーションが実現されるのだ。そして、円滑なコミュニケーションが増えれば、社内の雰囲気がより良くなり、延いては生産性向上にもプラスに働くことだろう。
(7)従業員満足度の向上
テレワーク派とオフィスワーク派、どちらのニーズも満たしてくれるのが「ハイブリッドワーク」だ。柔軟な働き方ができるハイブリッドワークは、従業員の「働きやすさ向上」に寄与し、その結果、従業員満足度も向上する。企業にとっては、従業員満足度が向上すれば、人材の流出阻止や生産性の向上などのメリットが期待されるだろう。「ハイブリッドワーク」で直面しやすい課題とは
様々なメリットがある「ハイブリッドワーク」だが、一方で抱えやすい課題もある。ここではハイブリッドワークの導入により直面しやすい課題を5つ解説する。●出社前提のコミュニケーションが難しい
「ハイブリッドワーク」は“出社を前提にしたコミュニケーション”では、上手くいかないケースがある。テレワークをしている従業員は、オフィスの出来事・状況を把握することができないからだ。例えば、備品の使用ルールに変更があった場合、テレワークをしている人は実物を確認できないため、上手く把握しきれない部分が出てきてしまう。
そのため、ハイブリッドワークにおけるコミュニケーションは、備品の使用ルール変更の例でいうと「動画を撮って共有する」といった出社前提ではなく、テレワークをしている従業員に合わせたほうが全員の理解を深めることにつながるだろう。
●社員の勤怠管理が難しい
テレワークとオフィスワークが組み合わされる「ハイブリッドワーク」は、勤怠管理が煩雑になりがちだ。そのため、本格的にハイブリッドワークを導入する場合には、勤怠管理ツールや社内SNSなどの活用を検討したほうがいいだろう。●突発的な業務の対応が難しい
担当者がテレワークで出社していない日に緊急の連絡が入ったり、突発的なアクシデントが発生したりした場合、対応が難しい場合も想定される。例えばシステムトラブルが起きた場合、経験豊富な担当者がこぞってオフィスに不在だと、システム復旧が難しい、もしくは普及まで時間がかかってしまうかもしれない。そのため、「ハイブリッドワーク」では、“もしものとき”にも対応できるような体制や仕組みを構築しておくことが求められる。●評価制度に不公平さが生まれるリスクも
管理職にとって、働きぶりが見えにくいテレワーク派の部下は、働きぶりが見えやすいオフィスワーク派の部下よりも評価をつけにくく、その結果前者は評価が低くなってしまうリスクがある。あまりにも評価の差が大きいと、テレワーク派が減り、「ハイブリッドワーク」が形骸化してしまうかもしれない。そのため、テレワークでも仕事の進捗を共有できるツールを活用といったような働きぶりを可視化する工夫が求められる。●従業員の二極化を招く恐れも
「ハイブリッドワーク」は、テレワーク派とオフィスワーク派の二極化を招く恐れがある。例えば、オフィスワーク派のほうが「業務の進捗を把握するスピードが早い」、「緊急時にも対応をお願いできる」などの理由から、業務の権限が集まりやすくなる可能性がある。また、コミュニケーション面において、オフィスワーク派のなかにテレワーク派がなかなか入れない、ということも起こるかもしれない。
従業員の二極化を防ぐためには、全員参加を義務づけたWeb会議を開催して、従業員同士の情報格差をなるべくなくすといったテレワーク派にも配慮した仕組み作りが求められる。
「ハイブリッドワーク」を導入するうえで知っておきたいポイント
企業が「ハイブリッドワーク」を導入するうえで事前に知っておきたい4つのポイントを解説していく。(1)従業員が働きやすい環境を整備する
従業員の視点から見た「働きやすい環境」を整備するようにしよう。効率的に業務を進めるために必要なツールは何か、業務報告の仕方や会議のルールはどうするかなど、細かい点まで従業員のニーズを拾い上げて詰めることが大切だ。そのためにも管理職同士だけでなく、従業員と徹底的に話し合うようにしよう。(2)ルールを細かく決めすぎない
ルールを細かく決めすぎると、従業員の働きにくさにつながったり、業務効率が落ちてしまったりする。特に出社日数に関しては、細かく「週2日は出社しなければならない」といったような決まりを設けてしまうと、“業務内容に応じてテレワークとオフィスワークを使い分けられる”という「ハイブリッドワーク」のメリットが活かしきれない恐れがある。(3)セキュリティの意識を高める
カフェやコワーキングスペースなど様々な環境で働く可能性のあるテレワークでは、セキュリティの意識が不可欠だ。例えばカフェで利用できるWi-Fiのなかにはセキュリティの低いものがあり、また第三者にパソコンの画面を覗かれるリスクもある。こうしたリスクを低減するためにも、従業員がセキュリティの意識を高められる周知・取り組みを事前にしておくことが重要だ。(4)緊急時の代替手段を用意しておく
テレワークをする従業員が多くなると、緊急時の対応ができないもしくは対応に時間がかかってしまう場合がある。例えば受注対応ひとつとっても、担当者がオフィスに出社していないがために満足な対応ができず、取引チャンスを逃してしまうリスクもある。そのため、例えば受注対応の例であれば、「オフィスに十分な知識・経験を持つ従業員を常に配置しておき、いざとなったらその人が対応できるようにしておく」といったような緊急時の代替手段を用意しておくようにしよう。同時に、ハイブリッドワークの導入には従業員らの協力が欠かせない。ルール決めや緊急時の代替手段など、従業員と相談すべき事案がたくさんあるからだ。ハイブリッドワークは従業員と一緒につくっていくものである。ハイブリッドワークを導入する際は、人事担当者はなるべく多くの従業員と話し合い、意見を吸い上げ、自社の業務内容や特徴に合ったスタイルを構築してみてはいかがだろうか。
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