ビジネス環境の変化のスピードは、パンデミックによってさらに加速した。より不確実で将来の予測が困難な時代において、ビジネスリーダーの役割はますます大きくなっている。そのなかで、MSC/DDIは世界規模のリーダー調査「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2021」を実施した。

変化や危機にさらされるリーダーは、以前よりも不安定な状態にある。特に、このような状況の真っ只中に昇進した、移行期にあるリーダーはより深刻な課題を抱えがちだといえよう。そのようなリーダーに対して、組織はどのような支援をすべきだろうか。

今回は、日本におけるGLF調査を主体となって行ったMSCのコンサルタントである松榮氏、田上氏、梅村氏にインタビューを実施。GLF2021からのデータや示唆、コンサルタントとして日々企業と接する中での意見など、様々なことを伺った。

プロフィール


  • 松榮 英史 氏

    株式会社マネジメントサービスセンター
    チーフ コンサルタント 松榮 英史 氏

    早稲田大学法学部卒。広告代理店に勤務後、Webマーケティングの分野で独立。中小企業診断士の資格を取得し、企業の経営革新に関するコンサルティングを提供。MSCにて、15年に渡り5,000人以上のビジネスパーソンの能力診断に従事。培ったヒューマンアセスメントやフィードバックの技術を活かして内省を深める1on1セッションを提供し、リーダーのウェルビーイングな能力開発を支援している。Hogan Assessment 認定資格者。

  • 田上 あやの 氏

    株式会社マネジメントサービスセンター
    コンサルタント 田上 あやの 氏

    北海道大学卒業後、外資系製薬会社に勤務。前職では、医薬情報担当者(MR)、営業力強化支援、マネジメント職を経験し、戦略立案・人材育成など組織運営に従事。MSCでは、主にヒューマンアセスメント・トレーニングを担当。企業が求める人材像を理解し、人の強みや能力の幅を広げることで、各企業の課題解決に繋がる人材育成のサポートに情熱を注いでいる。MBA修了。Hogan Assessment 認定資格者。

  • 梅村 幸一郎 氏

    株式会社マネジメントサービスセンター
    コンサルタント 梅村 幸一郎 氏

    東京大学卒業後、国土交通省に勤務。前職では、数多くの公共事業のプロジェクトマネジメントに従事。管理職を通算8年経験し、うち2年は約110名を率いるトップとして現場を指揮。新人や管理職育成等の人事業務に従事。また、配偶者の海外転勤に伴い休職し、その間主夫と学生を経験しMBAを取得。多様な人材と協働することの大切さを実感し、主に管理職のサポートに力を注いでいる。

MSCコンサルタント3名・寺澤TOP

世界中のCEOを悩ませる「次世代リーダーの育成」

寺澤 今回、世界規模のリーダー調査「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト2021」(以下、GLF)と、「GLF2021 リーダーシップ・トランジション・レポート」の内容から、お話を伺っていきたいと思います。まずは、GLFの概要についてご説明いただけますでしょうか。

梅村 GLFは、弊社のパートナー企業であるDDI社が1999年から実施している世界規模のリーダーシップ調査です。今回で9回目の開催になるGLF2021では世界50カ国以上、1,742の組織、15,787人のリーダー、2,102人の人事担当者を調査しております。日本ではMSCが主体となって実施しており、今回1,043人のリーダー、89人の人事担当者にご協力をいただきました。

田上 調査を実施したのは2020年2月~7月頃ですので、まさに新型コロナウイルス感染拡大のなかで回答を得ることになりました。

寺澤 レポートを拝見すると、世界中のCEOを悩ませる人材の問題として、「次世代リーダーの育成」が55%でトップでした。これには、どのような背景が考えられますか。

梅村 3年後はおろか、1年後の状況も見えず、これまでの成功事例が通用しなくなるなか、この状況を打開して会社を成長させていくには、これまでと同じようなリーダーだけでは、太刀打ちできないと考えているCEOが多いのではないでしょうか。従来にないタイプのリーダーを育成することに、難しさを感じているのではないかと思います。

松榮 現在はリーダーが自然と育っていけるような環境ではなくなってきていて、そんななか、「リーダーを育てられるリーダー」が少ないということが露呈してきたのだと思います。GLFにも「人材育成に優れているリーダーは3人に1人のみ」というデータがあります。リーダーを育成できるリーダーをいかに育てるのか、これがCEOの一番の課題だと考えられます。
松榮様

リーダー人材の供給不足の背景にある、深刻な課題

寺澤 続いて、「リーダーの質に関するギャップ」について伺います。「自社のリーダーの質が高い」と評価するリーダーは48%に対して、人事担当者は28%であり、リーダー自身の評価と人事担当者の評価に大きなギャップが見られました。なぜ、このようなギャップが見られたのでしょうか。

田上 調査を実施した時期がパンデミックの最中だったことも理由の一つだと考えられます。これまでにない危機に直面し、リーダーは第一線で踏ん張って対応を続けていました。その結果、自己評価が高まったのではないでしょうか。求められるスキルへの対応不足を感じていたリーダーもいますが、目の前の変化に対応しているという肯定感があったのだと思います。一方、人事担当者は長期的な視点でリーダーを評価しており、将来的な課題や環境の変化に対応するスキルが不足していると見て、評価が低くなったと考えられます。

寺澤 リーダーの質に対する懸念と同様、リーダー人材の不足度は、世界的に高まっているようですね。GLF2021では「優れたリーダーの供給体制がある」と回答した人事担当者の割合は、グローバルで11%、日本では何と0%と、人材の供給体制は過去最低を更新しました。こちらについては、どのように感じていらっしゃいますか。

梅村 供給サイドの課題としては大きく2つあると考えられます。ひとつは、「リーダーをどう体系的・戦略的に育てていけばいいのか分からない」ということ。もうひとつは、「単純に手が回らない」ということです。短期的な効率化や生産性が求められると、長期的に生産性を高めることのできる人材育成は後回しにならざるをえません。また、人事評価においても、業績に対する評価と比較すると、人材育成に対する評価は、そのウエイトが圧倒的に低いのが現状です。これでは、需要と供給とのギャップは開くばかりだと思います。

松榮 リーダーの過酷な働き方や疲弊している姿を間近で見て、「リーダーになりたいと思えない」と感じている人も増えているのではないでしょうか。そういった人々の意識の変化も、供給体制の不足に反映されているのかもしれません。

寺澤 疲弊という言葉が出ましたが、「燃え尽き症候群」の課題も、GLF2021では重要な所見として挙げられていましたね。1,000人以上のハイポテンシャル人材を対象にした調査によると、86%が就業後に疲れを感じていると回答しており、これは過去1年間で27%も上昇しているということでした。
田上様

この後、下記のトピックが続きます。
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●リーダーに心配される「燃え尽き症候群」解決の鍵は「共感力」にあり
●リーダー職への移行に伴う「3つの揺らぎ」をピンポイントで支援する
●企業が求めるリーダー人材を見極めるために「アセスメント」が有用
●「ありたい姿」と「求められる人材像」が重なり合うところに、能力開発のテーマを置く
●リテンション人材の早期発見に役立つ「Early Identifier®」について

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