これまでもご紹介したように、近年は転職率が高くなってきており、転職者の数も増えています。最近では、「転職はごく普通のこと」となりつつあるようです。一方で、転職で気になるキーワードのひとつが「転職回数」。転職回数が多いと、なぜかダメな気がしないでしょうか。欧米企業では、転職と同時にキャリアアップしていくのが当たり前の風潮で、転職回数は多くても問題はないと聞きます。そこで、今回は転職回数に対する「企業の本音」と「転職回数にまつわる考え方の背景」について考えてみます。
人事が語る転職のウラ側:気になる転職回数、「採用側の本音」は?【57】

転職回数は「何回まで」ならOK?

マイナビが発表した「転職動向調査 2021年版(※)」によれば、2020年に転職した1,500名のうち、「転職経験回数1回」は全体の27.2%、「2回」は20%、「3回」は16.6%でした。2018年の調査結果と比較すると、「転職回数3回」が12.6%から16.6%に増えており、「4回以上」も30%程度から40%程度まで増加しています。つまり、年々少しずつ転職者の転職回数が増えているということです。

また、年齢が上がるにつれ、もちろん転職回数は増えていきます。同調査によれば、20代は男女ともに「転職回数1回」が40~50%程度、「2回」が25%程度ですが、30代になると「転職回数3回以上」が約半数を占めます。この実態から察するに、現在、転職市場にいる人は、少なくとも1~2回以上の転職を経験している可能性が高いと言えます。

転職経験者の転職回数が増えているということは、中途採用で30代以上の人を採用しようとすると、必然的に「転職回数3回以上の人材を採用する可能性がある」と認識する必要があります。

一方で、企業側の実際の認識はどうでしょうか。

大手上場企業の人事担当者であれば、「採用するなら大手企業出身で、できれば転職回数が少ない方がいい」という認識を持つ人がまだまだ多いように思えます。そしてベンチャー企業でも、メガベンチャーでは「わりと転職回数を気にする」のではないでしょうか。特にやりがいを大切にするベンチャー企業では、転職回数が多い人材に対して「何をしたいのか分からない人」、「キャリアの軸がない人」というイメージを抱く場合もあるような気がします。

世間的には転職回数の多い人が増えているものの、企業側の理想は「転職回数が少ない人」をまだまだ求めているということです。

では、実際に転職回数は何回までOKなのでしょうか。私の感覚としては、20代であれば初めての転職、30代であれば2~3回目の転職だと印象が良いように思えます。30代で初めての転職であれば、なぜかかなり印象がよくなります。30代なら2回目の転職でも全く問題ありません。

それが転職回数4回以上、5回以上になると、急に印象が悪くなります。5~6回以上だと、企業によっては「要注意人物」として書類選考で落とされる場合も少なくありません。

現時点では、年齢に限らず「転職回数2~3回」が最もイメージが良いと思われます。しかし、現実は「転職回数が少ない転職者」と出会うことが年々難しくなってきているのではないでしょうか。

転職回数が多いと何がダメなのか?

では、「転職回数が多いとなぜダメなのか」を探ってみましょう。

例えば、30代で4回以上の転職を経験している人をイメージしてみましょう。35歳なら社会人歴は12年程度と予想され、4回の転職経験がある場合、平均すると1社あたり3年間の在籍年数になります。5回の転職経験なら、1社あたり2~3年程度の在籍年数になるはずです。

2~3年で会社を辞めるのは、なぜダメなのでしょうか。例えば、「2~3年在籍する間に高い成果を出し、次の成長のチャンスを求めて転職をする人」であればどうでしょうか。

「転職回数が多い人」を採用しない理由のうち、最も多いのは「早期離職を警戒して採用しない」という理由だと思います。採用担当者が「ウチに入社しても、すぐ辞めるなら採用したくない」と考えるのは当然のことでもあります。たしかにコスト視点で考えると、採用一人当たりの採用費や教育訓練費は少なくとも100万円以上です。早期離職すれば、その100万円のコストが無駄になってしまいます。

一方で、もし仮にその転職者が2~3年で離職してしまっても、在籍期間中に100万円以上の高い成果を残したなら、コストはゼロになるとも考えられるでしょう。しかし、こうした将来的な投資視点で考えるよりも、早期離職のリスクを回避することを優先するのが日本企業なのです。

また、転職回数をどう捉えるかは、日本人の「美徳」意識があるように思えます。日本語に「一所懸命」という言葉があるように、日本人にはひとつの物事に対して真剣に取り組むことをよしとする文化があるのではないでしょうか。

また、実は採用担当者自身が「あまり転職を経験していない」というパターンもあるでしょう。担当者本人の転職回数が少ない、あるいは転職経験がない場合、転職回数が多い人に対して「何か怪しいのではないか?」と思ってしまうこともありそうです。これは、長年「新卒一括採用」を続けてきた日本企業に多い傾向と言えます。

さらには、転職者と企業人事との「時間感覚のずれ」もあり得ます。転職を複数回経験している場合、2回目以降は「早く新しい環境に慣れる」術を身に着けている人もいます。新入社員が物事を覚えるのに1年かかるところを、転職者であれば3~6ヵ月程度で仕事に慣れ、早ければ6ヵ月目ですでに何らかの成果を出している場合もあるのではないでしょうか。

人事担当者は「一般的に組織内で成果を出すには2~3年はかかる」と考えがちです。その一方で、「すぐに結果を出せる」即戦力を求めているという矛盾もあります。

実際のところ、“転職回数が多いとなぜダメなのか”ということに明確な理由はなく、「またすぐ辞めるかもしれないし、何かダメな気がする」という懸念を払拭したいのが本当のところではないでしょうか。

「転職回数」にこだわらない採用を

冒頭でご紹介したように、中途採用をしようと思うと、1~2回の転職経験がある志望者と出会います。そして、おそらく年々、少しずつ転職者の転職回数は増えていくでしょう。転職回数がゼロで「経歴がクリーン」な人にこだわって採用しようとすると、どこかの企業に所属している「転職未経験者」を採用するしかありません。

転職経験があっても、これまでに豊富な実績がある人ならば、採用しても問題ないのではないでしょうか。もちろん人それぞれではありますが、転職経験の多い人は、少なくとも「新しい環境に自ら飛び込める人」であるのは間違いないでしょう。

また、「ウチで採用してもすぐ辞めてしまうかも」という考え方はやめるべきです。そうではなく、「転職してキャリアアップをしている人がウチに定着するにはどうすればいいのか」を考えるべきではないでしょうか。

現代社会は働き方が大きく変化しています。個人が会社を選ぶ時代になりつつあるのは、みなさんもご存知ではないでしょうか。どうすれば「選ばれる会社」になり、どうすれば「良い人材が長く定着するのか」を真剣に考えるべき時代に突入しているのです。

時代の変化に対して感度が高い企業では、すでに今後を見据えて、優秀人材が定着する仕組みに力を入れ始めています。転職が一般的になりつつある現代社会の中で、人事担当者は「転職回数が多いとなぜダメなのか、本当にダメなのか」を今一度考えてみるべきではないでしょうか。
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