「就業規則」とは
「就業規則」は、労働基準法第89条に「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、一定の事項について就業規則を作成し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない」と記されています。「就業規則」には必ず記載しなればならない“絶対的記載事項”があり、簡単に説明すると、以下の3つが“絶対的記載事項”にあたります。1.始業及び就業の時刻、休憩時間、休日
2.賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切、支払の時期、昇給に関する事項
3.退職に関する事項
これらは、“記載する事項”がどのような内容でも良いのかというと、そうではありません。労働基準法第1条に「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」と記されています。結局、「労働基準法を守りなさい」ということになるのです。
では、従業員が10人未満の企業はどうでしょうか。実はこの場合、労働基準法に沿って作成しなくても良いことになっています。しかし従業員を雇用すると、労働基準法第15条に「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と記されているので、「就業規則」の“絶対的記載事項”と同等の内容を労働契約書などの書面にて通知しなければなりません。そうしたことから、従業員が10人未満の企業も「就業規則」を作成したほうがスムーズだといえます。
また、作成した「就業規則」は労働基準監督署に提出しなければなりません。その際、労働基準法第90条には「労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。」と記されています。
では仮に、従業員に意見を聞いた際に「反対意見を言われた場合」はどうすれば良いのでしょうか。例として、地裁判例を見ていきましょう。
非効力要件説の場合
・意見聴取は労働者の意見尊重のための手続であって、労働者に対してその意見を陳述しうる機会と余裕を与えれば足りる(長崎地三八・八・二七)
有効力要件説の場合
・作成および実施に関する手続に違反した就業規則も罰則の問題が生ずるだけでその効力には影響がない(東京地三七・三・一二)
・従業員に意見表明のための機会を与えてあれば、労基署への届出がない就業規則も有効(東京地五二・一二・二三)
上記判例は非常に重要です。特に、有効力用件説の場合は「従業員への意見を聞いていないと無効である」との裏付けにもなります。
「就業規則」と“労使間トラブル”の関連性
“意外”と思われるかもしれませんが、会社と従業員がトラブルとなった企業は「就業規則」が整備されている企業が多いです。では、なぜ「就業規則」が整備されているのに、会社と従業員がトラブルになるのでしょうか。それは、多くの企業の「就業規則」が「労働基準法」を真似て作成しているだけの場合が多いからです。「労働基準法」は会社が従業員を雇用する際の大きなルール(基本となる規則)を決めています。例えば、「1日は8時間労働」、「週の労働時間は40時間」や「1日8時間超えは残業手当発生」、「有給休暇を与える」などです。しかし実際の現場では、「勤務不良の従業員がいる」、「秘密が漏洩した」、「従業員の突然の休職」、「変則的な労働シフト」など様々なシーンや出来事があります。こういった場合、どのように対応をすればよいかを「具体的に記載した就業規則」は実際、多くありません。そして、このような具体的事案が発生した際の会社の対応に対し、従業員からは「聞いていない、知らない」という不満が出て問題へと発展していきます。
「就業規則」は、会社の「法律書」になります。「労働基準法」で記されている内容はもちろんですが、会社が従業員に求めるルールをあらかじめ決めておき、それを事前に従業員に伝えることがトラブルを未然に防ぐ手立てとなります。「就業規則が会社を守る」のではなく、「会社のルールをより具体的に記載した就業規則を従業員に開示する」ことが「就業規則の本来の役割」だということを覚えておきましょう。
真田直和社会保険労務士事務所 代表
- 1