障がい者雇用を進めていくときに活用したいのが、障がい者雇用に関わる支援機関です。しかし、障がい者雇用に関わるサポート機関は複数あるため、それぞれの機関の違いや、どのように活用できるのかわかりにくいという声をよくお聞きします。そこで障がい者雇用で活用できるサポート機関の種類や役割、サービス内容について、5回に分けて解説してきました。最終回の5回目は、「障がい者の訓練機関である障害者職業能力開発校、特別支援学校」について見ていきます。
企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【5】障害者職業能力開発校、特別支援学校を活用する

「障害者職業能力開発校」を活用する

障がい者の職業訓練の場として就労移行支援事業所が増えています。「障害者職業能力開発校」も全国各地に設置されている訓練機関のうちのひとつです。では、「障害者職業能力開発校」とはどのような機関なのか、何を学べるのかについて見ていきます。

●障害者職業能力開発校の目的

「障害者職業能力開発校」は、障がい者の適性にあった「普通職業訓練」や「高度職業訓練」を行うための公共職業能力開発施設です。「職業能力開発促進法」の第16条に基づき、国および、都道府県が設置しています。

障害者職業能力開発校は、国立が13校、都道府県立が6校で、全国に19校が設置されていますが、国立の13校のうち2校は独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構、11校は都道府県が運営を委託されています。障害者職業能力開発校は、略称で「能開校(のうかいこう)」と呼ばれることもあります。
企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【5】障害者職業能力開発校、特別支援学校を活用する
なお、独立行政法人高齢・障害者・求職者雇用支援機構が運営する国立職業リハビリテーションセンター(略称「国リハ」)は、「障害者雇用促進法」に基づく「中央広域障害者職業センター」と、「職業能力開発促進法」に基づく「中央障害者職業能力開発校」の2つの側面をもっています。

国リハでは、学校とともに宿舎も準備されており、職業訓練とともに生活支援が行われており、修了後は独立した生活をするための訓練も行っています。

●障害者職業能力開発校で学べること

ITを活用する専門的な技術を取得したい人にはCAD技術やWebデザインなど、事務職を目指す人には、OA事務や経営事務、医療事務などを学べるコースを設置しています。また、パンやお菓子作り、園芸、機械・建築関係といった内容を学べるコースを設置している学校もあります。

訓練科目はそれぞれの学校によって異なりますので、詳細については、それぞれの学校のホームページやパンフレットで確認してください。例えば、東京障害者職業能力開発校では、次のような科が設けられています。

【東京障害者職業能力開発校に設置されているコース】
<3ヵ月間コース>
・就業支援科

<6ヵ月間コース>
・職域開発科
・調理・清掃サービス科
・オフィスワーク科

<1年間コース>
・ビジネスアプリ開発科
・ビジネス総合事務科
・グラフィックDTP科
・ものづくり技術科
・建築CAD科
・製パン科
・実務作業科
・OA実務科

●企業が採用を考えるときにおさえておきたいポイント

企業の人事担当者が、障がい者が学んでいるコースを見てから採用を考えたいと思ったら、まずは能力開発校の見学をしてみるのがよいでしょう。どのようなことを学んでいるのか、どのような学生がいるのかを見ることができます。

能力開発校が掲げる目標は、「障がいのある学生が卒業後に社会に出ていくこと」です。そのため、障がい者雇用に取り組んでいる企業の採用には協力してくれるケースが多くあります。実際に、採用を検討するのであれば、校内求人企業説明会に参加したり、仕事の切り出し方やマッチングの相談、職場実習などを依頼したりすることもできるでしょう。

ただし、注意しておきたいのが「採用時期」についてです。能力開発校側は、障がいを持つ学生がコースを修了する時期を就職時期として希望します。ですので、企業側が設定している採用予定時期が、コース修了時と合わせられるかどうかを検討しておく必要があります。例えば、先に挙げた「1年コース」の場合、学生は3月卒業となります。もし、企業側が年度途中での採用を考えていた場合には、学校側と事前に調整しておくことが必要です。

また、採用すると決まった場合は、「就職後の定着支援」はどのようにフォローするのか、といった点についても、企業と学校の間で事前に確認しておくとよいでしょう。

「特別支援学校」を活用する

「特別支援学校」は、「学校教育法」の改正によってできた学校です。2007年3月まで盲学校、聾学校、養護学校に区分されていた制度が一本化され、これとともに「特別支援教育」がスタートしたのです(法改正前までの呼称「盲学校」、「聾学校」、「養護学校」が同じ名称になり、地域によっては、学校名が重複することから「養護学校」という呼び名のままにしている場合もあります)。

特別支援教育は、障がいのあるすべての子どもを対象とするものです。従来の「特殊教育」が、障がいの種類や程度に応じて特別な場で手厚い教育を行うことに重点を置いていたのに対し、特別支援教育は「障がいのある子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じた支援を行うこと」を重視しています。

●特別支援学校からの就職率

特別支援学校には、幼稚部、小学部、中学部、高等部があり、それぞれに準じた教育を受けながら、生活上の自立を図るための知識や能力を身につけることを目的としています。高等部からの全体の就職率は、約3割となっています。
企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【5】障害者職業能力開発校、特別支援学校を活用する
出典:文部科学省「学校基本統計」

●特別支援学校で学べること

障がいのある生徒が自立し、社会参加するために、卒業後に企業へ就労する割合は増加傾向にあります。自立や就労を意識する「障害者基本計画」に加えて、各自治体の「特別支援教育」でも、卒業後には社会に出ていくことを意識した教育が行われているからです。

例えば、東京都では特別支援教育推進計画として、2002年に東京都心身障害教育改善検討委員会が設置され、翌2003年に「これからの東京都の特別支援教育の在り方について(最終報告)」が策定されました。

これにより、軽度の知的障がいの生徒を対象とした高等部を設置することや、卒業後の就労を意識した職業教育が進められてきました。中には、高等部卒業時に就職率100%を目指す学校もあり、就職を意識した実習や授業が行われています。

ここでは、「知的障がいの特別支援学校高等部」で取り組まれている職業に関する教科や実習の内容について見ていきます(詳細については、各学校のホームページやパンフレットでご確認ください)。

【「知的障がいの特別支援学校高等部」での職業に関する教科と実習内容】
・ビルメンテナンスコース

オフィスビルのメンテナンスに関連する仕事として、清掃等に関する知識や技術、実践とともに、オフィスビルを利用する方へのマナーについても学びます。

・流通サービス・ロジスティクスコース
流通に関連する仕事として、在庫管理や販売事務に関する知識、技術及び実践、お客様に対する挨拶や接し方などのマナーについて学びます。

・食品加工コース
飲食店での調理、接客に関連する仕事に関する知識、技術、そして、レストランといった飲食店を利用する方への挨拶や接し方などのマナーについて学びます。

・介護・コミュニケーションコース
福祉施設やホテルでの介護・接遇に関連する配膳や居室清掃、ベッドメイキングなどに関する知識と介護技術について学びます。

・事務・OAコース
事務・オフィスワークに関連するパソコン入力や印刷業務、名刺やチラシの作成など、事務やオフィスワークに関する知識やスキルについて学びます。

●企業が特別支援学校からの採用を考えるとき、おさえておきたいポイント

特別支援学校からの採用を考えているのであれば、学校の見学などに行き、直接学生の様子を見ておくとともに、企業向けの就労を担当する進路担当の先生と連絡を取るようにしてください。

特別支援学校からの採用は、「企業実習」を通して行われることがほとんどです。数回の面接といった短い時間だけで採用を決めるのではなく、「実際に仕事をする様子」を一定期間見て採用を決めることができます。

企業実習は、高校卒業年次の3年生だけでなく、2年生から実施していることも多いです。1つの企業の実習に、年次が変わった同じ生徒が参加する(同じ生徒が複数回実習を受ける)場合もあります。また、企業実習は春・秋の2回、各10日間程度実施されることが多いので、学校のスケジュールと企業側の採用希望時期を合致させるためにも、早めにコンタクトとっておくことをおすすめします。

就労後の定着支援は、学校や地域によって若干異なりますが、1~3年程度のフォローが多くなっています。採用する場合には、いつまで定着支援を学校が行なうのかを確認するとよいでしょう。
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