さらなる「環境変化」と「未来志向」への移行
大手人事コンサルティング会社のマーサー社が発表した「2020年 グローバル人材動向調査」によれば、2020年はテクノロジーと従業員の健康維持が重視された年でした。意外にもテクノロジーによる変革であるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、海外でも進んではおらず、マーサー社の調査によれば「5社のうち2社がデジタル化に成功した程度」だったそうです。一方で、経営者の従業員に対する関心事項のトップ3は「健康とウェルビーイングの支援」、「職場でのデジタル体験への期待」、「職場での自動化」でした。同時に、「今後の不況への対応策」として採用したい戦略トップ3が、「戦略的パートナーシップの拡大」、「柔軟な人員配置モデルの活用」、「AIと自動化」です。経営者は先行きが不透明な経済環境に対して、従業員の健康を守りつつも、デジタル化を通じてなるべく人を抱え込まない組織づくりを考えているようです。
こうした世界的なトレンドの中、2021年は日本企業で3つのキーワードが重視されると考えられます。
・海外拠点のデジタル化
昨年の新型コロナウイルス対応で、大企業の日本本社ではIT投資が一服。今度は海外拠点とスムーズにコミュニケーションをとるための投資が進んでいくと考えられます。また、経済が停滞しているこの状況をチャンスとばかりに、体力のある企業では組織再編を進める可能性が高いでしょう。海外拠点を多く抱えるメーカーでは、人員削減を行って、工場の自動化や営業拠点のオンライン対応を進める企業も増えるはずです。
特に昨年からの海外渡航制限の状況で、日本企業では海外の顧客に対してオンラインで商談するノウハウがたまってきたと聞きます。わざわざ現地で増員をしなくとも、日本から営業支援を行うことも可能になりつつあります。グローバル企業では、「デジタル化や自動化」と「人員削減」に着手するのが今年2021年になるのではないでしょうか。
・SDGsとESG
先ほどご紹介したマーサー社の調査では、従業員のうち3人に1人が「すべてのステークホルダーに対する責任を表明している組織で働くこと」を好むと回答しています。機関投資家も、ESGの取り組みに積極的な企業へ投資する姿勢を打ち出してきています。こうした「企業へ社会的責任を求めるグローバルスタンダード」を背景に、海外ではSDGsとESGの取り組みが活発化すると考えられるでしょう。特に引き続き懸念が続く新型コロナウイルスの影響下では、従業員を大切にする姿勢や社会貢献の取り組みに高い注目が集まると考えられます。
・「エクスペリエンス」の加速
世界的な経済活動停滞により、大幅な賃上げが見込めない状況が続くと予想されます。こうした状況では賃金が高い企業だけではなく、福利厚生費を含めた総合的な企業の待遇の良さで従業員の会社選びが決まります。マーサー社の調査でも、従業員のうち2人に1人が「責任ある報酬を提供」し、「従業員の健康や資産を守る」組織で働くことを望んでいます。賃上げが難しいのであれば、従業員の「エクスペリエンス」を高め、職場環境や賃金以外の待遇を改善するべきです。今年は総合的な従業員満足度を上げられる企業が、従業員から選ばれることになるでしょう。
目まぐるしい変化に対応すべく「現地化」が加速
昨年6月、ある日系大手企業のアメリカ現地法人社長と、オンラインで話をする機会がありました。日本で緊急事態宣言が出される中、アメリカではロックダウンが続いている状況で、事業運営ができないと話していました。そのため社長は、数千名いた従業員を解雇して、200名程度まで減らしました。しかし、この人員削減の稟議を通すために、日本の本社との調整が非常に難航したそうです。そもそも「解雇」という考え方が主流ではない日本企業にとっては、訴訟リスクを抑えるためにも「解雇は避けたい」という思惑が働くのです。また、日本の本社には現地の状況をリアルタイムで実感できないため、結果として事業継続が危ぶまれる危機的状況の中でも、こうした大胆な決断が遅れてしまうことがよくあります。
現在、新型コロナウイルスの影響は国ごとに異なる状況です。いちいち日本の本社が判断していては、決断が間に合わないでしょう。そこで、2021年はさらなる現地化が進んでいくと考えられます。地域によっては、中国のように経済が急に回復する場合もあるはずです。そうした変化にすぐに対応するには、現地での素早い判断が欠かせません。
また、そもそも渡航制限が続く中では、日本から人員補充ができません。企業によってはこの機会に、現地の幹部社員への権限委譲をさらに進め、将来の役員候補として育成する取り組みも出てくるのではないでしょうか。
世界中が「採用の主戦場」になる日
今年2021年、世界的なテレワークの普及が完了した後に訪れるのが、「グローバル採用」です。リモートワーク環境さえ整っていれば、世界中の優秀な人材を、現地在住のまま採用できます。特に日本ではITや機械系を中心に、理系人材が不足しているため、優秀なエンジニアをインドや東南アジア、欧米から雇うことは今後の企業の成長戦略を左右するでしょう。日本では特に「高度な設計を担える人材」や「デジタルに強い人材」が不足しているため、いち早くこうした人材を獲得するために動いた日本企業が、アフターコロナの時代を生き抜くと考えられます。今は現地在住のまま採用を行い、将来的には新型コロナウイルスの影響が落ち着いた段階で日本へ研修に来てもらう、といった採用の方法が、今後主流になる可能性は大いにあり得ます。企業は優秀な人材を確保するために、LinkedInなどのビジネスSNSを活用するシーンがさらに増えるでしょう。まさに世界中が採用の主戦場になる日が、今年訪れるのではないでしょうか。
2021年の人事領域は、これまでになかった変化が世界レベルで起こると考えられます。私も人事担当者として、日本だけではなく、視野を世界に広げて変化に対応していきたいと思います。
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