感覚経営からの脱却:「SWP」の目的は経営課題を明確にし、判断の根拠を提供すること
前述のように「出すべき成果に対して必要な要員の量・質の整合が検討されていない(わからない)状態」を放置しておくと、本来1,000人で行うべき業務でも、要員数が1,100人や900人になっていたり、1,000人丁度要員を揃えていたとしても質が合わなかったり、といった問題が起きます。そのため、誰かが量や質の不足分を補い、不幸な状況に陥っています。これまで、このような不整合を可視化して向き合うことは容易なことではありませんでした。ある日、クライアントに「感覚で経営すると、その感覚を正当化するために都合よく数字を作ってしまう。そして、数字を作ることはさほど難しくないんだよね」と言われたことがあります。このように不整合を明らかにせず、感覚に従って「このままの要員で大丈夫だろう」と結論付け、それを正当化するための説明資料を(周りの忖度を含めて)作ってしまった結果、気づいた時には従業員が疲弊しきっていた、思ったように利益が上がらない要員構造になってしまった、などのケースが散見されています。
このような不幸な状況を打破すべく、客観データ(数値・KPI)を用いて、出すべき成果に対して必要な要員・人件費の見極めと適正化を実施していくことで感覚経営からの脱却を目指す課題解決手法を、EYでは「Strategic Workforce Planning(以下、SWP)」と呼称しています。本稿を含め全3回(第29~31回)で、
(1)「SWP」の概要と実現できる世界
(2)システムと仕組み化の重要性
(3)必要人材の特定と確保手法
について紹介していきたいと思います。
見るべき指標・KPIの外観:要員数と人件費を管理セグメントごとに把握することが第一歩目
まずは、「SWP」において、「見るべき指標・KPI」とはどのようなものか、概観をお話したいと思います。第1に、部門・等級・職種など、管理セグメントごとの要員数・人件費が、把握すべき「ベースKPI」となります。これらのKPIよって業務に対して人数とコストがどの程度かかっているのかを把握することがファーストステップとしてとても大切です。次に、これらに加えて外注費を見ることで、より精緻なコストが把握できますし、セグメントごとの売上や利益などのアウトプットを掛け合わせると、生産性(1人当たり売上/売上高人件費率など)という観点で要員数と人件費の妥当性を検証することができるようになります。
ただし、このKPIだけでは「人が最適に配置され、コスト配分が適切にできているか」や「必要な人材が必要な時期に採用され、必要な売上が確保できているか」などの、経営者からの本質的な問いに対して十分に回答することはできません。そのため前述のような「ベースKPI」と合わせてさまざまな「追加KPI」を管理していくことになるのです。しかし、ここで注意して頂きたいことは、「海外と日本では、主に労働環境の違いを理由として、追加すべき指標・KPIが異なる」という点です。
例えば、海外では「ジョブ型」の組織運営が求められているため、どのポストがいつ空きそうか(退職リスク)、その空きポストに対していつ人材が補充できそうか、といった指標(採用パイプライン/成功数・率)などが代表的な指標・KPIとして挙げられます。転職前提の市場では、人材の需給がPLに大きな影響を与える要因となっているためです。
一方で、日本の労働市場の特色は「一括採用」、「終身雇用」、「職能制度」です。したがって、管理職比率や、管理スパン、直間比率など、要員構成(ピラミッド)に関する指標が重要となります。さらに、日本では「解雇規制」が存在するがゆえに、昇格や育成・配置を前提としているため、しっかりと能力が開発され、適材適所となっているかを管理していくこと――つまり「質の管理」を行う必要があります。
※「質の管理」については第31回で改めてご紹介します。
図1:適正さを見極めるためのKPI(グローバルと日本の違い)