今月は、「CQIサービス」が「HRテクノロジー大賞」の「採用サービス部門優秀賞」を受賞したことを記念して行われた、特別講演会の初日の様子をお届けします。「多様性がもたらす日本企業の革新」というテーマで、2020年8月31日~9月4日の間、5日にわたり実施した講演会。初日は、一橋大学 名誉教授の米倉誠一郎先生をゲストに迎えて対談しました。米倉先生は、一橋大学 名誉教授、法政大学大学院 教授で、日本に「イノベーション」という概念を広め、数多くのアントレプレナーを支援されてきたイノベーション研究の第一人者です。私とは10年以上のお付き合いになりますが、今から3年ほど前に、「CQIで日本をグローバル化したい」という想いを先生にぶつけ、共感いただき、エイムソウルの特別顧問にご就任いただきました。米倉先生をはじめとする専門家で研究開発チームを結成し、「CQの研究とソリューション開発」を行っています。

本対談では、日本が多様性を受け入れ発展していくために、どのような革新を遂げるべきかを議論させていただきました。
第19話:日本は「Group Think(集団浅慮)」を抜け出してイノベーションを起こす必要がある!

日本の生産性が低い理由

稲垣 米倉先生には、2019年にインドネシアで日系企業の方々や現地のアントレプレナーなど、たくさんの人にお会いいただきましたね。印象はいかがでしたか?

米倉 日本人の皆さんも、日本を離れ異文化の地で頑張っておられましたね。心からエールを送りたいと思います。そして、稲垣さんに紹介してもらったインドネシアの方々にも飛び切り優秀な人がたくさんいましたね。インドネシアの奥深さを実感しました。ただ、まずいな、と思ったのは、「優秀なインドネシア人がなかなかいない」と日本人が言うこと。これは本当に問題だと思うんです。要するに、日本人や、日本企業に合う人間、日本語ができる人間だけを集めると、真に優秀な人たちは外れてしまう。カルチュラルフィットを考えないでこっち側の問題だけを押し付けるのは、非常にまずいことだと思うんです。それを科学的にデータから調べていこうという「CQI」が大きく注目を浴びているというのは、非常に素晴らしいと思いますよ。今日は、なぜ多様性が大事なのかを考える中で、「Group Thinkを憂う」と題してお話ししていきたいと思います。

稲垣 日本は危機的な状況ですか?

米倉 日本はやはり取り残されているんですよね。1998年を「100」として、20年後の2018年にどれぐらい伸びたか、GDPを確認すると、アメリカは227%。学生達にはわかりやすく教えるために、1998年に身長100cmだった10歳児が、20年後の30歳になったとき、何cmになっているか? と例えています。アメリカ人は2m27cm、ドイツ人は1m76cm、イギリス人は1m72cm。びっくりするのは中国人で、12m95cmになっちゃう。さらに、お隣の韓国は4m45cmです。ところが、我々日本人は、たったの1m23cmですよ。これはまずくないですか? この要因のひとつとしてあげられるのが、「日本が、いかに生産性の低い働き方をしているか」ということなんです。

公益財団法人日本生産性本部が、各国の総GDPを時給換算したデータがあります。アイルランドが1位で時給100ドル以上。次いで、ルクセンブルグ・ノルウェー・ベルギー・デンマークなど、北欧の国々が上位を占めています。アメリカが6位で、ドイツが8位、フランスが11位です。オーストラリアもなんと15位です。さらに驚くのが、17位のイタリア。イタリア人があくせく働いているのはあまり見たことがないな、と思っていたのですけれど。そんな中、日本は21位ですよ。日本人って、そんな働いてないのか? というと、そんなことはないですよね。「企業戦士」たちは、毎朝満員電車に乗り込んで働きに行きますよね。では、なぜこのようなことになっているのでしょうか? やはり、「無駄な働き方」をしているんですよね。
第19話:日本は「Group Think(集団浅慮)」を抜け出してイノベーションを起こす必要がある!
稲垣 日本の生産性は、1位のアイルランドの半分以下ということですか……。

米倉 そういうことですね。なぜだろうと考えると、日本企業は内部留保を500兆円も貯めているんですが、貯め込んでいるだけで投資をしていない。何に投資してないかというと、「デジタル」です。24時間働いても疲れないデジタルを、もっと採用しなければ。この間、政府から支給された「持続化給付金」だって、「ネットで申し込んでください」と言っているのに、現場ではそれをプリントアウトして、人力で原本との確認作業をしている。まったくデジタルに投資をしてこなかったわけです。今までのやり方を“全力で”やっているだけで、全然新しい概念・考え方が入っていない。多様性からイノベーションが起きていないんです。

稲垣 あえてお聞きしますが、「多様性の効果」とはなんなのでしょうか。

米倉 僕も昭和の人間ですから、「行くぞ! みんなで徹夜だ!」といった働き方が良いことだと思っていた時代もありましたが、2016年にデイビッド・ロック氏とハイディ・グラント氏が、「ハーバードビジネスレビュー」に「Why diverse teams are smarter(多様性のあるチームはなぜ賢いのか)」という論文を書いたんです。その中に、アメリカの366のパブリックカンパニーを対象とした面白い調査がありました。人種的に多様性の高い企業の上位25%は、同業者平均よりも35%業績が高いという調査結果だったんです。女性が多いという性的多様性が高い企業の上位25%は、同業者平均より15%高い。Credit Suisseも同じようなことをやっていて、「2,400社のグローバルカンパニーで、ボードメンバーに1人でも女性が入っていると、他の入ってない業者よりも高業績だった」というデータを示しているんですね。
第19話:日本は「Group Think(集団浅慮)」を抜け出してイノベーションを起こす必要がある!
米倉 また、アメリカでは社会心理学者が、さまざまなビデオや証拠を集め、200人で本当に起きた事件の「模擬裁判」を行いました。あるチームは白人だけ6人の陪審員。別のチームは白人4人に黒人が2人。また、あるチームは女性が入っている。結果を見ると、多様性の高いチームのほうが、事実誤認が少なく、実際に下された判決に近い結果を出しました。

もっと面白い実験もありました。テキサスとシンガポールで行われた行動心理学の実験では、金融知識を同じもつ証券マンを200人ほど集めて、チームを作り、ひとつは「シンガポール人だけ」、別は「中国人・香港人が入っている」、そして、「アメリカ人も入っている」、「アメリカ人だけ」、「日本人だけ」……そういったチームで「模擬マーケット」を作って株価を推定させる。そうすると、多様性の高いチームのほうが約58%、つまり半分以上、正確な株価を当てた、といいます。この実験、面白いでしょ。

さらに、スペインの調査では4,277の研究開発部で、女性が含まれる研究開発のほうがよりラディカルなイノベーション、今までにないようなイノベーションを生み出した。イギリスの調査では、これよりももっと大規模で7,615社のうち文化的多様性、いわゆる経営陣にいろいろな人種の方々が入っているほうが、モノリシックな企業よりも新製品開発に対して新しい商品を次々出しているんです。なぜだと思いますか?

稲垣 多様性のあるチームの方が、意見が違うので議論が活発になるからですか?

米倉 その通り。事実をしっかり見て議論するんです。同じ人種の人間だけが集まったら、誰かが「こうだよね」と言うと、みな「そうだよな」と納得してしまう。ところが、違う考え方の人間がいると、「え? そうだっけ」と、一度立ち止まってみる一言が出る。

稲垣 多様性があると「形式知化する」ということですか。

米倉 そう。みなが当たり前だと思っている「暗黙知」は、考えが浅くなっていくんですよね。暗黙知で伝わる会話をしていても、違う人種、違うバックグラウンドの人間がいると、「いやいや、それ違うんじゃない?」という話が出るんです。同じような仲間と働くことは、単一的な仕事をする時には良いんですよ。ただ、ちょっと複雑なことを行う時には、「それは本当?」、「いや違うんじゃないですか?」という言葉が大事なんです。

この、「いや、それは本当?」という疑問に対して、同質性が高いチームは、心理学用語でいう「Group Think」に陥る。「Group Think」は、今では、日本語だと「集団思考」と訳されてしまうんです。しかし、やはり昔の人達は事実に対して謙虚だった。意味を読み込んで、「集団浅慮」と訳した。みんなで考えていると、思考は深まるようでいて、実は浅くなっていく。「そうだよね?」と言われて、疑いなく「そうだよね」と同意する。「これは2人で考えて一致したことだから、間違いないよね」と。でも、実はどんどん考えが浅くなっていく。日本では、知らないうちに同じような考え方、物の見方をしている人達を集めすぎてしまったんです。

その点、例えばAmazonという企業はすごいんです。今、日本のオフィスだけでも14ヵ国の人達が6,000人ぐらい働いているのですが、本社に行ってびっくりしたことがありました。プレイヤールーム(お祈りできる部屋)はもちろんありますし、寝る部屋もあるし、搾乳室まであったんです。社長のジャスパー・チャン氏に「すごいね、こういった設備があったほうが、やっぱりイノベーティブになるから?」と聞いたら、答えは簡単でした。「顧客がこれだけ多様化しているのに、会社が多様化しなくていいわけないじゃないか。日本は、女性の服を作っている会社のボードメンバーのほとんどが男。あるいは、若者のことを考えなきゃいけない研究開発チームのメンバーのほとんどが50歳のおじさん。これは、間違っているよね」と。

トム・ピーターズ氏が出した『新エクセレント・カンパニー AIに勝てる組織の条件』という本では、「少なくとも人口構成と同じぐらい、企業の役員会は多様性をもったほうがいい」といっています。これは、特にアメリカがあてはまりますね。日本の役員会も男女比率をフィフティ・フィフティくらいにしたほうがいい。そうなってくると、顧客がもっと見えるようになるんだろうなと思います。
第19話:日本は「Group Think(集団浅慮)」を抜け出してイノベーションを起こす必要がある!

転んだ人を笑うな。彼らは歩こうとしたのだ

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