障がい者雇用に関わる助成金にはいろいろな種類がありますが、障がい者を採用するときに申請できるものの多くは、特に金額や期間が長く、ぜひ活用していただきたいものです。今回は、雇用関係の助成金を中心に、「障害者トライアル雇用奨励金」と「特定求職者雇用開発助成金」の要件や助成金額について説明していきます。雇用するときに活用できる助成金は、申請する時期が決められているものがありますので、事前に確認しておくことが大切です。
障がい者を採用するときに活用できる「人に関わる助成金」について

「障害者トライアル雇用奨励金」とは

「障害者トライアル雇用」は、障がい者を試行的に雇用することで、適性や能力を見極め、継続雇用のきっかけとすることを目的とした制度です。制度を活用することにより、助成金を受けることができます。2018年4月からは、精神障がい者の試行雇用に対する助成内容が拡充され、より活用しやすくなっています。

障害者トライアル雇用を活用している企業からは、「雇用する障がい者の適性を確認したうえで継続雇用へ移行することができ、障がい者雇用への不安を解消することができる」との意見も多くあります。また、雇用する企業側だけでなく、求職者にとってもメリットがあります。

(1)対象者
「障害者の雇用の促進等に関する法律 第2条第1号」に定める「障がい者」に該当する方が対象で、障がいの原因や障がいの種類は問いません。次のいずれかの要件を満たし、「障害者トライアル雇用」を希望した方が対象となります。

・紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望している
・紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
・紹介日の前日時点で、離職している期間が6ヵ月を超えている
・重度身体障がい者、重度知的障がい者、精神障がい者


(2)受給額
支給対象者1人につき、以下の助成金が受給できます。

・対象労働者が精神障がい者の場合、月額最大8万円を3ヵ月、月額最大4万円を3ヵ月(最長6ヵ月間)
精神障がい者を雇用する場合は、月額最大8万円の助成金を受けることができます。また、精神障がい者には原則として6~12ヵ月間の「トライアル雇用期間」を設けることができます。ただし、助成金の支給対象期間は6ヵ月間に限ります。

・上記以外の場合、月額最大4万円(最長3ヵ月間)
「障害者トライアル雇用」求人を事前にハローワークといった職業紹介事業者に提出し、これらの紹介によって、対象者を原則3ヵ月の「有期雇用」で雇い入れ、一定の要件を満たした場合、助成金を受けることができます。

精神障がい者や発達障がい者で、「週20時間以上」という就業時間での勤務が難しい人を雇用する場合、「週10~20時間」の短時間の試行雇用から開始します。職場への適応状況や体調などに応じて、トライアル雇用期間中に20時間以上の就労を目指すことも可能です。このような場合には、「障害者短時間トライアル雇用」を活用することができます。

この「障害者短時間トライアル雇用」を活用する場合には、精神障がい者や発達障がい者の対象者1人当たり、月額最大4万円(最長12ヵ月間)の助成金を受けることができます。

【参考資料】
厚生労働省「障害者トライアル雇用」のご案内

「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」とは

「特定求職者雇用開発助成金」は、「高年齢者」、「障がい者」、「母子家庭の母」などの就職困難者を対象としています。ハローワークといった職業紹介事業者の紹介によって、「継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)」として雇い入れる事業主に対して支給される助成金です。ここでは、障がい者に該当する部分について見ていきます。

(1)要件
ハローワークなどの職業紹介事業者からの紹介により、「継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)」として障がい者を雇い入れる事業主に対して助成されます。以下の要件を満たすことが必要となります。

・ハローワークまたは民間の職業紹介事業者などの紹介により雇い入れること
ハローワーク以外の職業紹介事業者には、「特定地方公共団体」や「厚生労働大臣の許可を受けた有料・無料職業紹介事業者」、「届出を行った無料職業紹介事業者」、そして「無料船員職業紹介事業者(船員として雇い入れる場合)」があります。そのうち、本助成金に係る取扱いをおこなうにあたって、厚生労働省職業安定局長の定める項目のいずれにも同意する旨を労働局長に申し出て(提出)、「雇用関係給付金」に係る取扱いをおこなう旨を示す標識の交付を受け、この標識を事業所内に掲げている職業紹介事業者が含まれます。

・雇用保険一般被保険者として雇い入れ、継続して雇用することが確実であると認められること
対象労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続して雇用し、かつ、当該雇用期間が継続して2年以上であることをいいます。

また、対象事業主は、以下の要件を満たす必要があります。

●対象業主の要件
・雇用保険の適用事業主であること

・対象労働者の雇入れ日の前後6ヵ月間(以下、「基準期間」という)に事業主の都合による従業員の解雇 (勧奨退職を含む)をしていないこと

・対象労働者の雇入れ日よりも前に「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」の支給決定の対象となった者を、支給申請日の前日から過去3年間に、その助成対象期間中に事業主の都合による解雇・雇止めなどをおこなっていないこと(2018年10月1日以降に解雇・雇止めなどをした場合に限る)

・基準期間に、倒産や解雇など「特定受給資格者」となる離職理由の被保険者数が対象労働者の雇入れ日における被保険者数の6%を超えていない(「特定受給資格者」となる離職理由の被保険者が3人以下の場合を除く)こと

・対象労働者の出勤状況、および賃金の支払い状況などを明らかにする書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿など)を整備・保管し、管轄労働局長の求めに応じて提出または提示したり、管轄労働局がおこなう実地調査に協力したりするなど、助成金の支給または不支給の決定に係る審査に協力する事業主であること

・対象労働者の雇入れ日よりも前に「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」の支給決定の対象となった者のうち、雇入れ日から起算して1年を経過する日が基準期間内にある者が5人以上いる場合であって、それらの者が、確認日の時点で離職している割合が25%を超えていないこと

・対象労働者の雇入れ日よりも前に「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」の支給決定の対象となった者のうち、助成対象期間の末日の翌日から起算して1年を経過する日が基準期間内にある者が5人以上いる場合であって、それらの者が、確認日の時点で離職している割合が25%を超えていないこと

(2)受給額
「特定求職者雇用開発助成金」の受給額は、「中小企業」と「それ以外の企業」で異なります。ここで中小企業と認められるのは、次の条件に該当する場合となります。

●中小企業と認められる条件
・小売業・飲食店:資本金もしくは出資の総額が5,000万円以下または常時雇用する労働者数50人以下
・サービス業:資本金もしくは出資の総額が5,000万円以下または常時雇用する労働者数100人以下
・卸売業:資本金もしくは出資の総額が1億円以下または常時雇用する労働者数100人以下
・その他の業種:資本金もしくは出資の総額が3億円以下または常時雇用する労働者数300人以下

(a)中小企業
図1
障がい者を採用するときに活用できる「人に関わる助成金」について
(b)中小企業以外の企業
図2
障がい者を採用するときに活用できる「人に関わる助成金」について
出典:「図1」、「図2」ともに、作者が参考資料をもとに作成

【参考資料】
厚生労働省特定求職者雇用開発助成金 (特定就職困難者コース)のご案内

「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)」とは

ハローワークなどの職業紹介事業者からの紹介により、発達障がいの方、または難治性疾患の方を「常用労働者」として雇い入れる企業に対して助成するものです。発達障がい者や難治性疾患患者の雇用を促進し、職業生活上の課題を把握することを目的としています。

障がい者雇用に関する助成金の多くは「障がい者手帳」を持つことが条件となっていますが、この助成金では、「障がい者手帳を所持していない、発達障がいまたは難病をもっている人」が対象となっています。もちろん、発達障がいや難病については規定がありますが、「障がい者手帳なしで受給できる」という点を考慮して活用を検討できるかもしれません。

なお、この助成金では、企業には、雇い入れた者に対する配慮事項などについて報告することが求められます。また、雇入れから約6ヵ月ハローワーク職員などが職場訪問をおこないます。

(1)要件
「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」と同じ要件が適用されます。

(2)受給額
受給額は、中小企業と中小企業以外で異なります。
図3
障がい者を採用するときに活用できる「人に関わる助成金」について
出典:作者が参考資料をもとに作成

【参考資料】
厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・ 難治性疾患患者雇用開発コース)」のご案内
「障がい者を採用するときに申請できる助成金」について説明してきました。「特定求職者雇用開発助成金」は、金額が大きく、期間も長いため、障がい者雇用をおこなっている多くの企業で活用されているものです。ぜひ活用してください。

なお、助成金は、申請する時期が決められている場合がありますので、活用を検討される際は早めにハローワークなどに相談することをおすすめします。
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