社長のメッセージを自宅で視聴するWeb入社式が急増
新型コロナウイルスの感染拡大が企業の雇用や働き方に大きな影響を及ぼす中、4月に入社する新入社員の受け入れに関しても、入社式の中止・延期・規模縮小・分散開催や、新入社員研修の規模縮小、配属時期の変更などが相次いでいる。また、対応策として入社式や新人研修をオンライン化に切り替える企業も増えてきた。「内定者が多い企業」ランキングで毎年トップを独走するイオングループは、今年も約3,000人の新入社員を迎え入れた。本来は4月1日に本社近くの幕張メッセや全国の拠点で“国内最大級”の入社式を開き、中継をつないで社長がメッセージを伝えたり、新入社員が抱負を述べたりする予定だったが、2月下旬に延期を発表した。感染を防ぐために不特定多数が集まるイベントを早期に見直した形だ。
グループ合計約2,000人の新入社員を迎えた人材派遣大手の株式会社アウトソーシングテクノロジーは、4月1日に予定していた入社式をオンデマンド方式に切り替え、同日午後から配信を開始した。また、入社式の変更に伴い「会えなくても、一生同期だ」をテーマとした新聞広告やWeb動画を制作。「同期の顔を一度も見ることなく新しい環境に飛び込む新入社員たちに、少しでもつながりを持って欲しい」という願いが込められている。
約1,900人の新入社員を迎えたJR東日本では、4月1日に東京渋谷区の本社ビルで入社式を開催。しかし式には、社長など8人の役員だけが参加し、新入社員はインターネットで配信される映像を自宅でスマートフォン等を通じて視聴するという異例の対応を取った。同社で新入社員全員が集合しない入社式が行われたのは、東日本大震災の直後以来。新入社員は10日までは自宅などで学習を行い、その後、各職場で研修が行われる予定だという。
ソニー株式会社は、4月1日に本社で約900人を集めて行う予定だった入社式を中止し、代わって社長のスピーチをWeb配信した。また新入社員については、4月中は自宅に待機してもらうことを決めた。同社は現在、工場などを除いて原則として在宅勤務としているため、新入社員を受け入れる環境が整っていないと判断した形だ。ちなみに新入社員には、自宅待機中も給与は全額支払われるという。
オンライン形式の新入社員研修を導入する企業続々
伊藤忠商事株式会社では、新入社員全員が集まる入社式は行わず、代わりにサプライズ企画として、会長および社長がレッドカーペットを敷いた本社玄関ホールにて新入社員を一人ずつ出迎えた。その後、新入社員は配属される部門ごとに分かれ、社員証やパソコンなどを支給され、昼食後に帰宅。当面は在宅でオンライン形式の社員研修を受けるという。凸版印刷株式会社は、グループ入社式を中止するとともに、4月1日~17日までの期間、約420名の新入社員を対象に在宅オンライン型の新入社員研修を実施。従来の集合研修で蓄積したテキストをオンラインで配信するとともに、在宅研修ながら、同期社員のネットワーク構築のために、約20人に1人の割合で社員トレーナーを配置。集合研修のようなコミュニケーションを促進するプログラムとなっている。
多くの企業が入社式を中止・延期したり、オンライン化に切り替えたりする中、個別・分散型で実施に踏み切る企業もある。事務機器大手の株式会社リコーでは、密集を防ぐために、社長と個別に1分間向き合う「個別入社式」を実施。約170人の新入社員が時間差で来社し、社長から歓迎の言葉を受けながら面談を行った。
また、約400人の新入社員を迎えた生活用品大手のアイリスオーヤマ株式会社では、テレビ会議システムを利用した入社式を実施。宮城県角田市内の拠点工場にモニターを設置し、国内外の6工場に社員を分散させ、式の内容を中継した。同じくNECも、新入社員約500人を数十人ずつ、首都圏にある複数の会場に分散させて入社式を開催。社長らの訓示はWebで配信された。
コロナ危機が叫ばれる中、多くの新社会人は記念すべき春を複雑な思いで迎えることとなった。一方、企業側は、新入社員をできるだけスムースに受け入れるため、オンライン形式の研修を導入するなど、新しい手法を模索している。感染拡大が続く中、各企業ともしばらくは難しい対応が続きそうだ。
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