グローバルレベルでの人事ITシステム導入のプロジェクトにおいて、「ポリハー」という言葉を耳にします。これは「ポリシー・ハーモナイゼーション」の略で、人事制度のグローバル統合を指します。今回は、このポリハーの進め方や勘所をコンサルタントの視点からお伝えします。
グローバル人材マネジメントの実現に向けた必修科目「ポリハー」とは何か(第6回)

インテグレーション(統合)ではなく、ハーモナイゼーション(調和)

近年、クラウドの隆盛を受けて、グローバル人事ITシステムの導入が、より簡易に安価で実現できるようになり、弊社もグローバルレベルでの人事ITシステム導入に関するご相談を多くいただくようになりました。クラウド以前は、人事システムを導入するとなると、その会社独自の人事制度・人事管理をシステム内で再現しようと、多数のアドオン(追加開発)を行うのが一般的でした。そのため、多くの労力と時間が割かれていたことは記憶に新しいところでしょう。しかしながら、クラウドの登場により、「自社の制度をITシステムの仕様に合わせる」という考え方が主流となり、各国・各社で個別のシステムを構築していたところから、「グローバルで1つの統合されたシステムへ」という発想が強くなってきました。

システムを1つに統合しようとすれば、当然、人事管理の根幹となっている人事制度についてもグローバルで統合していく必要が生じます。これを「ポリシー・ハーモナイゼーション(通称「ポリハー」)」と呼んでいます。インテグレーション(統合)ではなく、ハーモナイゼーション(調和)と呼ぶのが“ポイント”です。

例えば、世界各国に80の支社を持つ企業があったとします。その場合、最大80通りの人事制度が存在する可能性があるわけです。しかし、各国・各社の状況を思えば、それを完全に1つにしようというのは、とても現実的とはいえないことが容易に想像できます。そのため、完全統合ではなく、ある程度の調和を目指していくこととなりました。これにより、その後のシステム導入や、当該システムを活用したグローバルレベルの人材管理をより効率的・効果的に実現していくことを狙うのです。

「あるべき姿・ありたい姿」は本人の意思からしか生まれない

では、どのように「ある程度の調和」を目指していくのでしょうか。とあるA社を例にとりながら、ポリシー・ハーモナイゼーション(以下、ポリハー)において、何をどのように行うのか紹介しましょう。

A社はグローバルに数十の支社を持っており、日本本社としてはグローバルレベルでの人材管理を志向していました。しかし、言語や文化などの障壁があり、これまでは各国・各社任せの人材管理体制になっていました。そのような中、デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流を受けて、新たにクラウドベースのグローバル人事ITシステムを導入することになりました。そこで、導入の前段として、どのようにポリハーを行うかが論点となりました。ポリハーの方向性を考える上で重要なのは、まずはどのようなグローバル人材管理の絵姿を描くのか、つまり「あるべき姿・ありたい姿」を明確にして、そこからの最短距離を探る、というイメージです。この「あるべき姿・ありたい姿」が夢物語であってはなりません。あくまで現状のビジネス状況やリソースをもって、実現可能な範囲で描かれるべきです。度重なる経営陣とのディスカッションの結果、A社のグローバル人材管理の「あるべき姿・ありたい姿」を集約すると、以下の4点に絞ることができました。

A社のグローバル人事管理のプリンシプル
●次世代リーダー候補となる人材をグローバル共通の尺度をもって可視化し、個々のキャリアや育成をモニタリングできること
●人事の業務プロセスはできる限りグローバルスタンダードに準拠する形で、統合・効率化すること
●国や地域をまたぐ人材の交流を活性化すること。また、その妨げになるものはできる限り排除すること
●グローバルでコントロールしない部分については、各国・各社に一任すること

このような各社における、「必ず実現したい状態を簡潔に文章化したもの」を“プリンシプル”と呼びます。プリンシプルを決めていく作業は、正に「産みの苦しみ」ですが、これは避けて通れません。5年後・10年後に自社の人材管理がどのようになっているべきなのか、経営の方向性と整合性を取りながら議論を尽くすしかないのです。苦しい作業でもプリンシプルが固まってさえしまえば、あとはそれに基づいてポリハー進めていくだけです。

最初から無理をしないハーモナイゼーションデザインを心掛ける

A社の場合、グローバルで管理すべき人材は「次世代のリーダーになる可能性がある者」でした。つまり、ある一定程度の役職(例えば日本の課長クラス)以上の社員のみが対象であるということを明確にしていました。したがって、課長クラスより下の社員については最初からポリシー・ハーモナイゼーションの対象外とし、各国・各地域の現地法人や拠点に彼らのマネジメントを委ねることとしました。

このように人材管理の範囲を絞り込むことができればハーモナイゼーションの難易度は下がり、成功確率は格段に上がることになります。ポリハーについて議論をしていると、ついついすべてをグローバルで共通化すべきだという論調になりがちですが、プリンシプルに立ち返り、無理のしない形で進めていくことを心掛けましょう。

次に課長クラス以上の役職の管理に関して、何をどこまで合わせていくか(=ハーモナイゼーションの深度)を検討します。検討の単位と深度のレベルについては図表1を、具体的なハーモナイゼーションの方向性については図表2をご参照ください。
グローバル人材マネジメントの実現に向けた必修科目「ポリハー」とは何か(第6回)
グローバル人材マネジメントの実現に向けた必修科目「ポリハー」とは何か(第6回)
繰り返しになりますが、重要なのは、なんでもかんでも共通化することを目指すのではなく、プリンシプルをベースとしてハーモナイゼーションの範囲や深さをしっかりとコントロールすることです。

もちろん、グローバルで完全に統合されたオンリーワンの制度によって人材マネジメントができるならば、これ以上に素晴らしいことはないでしょう。ただし、各国・各社の事情もある中で、一足飛びに完全統合を目指すことは賢明とはいえません。地に足のついたハーモナイゼーションデザインこそが成功への近道であることをご理解ください。

このハーモナイゼーションの方向性が合意できれば、次はこの方向性に基づいて、グローバル人事制度を設計していくことになります。グローバル人事制度設計の進め方や勘所については、次回お話しさせていただきます。
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