昨今、働き方改革の一環としてワーケーション(ワーク×バケーション)を導入する企業が増えている。ワーケーションとは、リゾート地などで休暇を兼ねながらリモートワークを行う新しい労働形態の一つだ。時間と場所に捉われずに、日常と違う空間で働くことで、心身共にリフレッシュでき、ひいては生産性や働きがいの向上、イノベーションの創出などに繋がることが期待されている。そこで今回は、そんなワーケーションを国内でいち早く導入した日本航空株式会社の取り組みを取材。昨年12月11日に軽井沢で実施された事例と合わせて紹介する。
JALが実践する「ワーケーション」 軽井沢の一泊二日テレワークにも密着

社員にとっては自己成長や新たな活力に

JALが実践する「ワーケーション」 軽井沢の一泊二日テレワークにも密着
日本航空株式会社(以下、JAL)がワーケーションを導入したのは、2017年夏。当初は休暇取得促進が主な目的だったという。同社は総実労働時間1850時間を目標に掲げており、この達成には年次有給休暇を20日近く取得することが不可欠だった。そこで活用したのが、ワーケーションだったというわけだ。休暇をメインにしつつ、一部の業務を就業時間として認めるよう制度化。現業部門を除いた、テレワークを利用できる社員を対象にし、テレワークと合わせて週2回程度、月間で10日程度取得できるようになっている。これまでの取り組み事例としては、和歌山県白浜町の遠隔地でのテレワーク体験から始まり、鹿児島県徳之島町での地域創成や関係人口への影響も考えた取り組み、ワーケーションを行うことで+αの体験ができるアクティビティを融合したプログラムを体験するなど、ワーケーションの可能性に繋がるさまざまな施策を実施してきた。

冬の軽井沢でミーティング&親睦を深める

JALが実践する「ワーケーション」 軽井沢の一泊二日テレワークにも密着
ではワーケーションを実践することで、企業・社員双方にどのような効果が期待できるのだろうか。同社にてワーケーションの普及を進める人財戦略部ワークスタイル変革推進グループアシスタントマネジャーの東原祥匡氏は、「ワーケーションを含むリモートワークを活用することで、メリハリのついた業務を意識することができ、また休暇の取得促進にも繋がっています。取得方法はさまざまですが、企業にとってはより柔軟性のある働き方の推進に、社員にとっては自己成長や新たな活力に繋がるでしょう。さらに地域にとっては地域活性化、関係人口の増加など、三方よしの誰もが損をしない制度として期待されていると感じます」と語る。
 同社では、ワーケーションを全社的に浸透させるために、さまざまな取り組みも行っている。実際にワーケーションを行うだけでなく、例えば理解促進に向けたワークショップや、イントラネットでの専用ページの解説、社内報への掲載、勤怠システムにおけるワーケーション勤務時の登録など、社員自身が「ワーケーション」という言葉に触れ、正しく制度を理解する仕組みも構築した。さらに従来はテレワークの実施できる社員のみ行ってきたが、シフト勤務の職場で導入を検討してみたり、チームとしてワーケーションを実施してみたりと、浸透させるためにさまざまな動きが見られるという。利用者も2017年夏は11名だったのに対し、2018年夏は78名、年間では170名を超えるなど、浸透が図られており、今やワーケーションという言葉を知らない社員は、少数派になっているようだ。
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今後の展望について東原氏は、「2019年夏よりブリージャー制度も導入しました。これは、ビジネスとレジャーを掛け合わせた造語で出張時に休暇を付けられる制度です。ワーケーションとブリージャーはアプローチこそ異なりますが、旅先や業務渡航先といった、その地域でしか味わえない体験から自身を高められることは共通しており、社員ひとり一人が感性を養いながら、いきいきと成長していくきっかけとなるように、今後制度が浸透していくことを期待しています」と語る。
 一方JALの社員の中には、自己成長や新たな活力に繋げるためには、特別な施設や環境があると、よりワーケーションの効果がでると感じている人も少なくないようだ。より満足度を高めるために、今後はさらに地域と連携を図りながら、施設や施設周辺の環境整備、観光資源の充実などを図っていく必要もあるだろう。いずれにせよワーケーションは、日本人の働き方を大きく変えるきっかけになるかもしれない。
JALが実践する「ワーケーション」 軽井沢の一泊二日テレワークにも密着
続いて、JALのワーケーション事例を紹介する。2019年12月11日の朝、人財本部人財戦略部のメンバー6名が軽井沢駅に降り立った。当日の軽井沢は、浅間山がその雄姿を覗かせるほど爽やかに晴れ渡り、メンバーの気分も上々。軽い足取りで、駅からほど近くに立地する宿泊施設、『東急バケーションズ軽井沢』へと向かった。同施設は閑静な別荘地の一画に広がり、周囲の景観に溶け込んだ落ち着いた外観が特徴的。定員6名の2LDKの部屋が30室あり、いずれも美しいカラマツ林と池に面している。(同施設を運営している東急バケーションズはこの広々した客室を活かしたワーケーションを推奨している)到着後、メンバーは早速一部屋に集まり、9時には仕事をスタートさせた。今回メンバーが実施したテレワークは、現行制度のレビューと新たな施策を考えるミーティング。1日中一つのテーブルを囲んで、ときには集中しながら、またときにはリラックスしながら、普段のオフィスではできないフラットな議論を繰り広げた。
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12時過ぎにはランチで外出。軽井沢の街をそぞろ歩きながら、たまたま見つけた洒落たフランス料理店へ。温かみのあるフランスの家庭料理に舌鼓を打ち、食後は近所の公園で散歩を楽しんだ。そして午後は再び、ミーティングの続き。適度に休憩を挟むなど、メリハリをつけながら、夕方まで有意義な時間を過ごした。18時に仕事を片付けると、今度は全員で夕食の支度にとりかかる。上司も部下も関係ない。一人は肉や野菜を切り分けて、もう一人は食器をテーブルに並べ、もう一人は鍋をセッティング。こうして具だくさんの鍋が完成した。鍋を囲みながら食事を楽しむ面々。普段着姿でいつもと違う雰囲気の中、いつも以上に親睦を深めることができたようだ。人財戦略部部長の福家智氏も、1日を振り返って「こういう場所に来ると、開放的になって、気持ちがリセットされる。だから議論もニュートラルにでき、みんな率直に色々なことが言えるし、さまざまな意見を受けいれることもできます。冬の軽井沢、また来たいですね」と笑顔。全員でミーティングに集中するなど、コミュニケーションを図るには、絶好の環境だったようだ。最後にメンバー6名の感想を披露する。
JALが実践する「ワーケーション」 軽井沢の一泊二日テレワークにも密着
福家智氏
「我々のワーケーションは、休みも仕事もどちらもしっかり両立させるのが狙い。今回も非日常の場所で心身ともにリフレッシュしながら、新しいアイディアを出し合いました。こうした尖った取り組みを世の中に発信することで、日本全体の働き方の変革に少しでも役立てば嬉しいです」
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早坂研氏
「東京から軽井沢まで新幹線で1時間。それこそ9時に全員集まって仕事が始められます。普段東京のオフィスで働いていると、1日中みんなで同じテーマで話せる機会ってなかなかありませんが、こういう環境なら議論に集中できる。普段から、ざっくばらんなメンバーですが、今日はより一層本音で話すことができました」
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五十嵐千恵氏
「軽井沢ということで非日常感が味わえました。今回は1日中ミーティングをするワーケーションでしたが、みんな集中しながらも、あちこちから自由な発想が飛び交うなど、今までのワーケーションの中でも一番充実していました」
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長島史和氏
「会社で仕事をするのとは気分がまったく違い、効率もあがりました。ワーケーションの価値は何といっても楽しくやれること。ただ頻繁にやろうと思うと値段の面などで選択肢が狭まってしまうので、今後は手軽に使える施設がもっと増えるといいです」
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倉谷圭氏
「ずっと東京の同じオフィスで働いていると、目の前の仕事に追われて、新しい発想が生まれにくいですが、こういう環境なら新鮮な視点で自分たちの仕事が見直せます。また業務以外でもプライベートのようにみんなで食事をしたり、観光をしたりしながら、メンバーの知らない一面を見ることができ、より一層親交が深まります」
JALが実践する「ワーケーション」 軽井沢の一泊二日テレワークにも密着
塩田真代氏
「軽井沢は自然豊かで、気持ちが開放的になります。仕事の面では、議論に集中でき、普段は思いつかないようなアイディアがどんどん湧きました。また、施設も新しくて、アメニティや食器なども揃っており、ユーザーが使いやすいよう気配りがされていると感じました」
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