ルール変更に伴い、経団連加盟企業の約4割が採用手法の変更を検討中
就活ルールは長らく経団連が主導していたが、2021年卒より政府が主導することになった。これにより、学生の就職活動や企業の新卒採用にどのような影響があるのか注目を集めている。これを受けてEYは、2019年2月8日~22日にかけて学生328名(就活未終了者196名、就活終了者132名)、企業325社(経団連加盟企業127社、経団連非加盟企業198社)を対象に「就活ルール変更に際する意識調査」を目的としたオンラインサーベイを行った。今回の発表は、この結果をまとめたものだ。
冒頭、EYの人事コンサルティング部門で責任者を務めるピープル・アドバイザリー・サービス リーダー・パートナーの鵜沢慎一郎氏が登壇。「EYは全世界13,000人の人事コンサルタントが所属している、世界最大級の人事コンサルファームです。2018年にはユニバーサム(米調査会社)が学生向けに行った『世界で最も魅力的な企業ランキング』でも世界3位の評価を得ており、魅力的な人材が集う場所になっています。今回の発表は、自社のノウハウも含めて、日本固有の就活ルール変更について調査と考察を行ったものです」と挨拶した。
調査結果と考察の発表は、EYのピープル・アドバイザリー・サービス・マネージャーである小野祐輝氏が担当。学生、企業各々に向けて調査を行い、まず「既存の経団連主導による就活ルールについて、どれほど理解しているのか」を明らかにした。これによると、これまでの就活ルールを「正しく理解していた」と回答した学生は19%、経団連加盟企業は56%であった。また、経団連非加盟企業では25%が理解していたものの、31%が「理解していなかった」と回答。小野氏は「学生、企業ともに就活ルールへの理解や関心は低い」と説明した。
では、就活ルールについて学生、企業はどう考えているのだろうか。「現在の就活ルールの維持を希望しますか」という質問では、経団連加盟企業の28%が「ルールを廃止してほしい」と回答している。就活ルールに縛られない採用活動を行ってきた経団連非加盟企業については、同じ質問に対し54%が「どちらでも良い」と回答した。なお、学生は就活ルールの改廃に関して特に意見を持っていない。
小野氏は「学生・企業ともに、そもそもの就活ルールを正しく理解しているわけではない。経団連加盟企業からも既存のルールを変更したいという回答が寄せられており、就活ルールの形骸化が進んでいる」という見解を示した。
次に、就活ルールの変更に対し、企業はどのように対処しようとしているのかが示された。「就活ルール変更に合わせて採用手法を変えるか」という企業への質問に対し経団連加盟企業の43%が「変える予定である」と回答。具体的な採用施策に関しては、これまで制限されていた「採用時期の早期化」(39%)や「通年採用」(39%)と回答した企業が「採用チャネルの多角化」(46%)に次いで多くなっている。小野氏は「就活ルールは時期を縛るものだったので、これまでルール内にあった経団連加盟企業の4割が時期の縛りに反発して、『早期化』『通年化』が上位に挙がったのではないか」と考察した。
学生も企業と同じく、採用時期の早期化、通年化を望んでいるようだ。学生に対する「就活ルール変更で期待すること」という質問では、「時期に縛られない通年採用」(43%)、「内定時期の早期化」(35%)、「柔軟な働き方ができる企業とのマッチング機会増加」(34%)という回答が順に上位を占めている。
学生側のこうした傾向について、小野氏は「予想ではあるが」と前置きしながら「これまでの経緯もあり、自由化という言葉から時期の早期化を想像する学生が多いのだと思われます。また、早く安定して『無い内定』の状態から逃れたいという心理も想像できる」と述べ、これらデータから「就活時期に関する回答では企業と学生、両者の思惑が一致している」という分析結果を示した。
通年採用が進み、ポテンシャル採用とプロフェッショナル採用の2極化へ
学生・企業の双方が採用の早期化や通年採用を望んでいることから、小野氏は「将来的には採用ルール変更に伴う採用手法の多様化が進んでいくことが推察される」として、「企業が新卒一括採用中心の採用モデルから脱却し、採用の裾野が広がっていく」とする見解を示した。また「新卒よりも若い世代から、知識・経験を十分に積んだプロフェッショナルにまで採用の裾野を広げると同時に、各企業が必要とする人材要件に応じて最適な採用チャネルを特定することが求められるようになる」と語った。具体的には、これまで一般的だった「新卒一括採用」だけでなく、大学生よりもさらに若年層に向けた「ポテンシャル採用モデル」と優秀なキャリア人材を重視する「プロフェッショナル採用モデル」による人材獲得の2極化になると予測している。EYの資料によれば、「ポテンシャル採用モデル」とは、純粋培養・純血の次世代リーダーを重視するモデルのこと。個々人の育成に伴う工数・コストが高くなるため一定のリスクを孕むが、将来的に企業に多大な利益をもたらす可能性がある。一方、「プロフェッショナ採用モデル」は、ある程度の経験と知見を持った人材を重視するモデルで、優秀人材獲得のため常に市場競争に晒されるが、採用のミスマッチを軽減できるメリットがある。
小野氏は「これらの採用モデルを実践するには、自社が人材を採用する目的や人材に求める要件を明確化する必要がある」と語り、「単純に採用の間口を広げるだけでなく、それぞれの採用モデルの特徴を理解し、自社に最適な採用のポートフォリオを検討することが肝心である」との見方を示した。
ポテンシャル採用モデルについて、小野氏は「すでに明確なコアビジネスや技術を有する企業は、新卒の一括採用だけでなく、既存ビジネスを担っていくコア人材を集めるためのポテンシャル採用に目を向け、就活の主体ではなかった高校生などに対しても自社の認知を広げていくための啓蒙・PR活動を推進していくといった動きが想定されます」と説明。
また、プロフェッショナル採用モデルに関しては、「事業の多角化や新規事業の立ち上げを志向する企業であれば、中途採用で即戦力となるプロフェッショナルを採用していくことが求められるでしょう」と語った。
企業の論理だけではなく、候補者ニーズを踏まえた採用活動が必要になる
就活ルール廃止により、採用手法が大きく変わろうとする今、企業にはどのような変化が求められるのか。小野氏は次のような見解を示した。「これまでの日本の新卒一括採用は、採用する企業側にとっては労力が小さく、非常に効率的な制度でした。しかし、今後より優秀な人材を獲得していくためには、企業の論理だけで採用を行うのではなく、候補者の立場も踏まえた活動が必要になります。企業にはこれまで以上に大きな受け皿(=労力)を準備して、採用に臨む姿勢が求められるようになるでしょう」
さらに「採用チャネルの多様化が進むことで、企業が不合格通知を出すように、学生からの内定辞退も今後増えてくるでしょう。内定辞退を減らすためには、企業側が自社の魅力を正確に伝えるとともに、自社にマッチした人を正確に定義し、そうした候補者に絞ってアプローチしていくことが必要だと考えています」と、ここで採用活動にマーケティング思考を当てはめた『採用マーケティング』の必要性に言及した。
採用マーケティングによって、企業がアプローチしたい人材にとって魅力に感じるだろう環境を整備し周知できる。また、複数のチャネルに自社の情報を発信することで、候補者が自社を発見しやすくなる。
鵜沢氏も「単純に『優秀そうだから』という理由で、他社に相乗りするような形で新卒者への内定を乱発する採用手法は限界にきていると思います。自社が求める人材を正確に定義し、そのための人材を採用することに注力しない限り、企業にとっても学生にとっても不幸なミスマッチを減らすことはできないでしょう」と持論を述べた。
また、「EYでは学生に職業体験的なインターンを課すのではなく、インターンの立場でありながら、1~2年の間プロフェッショナルの一員として有給で職務を経験させ、そのまま採用することもあります。この場合、職務経験を積んだ学生は、他の学生たちの1、2個上にある肩書からキャリアをスタートすることになります」と、鵜沢氏は海外EYで行われるインターン事例も紹介した。
こうした事例から、優秀人材を採用するために新卒時から能力や経験に応じた個別の処遇を用意するなど、受け入れる企業側の環境整備が進んでいる様子をうかがい知ることができる。小野氏は、「この動きは日系企業にも波及し始めており、専門性が求められる職務では21歳で管理職として採用された例もあります」と語った。
今回の発表では、就活ルールの変更により、日本企業が長らく続けてきた新卒一括採用という慣例そのものが崩れていく可能性が示された。就活ルール変更を機に、自社が必要とする人材の再定義を行い、そうした人材を採用するためのベストな手法について、今一度考えてみる必要があるのではないだろうか。
ピープル・アドバイザリー・サービス リーダー/パートナー
鵜沢 慎一郎(うざわ しんいちろう)
ピープル・アドバイザリー・サービス マネージャー
小野 祐輝(おの ゆうき)
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