講師
高橋 俊介 氏
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部航空工学科卒業、日本国有鉄道勤務後、プリンストン大学院工学部修士課程修了、マッキンゼーアンドカンパニー、ワイアット社(現在 Willis Towers Watson)を経て、ピープルファクターコンサルティング設立、2000年 5月から慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授を務め、2011年11月より現職。
「自論形成能力」を育てるためのリベラルアーツ
最近、組織人事の領域で「リベラルアーツ」ということがよく言われるようになりました。人材育成のプログラムに、リベラルアーツと呼べるものがさまざまな形で入ってきています。しかし、何のためにリベラルアーツを学ぶのか、判然としていないのが現状です。リベラルアーツにはこれが正しいというものはなく、どんな切り口で取り組んでもそれなりに役に立ちますが、今日は組織人事の視点から、重視すべき事柄について提言したいと思います。今なぜリベラルアーツなのかを考えてみると、変化の激しい時代だからこそ、基礎として重要ということが挙げられます。現在は応用テクニックだけでは生きていけない時代になっており、もっと言うと、答えのない時代ですから、「自論形成能力」が求められます。自分はこう思いますよと意見を伝える時に、自身の専門分野を深堀するだけでは、今一つ役に立つ自論が出てきにくいのではないでしょうか。問題や課題の背景にあるものを理解しようとすることが欠かせず、そうした場合、重要になるのはリベラルアーツとしての歴史と科学です。問題の本質を直感的に見抜き、価値のある理論を形成するために、歴史や自然科学、社会科学のベースは必要不可欠です。そうしたものがないと、表面的なテクニック論に陥ります。もっと根本的な話をすると、ゼロから何かを生み出すのは難しいのです。過去のさまざまな分野のいろんな学びが頭の中に入っているから、ある時ふと、こういう切り口で考えたらいいのではないか、というものが出てきます。
他のものを否定するつもりはありませんが、リベラルアーツとしてまず重視してほしいのがファクトです。フィクションやイデオロギー、未来予測などにも学びはありますが、その前に足元のファクトを見つめることが重要です。ファクトを学ばずにイデオロギーに走ると、危険な方向に行きやすくなります。AIやシンギュラリティが一種の流行となっていますが、未来はこれからどうなる、誰か教えてください、はやめましょうと言いたい。自分で考えることを重視します。
ここまでは一般論です。言いたいことはわかるが、何をどう学べばいいかわからないという思いも出てくるでしょう。そこで、こういう本からこういうメッセージを読み取ってはどうか、と具体例を示します。
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