近年よく言われる職場環境のトレンドで、私がいつも気になることの一つに「職場の仲の良さ」があります。「社員同士の仲が良いと、本当に会社の売上や利益が伸びるのだろうか」という疑問です。なぜかというと、私がこれまで関わらせていただいてきた中で、数字が伸びている会社の仲はいたって普通、あるいは若干緊張感があるような場合が多く見られたからです。反対に赤字や経営危機にある会社は、社員同士の仲が良い、というのが非常に多い特徴でした。これは会社に限らず「業界」にも言えることで、端から見ると「すごく仲が良いなあ」と思う業界ほど、業界全体が斜陽傾向にあることが多いのです。
第2回:仲が良い会社=売上が伸びる会社にあらず、「なれ合い」と「助け合い」の違いを見極めよう
そうした実態を知ってから、「職場のコミュニケーションと利益」の関係性について意識して考えるようになりました。そして私が行きついた結論は、「仲の良さには、種類や質がある」ということです。

たとえば数字の良くない会社は、誰かが寝坊して遅刻してきたとしても、誰も注意せず「しょうがないよね」と赦し合ったり、営業社員の売上目標が未達でも「こういう時代だから」と赦し合ったりします。これは「労務」という観点から見ると、「やさしい会社」「働きやすい会社」となり、社員の立場からすると「気楽な会社」であり「仲が良い会社」とも言えるのですが、「利益」という観点から見ると少し違ってきます。他の会社だったら出来ていて当たり前のことが、たとえ出来ていなくても会社全体が出来ないから平気、という「低いステージ」で社員同士がシンクロしてしまっている状況にあります。当然競争力は落ち、それが数字にも反映されます。この状態は、数字面から見ると既に「一日も見過ごせない」危機的段階にあることが多く、すぐにでも改善する必要があります。これは「労務的観点」と「経理的観点」の違いとも言えます。

一方で、数字が良い会社では同じようなケースがあった場合の対応が違います。たとえば誰かが遅刻をしてきたとき、上司や総務人事でなくても、まず周囲の席の人が「なぜ遅刻をしたのか」を聞き、もしそれが「好きな動画を明け方まで見ていた」というような個人的な理由であれば、改めてもらうように誰ともなくその人に「お願い」や「協力」を求めます。一方で、「業務過多やメンタルの不調」などのような、誰かの助けがないと改善できない理由の遅刻であれば、すぐ人事に連絡をし、産業医などの専門家も交えてその人の職場環境の改善に取り組みます。「見過ごさず、そして対応が早い」ということです。

また、売上目標が未達という場合であれば、まず目標として設定された数字が、現実的な数字なのか、それとも無理な数字だったのか、営業や経理も含めて再度検討します。もし無理な売上目標だったならば会社側が数字目標を見直し、新しい目標数値で社員に努力をしてもらいます。逆に適正な範囲の売上目標でありながら、属人的な理由で売上が未達だったならば、どうすればその未達者が目標を達成できるのか、一人きりにせずに皆で考えたり帯同したり、マニュアルを作成したりしてサポートしていきます。これも「仲の良い会社」と言えるでしょう。そうして売上や利益、規律のレベルを「下げない」ことに注力しているのです。

伸びている会社は、「数字を下げない仕事の習慣」を常に励行しています。だから職場全体が「低いステージ」に落ちることなく、プラスアルファがある分、さらに高いステージへ上がっていきます。数字の良い会社の中では「下位」に位置する社員であっても、数字の悪い会社の「上位」に位置する社員よりもレベルが上である、ということがあるのはこうした理由からです。

このように、数字の良い会社とそうでない会社では「仲の良さ」についてのとらえ方が全く違います。だから社員の行動習慣も違い、おのずと数字の結果も違ってくる、ということがおわかりいただけると思います。会社は利益がないと、「いつかは」内部留保や投資された資金がなくなり、倒産するか他社に買収されてしまいます。利益のことをすっかり忘れてしまい、「とにかく社員同士の絆を深めなければ」ということを第一定義として優先させてしまう、あるいは人材確保のために「気楽な」会社だとアピールし過ぎてしまうと、自分達でも気づかないうちに、典型的な数字の悪い会社のスパイラルに陥ってしまうことがありますので注意が必要です。「お気楽」で利益が出ることはまずありません。

経営者の方が「とにかく、社内の仲の良さをアピールしなければ」と思っておられる場合は、目標を「なれ合いによる仲の良さ」ではなく「切磋琢磨や助け合いによる仲の良さ」とするように、総務人事の方々でフォローしていただきたいと思います。
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