人手不足解消のため、人材獲得と並んで企業の関心が高まる離職防止対策。採用活動においていかに量・質を担保できたとしても確保した人材が定着しなければまったく意味をなさない取り組みとなってしまいます。中でも、若手層のリテンション(人材の維持・確保)における施策は、「仕事のやりがい」を醸成させる多面的な施策が必要です。
若手層における離職低減のカギは「仕事のやりがい」を醸成させる人材育成

若手の離職理由の上位は「給与面」「仕事のやりがい」「ワークライフバランス」

転職支援サービスを展開する『エン転職』が、2018年にユーザーを対象に「退職のきっかけ」についてのアンケートを実施。8,668人から得た回答からは、将来を見据えた退職の傾向が読み取れました。

これによると「退職を考え始めたきっかけ」について、25歳以下の年代も26~34歳の年代も共に第1位は「給与が低かった」(25歳以下は39%、26~34歳は41%)、第2位も「やりがい・達成感を感じない」(25歳以下は36%、26~34歳は39%)と同様の結果が出ました。25歳以下の第3位は「企業の将来性に疑問を感じた」(35%)、一方で、26~34歳以下の第3位は「残業・休日時間など拘束時間が長かった」(32%)とワークライフバランスを重視する声も多く挙がっています。

若手人材は「給与面」に加え、「仕事のやりがい」「成長機会」「将来性」といったキャリアを支援する環境が重要であるといえます。

新卒一括採用では3年以内に3割の離職も想定済み? 課題は「優秀な若手」の離職防止

若手人材の離職は今に始まったことではありません。残念ながら、新規大卒就職者の就職後3年以内の離職率は、昔と変わらずに約3割と推移しており、状況は改善されていません。これは、特定の仕事に対して専門スキルを持つ人材を採用するジョブ型ではなく、職務を定めずに人を採用するメンバーシップ型の新卒一括採用により入社後にギャップが生まれることが要因だと指摘する向きもあります。企業側としても新卒一括採用で3割の若手が離職するものの、一定の人材離職は想定済みといえます。

ただ問題は、この3割の離職者の中に優秀な人材が含まれている場合です。次期リーダー候補など、次世代の会社を担う人材が離職すれば、今後の企業の発展は期待できません。そのため、ハイパフォーマンス人材の離職を食い止めることこそ、人事が取り組むべき離職防止策の本丸といえるのではないでしょうか。

離職防止施策の第一歩はミスマッチの防止

それでは、離職防止のために、どのようなリテンション施策が必要なのでしょうか。

給与面、ワークライフバランスの充実した職場環境など、労働条件のあらゆる面で就業者の満足を得るというのは現実的ではありません。重要視すべきは労働条件や職場環境に抱く不満の根本、つまり入社前に抱いていたイメージと現実のギャップではないでしょうか。「思ったよりも給与が低い・上がらない」などと感じるのは、入社後の労働条件や職場環境を正確に知ることができないからだと推測されます。
そこで、最近注目されているのが、RJP(Realistic Job Preview)と呼ばれる求職者への情報開示・コミュニケーション手法。ポジティブな情報だけでなく、ネガティブと捉えられそうな情報もリアルに公開することで入社後に感じるギャップをなくし、人材のミスマッチを解消する効果が期待されています。新卒採用においてインターンシップを通じた職場体験において入社前・後のギャップを解消し、働くイメージを強くしてもらう取り組みも同じ発想といえるでしょう。

なお、入社前と入社後のギャップが大きければ離職リスクは高くなるため、相対的に他社より劣っている点があればしっかりと伝えることが重要となります。ただし、単にネガティブ要素を伝えてしまえば就業意向は高まりません。シビアな面があるが社会性が高い、給与水準は低いが成果を評価する制度がある、といった働きがいやモチベーションをしっかりと醸成させることができるよう企業バリューや人事制度など整備する必要があるでしょう。

仕事のやりがいやモチベーションに対する多面的アプローチがリテンション施策の成功のカギ

リテンション向上施策は不平・不満といったネガティブ要素、仕事のやりがいや充実感といったポジティブ要素の両面でのアプローチが重要です。全体観点・個別対応も交えた多面的な施策を講じることが有効です。

・成功体験がもたらす「仕事へのやりがい」
「仕事のやりがい」を実感させることもリテンション施策には効果的です。掲げた目標の達成はもちろん、顧客からの感謝の言葉や上司から認められた時など、自己・他者からの承認は多くの場合で自己成長を実感でき、「仕事のやりがい」は醸成されます。そうした成功体験を多く積ませるための人材育成、最適配置、機会創出がマネジメントには求められているといえるでしょう。特に、ハイパフォーマーへは積極的な成長機会を設けることで、モチベーション向上には効果的です。

・評価制度整備と共通認識
前述した評価制度の整備も重要です。自己評価と上長評価にギャップが大きい場合、正当な評価をされていないと感じて、企業へのロイヤリティは下がります。多様なキャリアパスを設けることで自己決定感が高まり、評価に透明性を持たせることで客観性が向上します。このような取り組みが従業員の納得性につながります。また、年次目標設定時において、できるだけ具体的な達成イメージ(定量・定性のいずれも)を目合わせすることもギャップを生みにくくする取り組みといえます。

・コミュニケーションの活性化
退職の決意は1日でなされるものではありません。違和感、迷い、戸惑いなどから始まり、悲しみ、怒りなどの感情に移り、最終的には諦め、無関心へと企業に対する感情が薄れていきます。そうしたネガティブな感情を早期にキャッチするために企業で取り組まれ始めているのが1 on 1ミーティング。上司やメンターと面談を行い、業務課題や感情変動の吸い上げから、キャリア支援、モチベーション向上にも効果的といわれています。ここでは、上司からの一方的な伝達・指導ではなく、相手の気持ちをいかに引き出すかという、ヒアリングの充実を図ることが大切です。リラックスした空気の中、短い時間でも定期的に行うことが重要です。

・定期的な組織診断
組織のコンディションを図るために活用されるのが従業員満足度調査(ES調査)などに代表される組織診断。最近は、週次・月次で調査する実施間隔が非常に短い「パルスサーベイ」と呼ばれる診断ツールも活用されています。定点調査を続けることにより、細かな動向を追うことが可能です。組織全体の状態把握のほか、個々人のモチベーションや離職リスク調査などにも効果的です。

企業成長を継続させるために人材確保は不可欠。中でも、企業成長を担う次期リーダー候補になる若手優秀層にはいかに仕事のやりがいを持たせるかがカギといえそうです。離職防止がうまくいかなければ人材は枯渇し、企業の発展は見込めません。リテンション施策には企業側の多様な取り組みが求められています。
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