ある方からのご紹介で、「石坂聡さん」とお会いした。石坂さんは人事業界では名の通った方で、その輝かしいキャリアもさることながら、学位も素晴らしい。米国テンプル大学政治学科卒業、ヘルシンキ経済大学(現アールト大学)エグゼクティブMBA取得。さらには国連英検特A級 全国一位 最優秀賞 外務大臣賞まで受賞されている、まさに日本のグローバルHRのトップランナーと言える人物である(詳細プロフィールはページ下部記載)。お会いする前は、「絵に描いたようなビジネスエリート」といったイメージだったが、実際にお話をうかがうと、まるでフィクション映画のような艱難辛苦のエピソードが満載で大変驚いた。このコラムでは、石坂さんの“キラキラの履歴書”には書かれていない「人間・石坂聡」をご紹介しながら、日本人のグローバリゼーション化のヒントを探ってみたい(右が石坂さん)。
第4回:スーパーエリートの“泥臭い履歴書”から見るグローバル化への道筋

アイデンティティクライシスと直面する

稲垣 稀有で素晴らしい経歴でいらっしゃいますが、ずっとエリート街道を進まれてきたのですか?

石坂 いえ、まったくそんなことありません(笑)。若い頃は、真っ暗な長いトンネルの中を歩いていた気がします。学生時代はいつもスキンヘッドで、学ランを着て、刀を振って軍艦旗とかを掲げていた部類です(笑)。日本の素晴らしさを見せてやりたいという気持ちでアメリカに行ったのですが、言葉は片言だし、向こうでも学ランを着ている一風変わった日本人だったので、日本人の仲間からも敬遠され、特に韓国人や中国人とよく揉めていましたね。次第にみんなから相手にされなくなってきて、自分というものが分からなくなり、アイデンティティクライシスを起こしました。

でもそんな時、あるアメリカ人に言われました。「お前はいつも『俺の国は』とか、『JAPAN』とか、『第二次世界大戦で俺たちはドイツよりよく戦った』とか言っているけど、俺は別にお前の国なんか興味ない。もっとお前自身のことを話せよ」と。自分の人生を生きている彼と、大きな何かにすがって生きてきた私自身との差を指摘されたようで、とても大きなショックを受けました。

その後も、あるアメリカのお坊さんから「あなたは日本人日本人というけれど、日本のことを何も知らない」とも言われました。この時はさすがにカチンときて食ってかかったら、“小手返し”という技で道路に叩きつけられました。彼は武道の達人でもあったのです。そして、私にこう言いました。

「あなたは『強さ』の意味を履き違えています。それは銀行口座にいくら金があるとか、地位がどれだけ高いかとか、そんなことではありません。自分よりリッチな人はいくらでもいるし、どんなに偉くなっても必ず上には上がいます。だから、他人と比べて偉いだとか、強いだとか言っている限り、絶対に『真の強さ』は見つかりません。大事なのは、昨日の自分と比べてどうか。自分の胸に手を当てて、自分は昨日より立派になっている、自分の望む像が近づいてきていると思えた時に、初めて充実感とか幸福感とか、人に貢献しようという思いが出てくるんですよ。それが『強さ』です」と。

稲垣 すごいお坊さんですね。映画『ベスト・キッド』のミヤギ老人みたいですね。

石坂 まさにそうです。そして、「大和魂」という言葉の意味もしっかりと教えてもらいました。「大和とはどんな字を書く?」と聞かれたので、「大きな、調和の和と書きます」と言ったら、「でしょう?あなたの言っている突撃とか腹切りとか、万歳とかは大和魂じゃないですよね?大きな調和を意味する大和というのは、真のダイバーシティを言っているのではないですか。飛鳥時代や奈良時代に、インドや中国の仏教文化や、渡来人が色々なものを日本に伝えてきてくれたから、今の日本ができたわけでしょう。言わば日本は、真のダイバーシティを体現してきた国なんです」と。

稲垣 本当にすごいお坊さん! 日本人でもそんな立派な説明はできません(笑)。
第4回:スーパーエリートの“泥臭い履歴書”から見るグローバル化への道筋

相手を「人間として見る」ことの大切さ

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