第8回 日本HRチャレンジ大賞『大賞』
東京急行電鉄株式会社
東急電鉄が音頭を取り、大手民鉄全社が『民鉄キャリアトレイン』に参加 ~ライフイベントなどにより就労継続が困難となる方のキャリアを支援する~
配偶者の転勤や家族の介護などのライフイベントを理由に会社を退職し、他地域に移動せざるを得ない社員のキャリアを継続できるよう大手民鉄各社が相互に連携するスキームは1社だけではできないものであり、参加会社拡大を目指し、呼びかけを重ねたことはより多くの社員と会社の双方がメリットを享受するダイバーシティマネジメント推進の一助であると高く評価されました。ゲスト
下田雄一郎 氏
東京急行電鉄株式会社
1993年、東京急行電鉄(株)入社。労働組合専従、人事・労務の各課長職を経て、2017年
人材戦略室 労務企画グループ 統括部長
7 月現職。人事政策・企画全般、特に働き方改革、ダイバーシティ推進、健康経営に取り組む。
大手民鉄16社を巻き込んだ相互人材活用スキーム
――今回、HRチャレンジ大賞で大賞を受賞した「民鉄キャリアトレイン」はかなり画期的な取り組みのようですが、まずはその取り組み内容について教えてください。下田雄一郎氏(以下、下田) 「民鉄キャリアトレイン」は、配偶者の転勤や親族の介護などのライフイベントで、今いる会社とは別の地域に転居しなければならなくなった社員を対象に、大手民鉄全16社(※)が、相互に紹介と受け入れを図るスキームになります。この仕組みの狙いは、社員たちが入社からこれまでに築いてきたキャリアを諦めることなく、他社で継続して活用できるようにし、働きがいや働きやすさを今まで以上に感じてもらいたいということです。発案当初は、配偶者に帯同することが多い女性総合職を対象にイメージしていましたが、最終的に性別に関係なく、全職種を対象にスタートしました。また、当然各社とも、民鉄社員として経験豊富な即戦力を採用したいという思いもあり、会社側と社員側の双方にメリットがある取り組みだと考えています。
――例えば、単に他の会社に移りたい、というような理由は「民鉄キャリアトレイン」の対象外ということですね。
下田 その通りです。あくまで「ライフイベント上の理由によって就労継続が困難」というところがポイントです。そしてもう1点重要なのが、このスキームを利用した場合でも、社員は必ず他社に入れるわけではないということ。送り出す企業がすることは、本スキームの利用を希望している人材を案内するのみです。受け入れ側は、通常の中途採用選考のプロセスによって採用可否を判断します。
下田 もちろんです。受け入れについては「自分たちの責任でやっていこう」ということで各社が一致しています。また、給与や待遇などについても、通常の中途採用と同様に、各社の基準をそのまま適用するのが原則で、このスキーム共通の処遇制度や管理システムを作ることはしていません。「民鉄キャリアトレイン」を「スキーム」や「仕組み」と呼ぶのは、「制度」のようなかっちりしたものではないためです。
――従業員にとって、普通に会社を退職して他社の中途採用へ応募するのと、「民鉄キャリアトレイン」で応募するのと何が違うのでしょうか?
下田 まず、社員にとっても、受け入れ先の会社にとっても、スキーム枠内の行動であるため、会社がバックアップしているという安心感があります。また、このスキームでは、転籍以外に出向や再入社など、柔軟な受け入れも視野に入れています。例えば、東急の社員が親の介護で大阪に行かなければならなくなった時、このスキームを利用して大阪の民鉄に移ったとします。そして5年後に親が亡くなり、介護が不要になったとします。その時に、もしその社員が「また東急に戻りたい」と希望するならば、その道が開けているということです。また、異動期間が明確であるなら、出向という形での一時的な雇用も視野に入れています。
――求職者は、どのような方法で本スキームへ応募するのでしょうか?
下田 このスキームに限ったことではありませんが、当社では社員のキャリアプラン形成に際して、2通りの方法を用意しています。1つ目が直属の上司との相談の中で考えていく方法です。東急電鉄では、成績考課のフィードバックに加えて、日常的に上司と部下が面談形式でコミュニケーションを取る「トーク With活動」を全管理職に推奨しています。その際に、「民鉄キャリアトレイン」の利用希望があれば出してもらいます。もう1つは、社内公募制に近い「キャリアコミットメント」と呼ぶ仕組みで、上司を通さずに直接人事部門に配属希望を申し出られるというものです。
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