このような環境の中で求められるのは、企業の人事戦略の再確認であり、現場に見られる実態と企業方針のギャップの認識です。
人事管理にかかわる不正やトラブルが現地経営陣を悩ます
日系企業においては、残念ながら明らかに避けられるトラブル、そして不正行為がいまだに見受けられます。それは決して例外ではなくその温床は高い確率で各社に内在すると言えるでしょう。企業の中には、「優秀な人材が見てくれている」「弊社では過去トラブルが起きたことはない」などトラブルとは無関係と明言されるところもあります。しかし、実際検証してみるとその温床となる事象は随所に存在しているのが実態です。
それらの代償として企業側は経済保証金という形式で金銭的解決を余儀なくされています。注意したいのは、そのような解決策を残った他の社員が知ることにより会社の対応が見透かされてしまうということです。理由は、各社ごとに異なりますが、当社が調査した結果を下記「労務管理の実態(現地日系企業調査から)」にまとめました。
日本においても類似ケースはあるかと思いますが、その発生頻度は格段の差があります。
これらの不正、不備による弊害が起きるのは、会社側マネジメントを支える人事の専門家が社内にいないこと、言語・慣習の問題で現場を把握できていないこと、例えば傷病休暇という制度は日中同じようにあるとしてもその意味合い、社員の対応は日中で全く違うことが挙げられます。そのほか社員は全員有期の契約であり2度の更新を経て終身契約になること(また回数は地方によって異なる)など日本とは管理すべき項目が数段に多いのが実態です。
中国における日系企業の人事担当者は、どの程度マネジメントできているのでしょうか。
本社出向社員に対する現地社員の評価を示す調査『グローバルマネジャーの育成と評価』(出展:グローバルマネジャーの育成と評価 早稲田大学出版、2014年)の結果が分かりやすいので紹介します。少々古い調査ではありますが、今においても実態は変わらないと判断されます。
・各事業部でオペレーションの長として赴任している日本人出向者が現地人事で要請される必要な要件の知識を有していない。(頻繁に変わる法律、地域によって異なる省令、慣習の違いなど、)
・コミュニケーションできる言語が日本語に限定されており、社内においては細かい意思疎通が困難、かつ折衝など社外とのコミュニケーションは通訳を介することが多いため対人能力が弱い。
・出向者による継続的な部下の育成が実施されていない。
そして気をつけたいのが、現地化の方針の下で業務責任者にいわゆる“ローカルスタッフ”を任命する場合です。現地化の方針自体は正しい方向性であり、今後この方針は加速させるべきです。そうしなければ優秀な人材は会社に残らないことが明白だからです。ただし、残念なことに、そこで起きていることは、プロセスのブラックボックス化であり、意思疎通がうまく行われていないケースが多々あることです。
すなわち、日本人社員であろうが、ローカル社員であろうが、責任業務を委託するのであって、その業務報告はきちんと取り決め、実行される必要があります。しかし現地でよく見られるのは業務プロセスの標準化、見える化をせずにいわゆる丸投げ状態の委託です。結果的に日本人出向者と現地ローカル社員の溝が大きくなり、プロセスが日本人出向社員(特に新赴任の出向社員に)に見えなくなり、現場で何が起きているのかわからなくなっているケースが残念ながら多いのです。不正の素地を会社側が作っていると言わざるを得ません。
労働関係=契約関係という基本に対して、日系企業の人事は現地法律や地域文化への理解度が低く、経営側の優先度が低いと感じます。日本本社及び現地経営のガバナンス機能は弱いと言わざるを得ないのが現実です。会社の権益を確保し従業員との良好な関係を保つためにも労務に対する会社マネジメントの強固な関与と可視化が求められるのが実態です。
次回は、報酬での競争力とモチベーションについて解説します。
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