前回は、序文として中国における人事戦略の重要性と、現場で見られる日中および中国地域間におけるギャップについて紹介しました。2回目となる今回は中国の経済的、政策的な情勢と、進出した現地子会社でよく見られる、不正とトラブルについて取り上げます。
第2回 現場で見る、経済成長の裏に潜む現地子会社で起こる不正とトラブル
中国では、2010年の所得を2020年までの10年間で2倍にするという所得倍増計画を掲げています。下記グラフは過去6年の平均賃金の上昇率を示したものです。地域によって差はあるものの、賃金は凄まじいスピードで上昇しており、20年までの所得倍増計画は確実に達成することが予測できます。
第2回 現場で見る、経済成長の裏に潜む現地子会社で起こる不正とトラブル
賃金が上昇し続ける中、40年続いた一人っ子政策から二人目の子供推奨政策へ転換が成されました。その背景にある、日本を上回るスピードで進む高齢化に対応する定年年齢延長政策、老人介護のための休暇設定政策など、人事にまつわる動きが活発になってきています。このような政策変更が社員の働く意識、働き方に影響を及ぼし企業側の対応が求められています。下図にまとめてみました。
第2回 現場で見る、経済成長の裏に潜む現地子会社で起こる不正とトラブル
そして海外子会社における、現地人材のマネジメント登用(いわゆる、現地化)については語られて久しいですが、そのスピードは遅く、また現地化実現のために求められる評価システムの実態は決して進化していません。

このような環境の中で求められるのは、企業の人事戦略の再確認であり、現場に見られる実態と企業方針のギャップの認識です。

人事管理にかかわる不正やトラブルが現地経営陣を悩ます

日系企業においては、残念ながら明らかに避けられるトラブル、そして不正行為がいまだに見受けられます。それは決して例外ではなくその温床は高い確率で各社に内在すると言えるでしょう。
企業の中には、「優秀な人材が見てくれている」「弊社では過去トラブルが起きたことはない」などトラブルとは無関係と明言されるところもあります。しかし、実際検証してみるとその温床となる事象は随所に存在しているのが実態です。
それらの代償として企業側は経済保証金という形式で金銭的解決を余儀なくされています。注意したいのは、そのような解決策を残った他の社員が知ることにより会社の対応が見透かされてしまうということです。理由は、各社ごとに異なりますが、当社が調査した結果を下記「労務管理の実態(現地日系企業調査から)」にまとめました。
第2回 現場で見る、経済成長の裏に潜む現地子会社で起こる不正とトラブル
これは弊社が現地で実施している労務検証で明らかにされている指摘事項からの抜粋です。左側の不適切事項が最終的にどのような弊害を招くかを右側に記しています。
日本においても類似ケースはあるかと思いますが、その発生頻度は格段の差があります。
これらの不正、不備による弊害が起きるのは、会社側マネジメントを支える人事の専門家が社内にいないこと、言語・慣習の問題で現場を把握できていないこと、例えば傷病休暇という制度は日中同じようにあるとしてもその意味合い、社員の対応は日中で全く違うことが挙げられます。そのほか社員は全員有期の契約であり2度の更新を経て終身契約になること(また回数は地方によって異なる)など日本とは管理すべき項目が数段に多いのが実態です。
日本で言う「阿吽の呼吸」が通用しない現地では、日ごろからの経営層と社員とのコミュニケーションが重要となります。これは必ずしも中国だけの特徴ではありませんが、自分の成長を重視し、公平公正な扱いを強く求める意識が優秀な社員ほど大きいことから、モチベーション維持には不可欠になります。

中国における日系企業の人事担当者は、どの程度マネジメントできているのでしょうか。
本社出向社員に対する現地社員の評価を示す調査『グローバルマネジャーの育成と評価』(出展:グローバルマネジャーの育成と評価 早稲田大学出版、2014年)の結果が分かりやすいので紹介します。少々古い調査ではありますが、今においても実態は変わらないと判断されます。
第2回 現場で見る、経済成長の裏に潜む現地子会社で起こる不正とトラブル
現場で見させていただくトラブルの実態を検証していくと、
・各事業部でオペレーションの長として赴任している日本人出向者が現地人事で要請される必要な要件の知識を有していない。(頻繁に変わる法律、地域によって異なる省令、慣習の違いなど、)
・コミュニケーションできる言語が日本語に限定されており、社内においては細かい意思疎通が困難、かつ折衝など社外とのコミュニケーションは通訳を介することが多いため対人能力が弱い。
・出向者による継続的な部下の育成が実施されていない。

そして気をつけたいのが、現地化の方針の下で業務責任者にいわゆる“ローカルスタッフ”を任命する場合です。現地化の方針自体は正しい方向性であり、今後この方針は加速させるべきです。そうしなければ優秀な人材は会社に残らないことが明白だからです。ただし、残念なことに、そこで起きていることは、プロセスのブラックボックス化であり、意思疎通がうまく行われていないケースが多々あることです。

すなわち、日本人社員であろうが、ローカル社員であろうが、責任業務を委託するのであって、その業務報告はきちんと取り決め、実行される必要があります。しかし現地でよく見られるのは業務プロセスの標準化、見える化をせずにいわゆる丸投げ状態の委託です。結果的に日本人出向者と現地ローカル社員の溝が大きくなり、プロセスが日本人出向社員(特に新赴任の出向社員に)に見えなくなり、現場で何が起きているのかわからなくなっているケースが残念ながら多いのです。不正の素地を会社側が作っていると言わざるを得ません。

労働関係=契約関係という基本に対して、日系企業の人事は現地法律や地域文化への理解度が低く、経営側の優先度が低いと感じます。日本本社及び現地経営のガバナンス機能は弱いと言わざるを得ないのが現実です。会社の権益を確保し従業員との良好な関係を保つためにも労務に対する会社マネジメントの強固な関与と可視化が求められるのが実態です。
次回は、報酬での競争力とモチベーションについて解説します。
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