講師
佐藤 博樹氏
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授
1981年雇用職業総合研究所(現労働政策研究・研修機構)研究員。1983年法政大学大原社会問題研究所助教授。1991年法政大学社会科学研究所教授。1996年東京大学 社会科学研究所 教授。2014年より現職。2015年東京大学名誉教授。専門は人事管理論。 兼職、内閣府・男女共同参画会議議員、ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経済産業省・新ダイバーシティ企業100選運営委員会委員長、民間企業との共同研究であるワークライフバランス&多様性推進研究プロジェクト代表など。
中央大学のビジネススクールで、民間企業32社と12年くらい共同研究を行っているのですが、そのプロジェクトの成果を踏まえて、「3つの柱と10の提言」についてお話ししたいと思います。プロジェクトの概要は他の成果は、ホームページ(http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~wlb/)の調査・提言欄をご覧ください。
Ⅰ 多様な人材の活躍支援と継続的なキャリア支援を
視点1:働き方改革では、多様な人材が活躍できる土台作りを
まず働き方改革です。女性だけではなく、多様な人材が活躍できるための働き方改革だと言いました。「働き方改革」というとどうも“残業削減”と思われがちですが、大事なのは「働き方を変える」ことなのです。どのように変えるのか。これまで皆さんの会社には、望ましい社員像、あるいは使い勝手のいい社員像があったと思います。「こういう働き方ができる社員が望ましい」という職場風土です。わかりやすく言えば、フルタイム勤務で、必要な時にはいつでも残業できる、こういう働き方ができる社員が使い勝手がいい社員です。そういう社員がダメだとは言いませんが、それ以外の社員も含めて、職場で活躍できるようにすることが大事です。つまり、働き方改革の目的は、多様な人材が活躍できるようにすることなのです。働き方改革は、ダイバーシティ経営の土台で、従来の男性の働き方を変えることが不可欠になります。
視点2:「子育て」や「介護」の支援ではなく、「仕事との両立」の支援を
女性の就業継続を考えた時、両立支援、例えば、仕事と子育ての両立支援が課題になります。最近は介護も考える必要があります。仕事と介護の両立は、男性でも大きな課題です。しかし、両立支援の目的は、「子育てできるように支援する」「介護できるように支援する」のではないのです。子育ての課題があっても、介護の課題があっても、仕事を続け、活躍できるように支援することが大事なのです。最近、やっとそのあたりが理解されるようになってきたと思います。これまで両立支援制度では、手厚い制度の整備が望ましいと考えられてきました。具体的には法定を上回る制度の整備です。例えば短時間勤務を取り上げてみると、法定は子どもが3歳になるまで取得可能ですが、企業の中には小学校入学まで、あるいは小学校6年まで利用可能としている場合もあります。一見、望ましい取り組みに見えますが、両立支援制度を使わなければ働き続けられない職場では困るのです。
「フルタイム勤務の働き方では、子育てと両立できないから、制度を手厚くしてほしい」と女性社員が求めれば、会社も「そうですね」ということで制度を手厚くしてきました。両立支援制度が充実しても、両立支援制度を使わなければ働き続けられない職場では、女性の活躍に繋がりません。これでは困るのです。両立支援制度を長期的に利用せずとも、フルタイム勤務に復帰し、無理なく仕事と子育てが両立できるような働き方を実現することが必要なのです。
両立支援制度の運用面では、現場の管理職からすれば、短時間勤務を利用している社員には、「この仕事は無理だな」あるいは「出張できないな」と配慮しがちになります。もちろん配慮は大事ですが、過度の配慮は困ります。短時間勤務でも、その人の持っているスキルを活かせるようにマネジメントし、成長を期待することが大事です。
短時間勤務の利用者も「将来、どういう仕事をしたいのか」を考え、いつフルタイムに戻るのかを考えなければいけない。短時間勤務の導入状況を見ると、「法定通り」、「小学校2年まで」、「小学校6年まで」など、会社によって利用期間は様々ですが、それぞれの会社で制度を利用している人に、「いつまで使うつもりですか」と聞くと、「会社の制度の上限まで」と言う人が多いのです。あるいは「考えていません」と言う人もいます。こうした意識が困るのです。希望するキャリアに合わせて、「いつフルタイムに戻るのか」を制度利用者自身が考えておくべきです。例えば、「今は短時間勤務だが、来年にはフルタイムに戻る」と決め、復帰後は仕事と子育てをどう両立するかを、パートナーと一緒に考えることも大事になります。