両博士は、理論だけでなく演習課題の実習も盛り込んで、分かり易くセミナーを進めてくれたので、参加者は皆大きな興味を持ち、演習にも熱心に取り組みました。演習として行われたのは、株式の交換と取得ゲームで、4人が一組となり、他チームと競合して勝敗を争うものでした。ゲーム終了後、各チームの得点が4組とも同点となった結果に、両博士は「これが日本人の均質性か」と驚いたようでした。
参加者の熱心な聴講ぶりが両博士の熱意を掻き立てたようで、帰国6ヶ月後に両博士から、DDI社とMSCで、アセスメント・プログラム及び今後開発する商品について技術提携をしようと申し出がありました。MSCとしては大賛成です。早速、OKの返事をすると、バイアム博士が再び来日し、極めてMSCに有利な条件で、契約を締結してくれました。
お陰様で開業間もないMSCは、「アセスメント技法」という大きな新商品を得ることになりました。本技法は、日本各社に親しんでもらえるよう、『ヒューマン・アセスメント(HAと略称)』と命名され、契約成立後も両博士は、毎年1~2回以上来日し、公開セミナー講師として日本中の都市を巡回し、プログラムの普及に協力してくれました。
ある時などは、茶目気のあるブレイ博士は、朝のNHKの番組でHAについて紹介するなか「もっと詳しく聞きたい方はMSCに電話してください。番号は……」といった宣伝をし、私達を慌てさせました。両博士は、その後も20年以上に渡って協力を続け、幸いなことに1978年頃からアセスメントは、急速に日本企業に浸透し始めました。
それまで日本企業の人事制度は、年功序列、終身雇用、新卒採用が基本でした。能力評価による人事評価は、時には能力差別のようにも言われましたが、時代の移り変わりとともに普及し、拡がっていきました。
反面、辛い事もありました。HAの普及と展開は当然嬉しいことなのですが、女性講師はHAコースに関われないのです。各社は、女性社員教育には、女性講師を使ってくれますが、HAコースに関しては、「女に男性社員の能力評価がやれるか?」と否定的だったのです。
ですから女性講師は、暫く、女性社員コースの世界に閉じ込められました。この頃はアセスメント・コースの講師はまだまだ不足しており、女性講師を活用したいのは山々だったのですが、社会的な風潮がそれを許さず、無理でした。
しかし、やがて状況は変わっていきました。男性管理者の部下に女性社員が多くなると、男性上司は、その管理や人事評価に苦労するようになってきたのです。日本社会における女性の活躍が間接的な後押しとなって、ようやく、アセスメント・コースを男女講師が合同で実施することが可能になっていきました。
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