売上で日本最大の小売事業者がイオンである。2012年2月期の連結業績では売上高が5兆2061億円であり、海外の売上高も約3,000億円ある。

 小売業は典型的な内需型産業とされることが多いが、イオンはアジアを中心にグローバル展開を進めており、国内と海外の利益構成比を2020年に「1:1」にすると発表している。利益と売上は相関する。現在の国内売上が約5兆円であり、2013年度の売上目標は6兆円だから、2020年の「1:1」では海外売上も6兆円以上にすると言うことだ。この成長を実現するのが、「アジアシフト」、「大都市シフト」、「シニアシフト」、「デジタルシフト」の4つの「シフト」だ。そして「アジアNo.1リテイラー」を目指している。

 壮大な経営戦略を実現するために、新しい組織戦略と人事戦略が必要になる。そこでその戦略の詳細を入井啓之・グループ人事戦略チームリーダーに聞いた。

――イオンは国内で事業を展開している企業と思っていましたが、中国と東南アジアでかなり多くの店舗展開をされています。グローバル展開はいつ頃から?

当社は比較的早い時期から海外展開を図っており、30年近く前の1984年にマレーシアとタイに進出した。1987年には香港にも出店している。

 現在は中国、香港、韓国、台湾、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア等にグループで2000以上の店舗を展開し、インドとカンボジア等にも駐在員事務所を設置している。このアジア展開をこれまで以上に加速しようとしている。2007~2009年度の中国・アジアへの投資は全体の8%に過ぎず、国内への投資が圧倒的に大きかったが、2011~2013年度の投資計画ではこれを25%にまで高めた。2014年度以降も中国・アジアへの投資は増え続けるだろう。

 当面の目標は、2020年度に国内と海外の利益構成比を「1:1」にすることだ。利益構成比が「1:1」になると言うことは、売上高も同じくらいになるということと理解してもらっていいだろう。アジア市場での利益構成比「1:1」は、2年前の中期経営計画で発表した。
  その根拠は、アジアの中間所得層の数が2020年には2010年比で1.8倍増の20億人となり、小売市場規模は200兆円増加することだ。この成長市場に対し、イオンはマルチフォーマット、即ちグループ全事業が一体となってアジアでの事業展開を加速する方針を打ち出した。そしてその到達点は、「アジアNo.1リテイラー」なることだ。

――中期経営計画では、「アジアシフト」、「大都市シフト」、「シニアシフト」、「デジタルシフト」という4つの言葉をキーワードとして上げています。

「アジアシフト」はご理解いただけると思う。イオンは、アジアを一つのマーケットととらえ、グループが一体となってアジアでの事業展開を加速させる。国によってモータリゼーションや都市化の進展の具合はさまざまだが、適切な店舗形態を組み合わせて展開していく。

 「大都市シフト」は、首都圏での事業機会を拡大するもので、圏央道の内側を最重点エリアと定め、マーケットセグメントごとにフォーマットを定めて重層的な出店を行う。このノウハウはアジア市場でも有効だと思う。

 「シニアシフト」は、シニア層のニーズに対応した売場にし、商品を開発することだ。国内だけでなく、アジアにおいてもシニアマーケットは拡大している。

 この3つのシフトに加えて、今年になってから「デジタルシフト」を加えた。IT技術を駆使したロジスティックスなど、小売事業においてデジタルはきわめて大きな重要性を持っている。デジタルスキルを持つ人材の採用を強化したい。

――アジアでの人事の基本理念について教えてください。

イオンの基本理念は海外でも変わらない。イオンはラテン語で「永遠」を意味し、理念の中心は「お客さま」だ。お客さまへの永遠の貢献がイオンの使命であり、「平和」と「人間」と「地域」を大切にし、その実現を追求している。
  アジアでの店舗展開でも、グローバルとローカル(地域密着)が融合した「グローカル」が基本的な考え方だ。1996年にイオンマレーシアがクアラルンプール市場に上場したが、社長は現地の人であり、同じく上場企業であるイオンストアーズ香港の社長も現地の人だ。

 また、イオンは100社が合併して成長してきた会社だ。人事理念として、昔から国籍、性別、年齢、出身企業を問わない機会均等の伝統を持っている。アジアにおいても、その伝統は脈々と生きており、「アジア連邦制経営」を目指している。従業員の国籍は異なるが、基本理念を共有するイオンピープルだ。

――2020年にアジアナンバー1の小売事業会社になる頃には、従業員数も膨大になると思います。見通しを教えてください。

現在の国内外従業員数は35万人であり、海外の従業員数は約3万人だ。8年後の2020年度には総従業員数は倍以上になり、非日本人比率は4割を超えるだろう。

 いま、日本本社、中国本社、そしてマレーシア、タイ、ベトナムを担当するアセアン本社の3つの本社体制づくりを行っている。グループ共通の社内言語は決めず、それぞれの本社でお客さまが使われている言語を使ってコミュニケーションをとるようにしている。

――国内だけでなく、海外での採用が重要になりますが、どのような施策を進めていますか?

まず言っておきたいのはイオンの採用は、新卒のみを対象とするものではないということだ。国内の採用では、結果的に新卒学生が多いが、われわれは「若者採用」と言っている。先ほども話したように国籍、性別、年齢は問わず、「自分が若者」と思う人はすべて選考の対象としている。
  次に最近の取り組みだが、イオングループとしての企業説明会を東京と大阪で開催し、約5000人の若者が参加した。そして国内だけでなくイギリス(ロンドン)、米国(ボストン、ロサンゼルス)、中国(北京他)などの6カ国の都市でも企業説明会を実施した。今年はさらに拡大し、中国の深セン、河南などの都市、マレーシア、タイ、ベトナムなどの都市でも実施していく予定だ。

 大学とのパートナーシップ強化にも取り組んでおり、ベトナムのホーチミン市人文社会科学大学とパートナーシップ締結を行い、奨学金制度「イオンスカラシップ」をスタートし、60名の学生に奨学金を付与した。

――異なる文化で育った若者にイオンの基本理念は浸透しますか?

イオンの基本理念や行動規範は、英語、中国語、マレー語などに訳し、各国のグループ会社従業員への浸透をはかっている。また、「ありがとう」という気持ちの大切さを伝える、おちまさと氏の『ありがとうの約束』という絵本で理念教育を行っている。

 「ありがとう」という言葉は世界のどの国にもあり、文化、習慣の違いはあっても、同じように共感できる。そのほか小売業で働く上での素養やスキルも必要であるので、教育プログラムとして確立している。

――グローバル化の進行は、必然的に人事の役割を変えていくと思います。イオンの人事はどの方向に向かっていますか?

これまでの人事の役割は管理にあり、内向きだったと思う。これからの人事は、経営計画達成の担い手の中心とならなければいけないと思う。現在は、戦略的人事に転換する曲がり角に立っている。戦略的人事は、人的資源のパフォーマンスを創出するものであり、企業価値向上をめざし人事ドリブンしていくイメージだ。
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