そもそもインターンシップは、学生が一定期間、企業で仕事をすることで「就業体験を得る」ことを目的としていたはずです。しかし、現在行われている短期間のインターンシップは仕事はせずに説明やグループワークによるものが大半で、企業によっては会議室だけで完結するものもあります。
私はもともと企業の人事の仕事をしており、新人から役員研修まで企画運営してきました。実際に講師として運営してきた経験もあるから思うのですが、1DAYインターンは新人研修のプログラムに近いものと認識しています。ビジネスゲームやグループワークを通して仕事に対する理解を深める、といったイメージです。こうしたプログラムはビジネスの理解に対して一定の有効性はあります。中にはアクティブラーニング要素をうまく取り入れた学びの効果の高いものもあると思います。したがって、こうしたタイプのイベントが増えることは悪いことではないといえるでしょう。
しかし一方で、こうしたプログラムは参加者個人のパフォーマンス差がかなり明確に現れます。論理的思考力やチームの中でのコミュニケーションスキル、リーダーシップなどが見えてしまいますので、選抜ツールとしての性質が強く、採用直結型のイベントになりやすいのです。
もう一つの問題点は、この手のプログラムに対する参加者の習熟度で差が出やすいということです。場馴れしている学生とそうでない学生では明らかに差がつきます。大学全体の教育がアクティブラーニングにシフトしつつあるという現状では、もしかすると慣れの部分は将来的には気にならなくなるのかもしれませんが、現時点ではインターンシップに参加しやすい首都圏の学生とそうでない地方の学生とでは明らかに差がつきやすい部分だと思います。
このような習熟度を考慮すると、我々のような地方大学の立場としては、出来るだけ学生をインターンシップに参加させなければいけません。その結果、学生の就職活動の早期化を推進せざるを得ないのです。
このコラムで以前も指摘したように、WEB広告主体で就活を行うようになってから、学生が仕事や職種、業界などを深く学ぶ機会が減っているのは事実です。そういう意味では、こうしたプログラムはそれを補完する有効性があります。しかし、個人的には以下の2点において今回のインターンシップの定義拡大は将来に禍根を残すことになるでは、と考えています。
一つは、こうしたプログラムを開催できる体力があるのは大手企業に限られてしまうという事。企業内に人材育成の専門部隊がいる会社や、外部コンサルにプログラムを外注できる資金的に余裕のある企業が中心になってしまい、中小企業、特に地方の企業ではなかなか運用することは難しいという点です。首都圏と地方の情報格差は学生だけではなく人事部門においても同様に生じており、今後ますます拡大することによってさらなる採用格差につながることを危惧しています。
もう一つは、学生の教育的効果についてです。1DAYプログラムは知識を習得することやスキルを養うという点では有効性はあります。しかし一方で、経験に基づく意識行動変革にはつながりにくいのではないかと思っています。経験を通して学ぶことの中で大切なのは「失敗すること」であり、大学のキャリア教育の視点でも、学生にチャレンジさせ、さらに失敗も経験させることが重要視されています。
現在の1DAYインターンシップでは就業体験が得られないわけですから、失敗する“チャンス”もなく、早熟の学生を早期に囲い混むだけになってしまうのでは、と感じています。
私たちが石川県と地元の企業とで実施しているインターンシップは、地域ぐるみで若者を育てるという発想からきています。インターンシップを通して学生をしっかりと育てながら、若者が地元に残らないという切実な問題を解決するために地道に取り組んできた内容と、全く別の考え方が経団連から出されたことに遺憾の念を禁じえません。
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