Vol.2では、突然親が倒れて実家に帰ったまま、在宅介護になった場合、介護休暇以外の対策として有効な対策の1つである、ふるさとテレワークについて解説した。
今回は、Vol.1の「働き方改革とは組織風土との戦いである」にも盛り込まれているテレワークの推進の中でも、テレワークの課題と実情について解説する。
おさらいになるが、テレワークとはICT を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことで、
在宅勤務・モバイルワーク・サテライトオフィス勤務
の3つに分けられる。

・在宅勤務:ふるさとテレワークと同様、自宅で業務を行う働き方。
・モバイルワーク:営業が生産性向上のために利用してきたもので、無線ネットワークを利用し様々な場所で仕事ができる働き方。最近はカラオケルームでWeb会議をした場合、マイクを使用していない証明を貰うと経費精算できる企業も出てきている。
・サテライトオフィス勤務:首都圏では主要なターミナル駅に開設されている専用型、ふるさとテレワークで開設するサテライトオフィス郊外型、レンタルオフィスなども含まれるテレワークセンター(共有型)などがある。


これらのテレワークにおいて最大の課題となるのは、情報セキュリティの確保であるが、適正な労務管理・人事評価も外せない課題である。
第3回 テレワークは風土と文化の戦いである

テレワークにおける最大課題、情報セキュリティと労務管理

テレワークは、東日本大震災の後にBCP(※1)目的に導入する企業が急激に増えたが、家庭用電気料金の値上げ、大規模な漏洩事件などの影響を受けて、2012年から2014年にかけて導入数は下がり続けた。しかし、個人情報を扱う企業でも独自開発のシステムを導入するなど、テクノロジーの発展によってセキュリティの担保が可能となったことから、自宅の個人所有のPCで在宅勤務ができる企業が出てくるなど、少しずつではあるが、再びテレワーク導入企業が増え始めている。
とはいえ、先に記した、情報セキュリティや、労務・人事評価などの課題から、テレワークの導入に足踏みをする企業は、まだ多く存在している。
(※1)BCPとは、災害などリスクが発生したときに重要業務が中断しないこと。また、万一事業活動が中断した場合でも、目標復旧時間内に重要な機能を再開させ、業務中断に伴うリスクを最低限にするために、平時から事業継続について戦略的に準備しておく計画のこと

<課題1 情報セキュリティ>

情報セキュリティ対策は性悪説で考える必要があり、技術的対策として大きく以下の3つがある。

・入口対策:外部(インターネット)からの不正な攻撃等の脅威を「入れない」
・内部対策:PCのセキュリティを進化する脅威に合わせて、最新の状態に「保つ」
・出口対策:重要情報を外部(インターネット)に「出さない」


また、外部攻撃については、サイバー攻撃の一種である標的型攻撃が昨年から増えている。
この攻撃は外部からネットワークを接続しなくても、メールに添付されているファイルを開いてしまえば、どこにいても攻撃が可能であるため、内部対策・出口対策に加え、特に入口対策となる社員への教育が必要となる。

テレワーク時の接続方法としては、VPN・シンクライアント・リモートデスクトップが多く使われているが、接続までにいくつものセキュリティでパスワードを入力するものなど、システムによっては起動までに時間がかかり、従業員へ心理的負担を強いるものもある。
但し、シャドーIT(※2)のように、個人所有のスマートフォンやPCの方が使い勝手がよく、使用できてしまった場合の対策として、最終的にはテレワーク勤務を行う従業員に誓約書にサインをして貰うことで、人的なセキュリティを担保するのが実情である。
(※2)シャドーITとは、企業が業務において、私物端末の使用を許可しない状況で、従業員が使用するケースのこと

日本企業の多くはファイヤーウオール対策の導入など、入口対策には投資を惜しまないが、出口対策に重きを置いている企業はまだ少ない。端末のシステム情報/状況の管理などの内部対策としてログをとるだけでなく、出口である「情報を外に出さない」ための対策も早急に対策する必要がある。

―法令から対策を考える

企業が法律や企業倫理を遵守するコンプライアンスの中に、個人情報保護法があるが、情報セキュリティの観点で考えると、個人情報保護法だけでなく、社員への教育や社内での措置が必要な様々な法律が多くある。テレワークを導入しようとした場合、最低限守らなければならない法律は以下である。
第3回 テレワークは風土と文化の戦いである
なお、サイバーセキュリティ基本法については、最近制定された法であり、経営者に向けたサイバーセキュリティ経営ガイドラインは、企業において実施すべき対策として以下の「重要10項目」が挙げられている。
このように、テレワークにおける情報セキュリティに関して、様々な規定が法律で定められている。
したがって、企業は上記の法の定めに基づきテレワークを進めていかなければならない。
だが、既に導入している企業でも、上記の対策をしていない企業も多く存在している。
サイバー攻撃の増加が懸念される東京オリンピックまでには、上記の対策を講じてしておきたい。

-事例から情報セキュリティ考える
個人情報の機微情報を扱う企業であるA社は、社員のワークライフバランス、およびIT化による生産性の向上を目的に、特定の職種・職務を担う従業員や、育児・介護などの事情がある従業員に対してテレワークを導入。しかし、時間的に余裕のない社員にテレワークにおけるツールの使用方法等の教育を実施することができず、顧客の個人情報保護という高いセキュリティニーズを確保した仕組みをつくることができなかった。それによりテレワークの導入を断念するに至った。

この事例では、個人情報保護法で定められている、個人情報・機微情報を扱う企業の社員への教育を実施できなかったことで人的安全管理措置を担保できず、テレワークの導入を断念したケースである。

<課題2 労務管理の課題>

労務管理は長時間労働の是正と同じく、風土・文化との戦いであるといえる。
この課題をクリアにすることこそ、働き方改革だ。

自分の部下が在宅勤務になった場合、1人ならば何とかなるだろう。だが、部署の半数が在宅勤務になった場合、どのように労務管理をすればよいのだろうか。

現在、殆どの企業で、在宅勤務者の就業時間等の勤怠の管理には、始業・終業時に電話をする、もしくはメール送る、といった方法を導入している。だが、ちゃんと仕事をしているのか、さぼっていないか、という風に管理者が疑った場合、チャットやメールでの確認を定期的に行うには工数がかかり、管理職自身の生産性が落ちる。これを複数人やるとなれば管理職の業務は止まる。

また、日本の企業の殆どが、労働時間として8時間拘束する代わりに定額の賃金を払っている以上、在宅勤務であっても生産性を上げて早く仕事を終える、ということはできない。子供が寝てから仕事をしようとする場合は深夜残業になってしまうため、基本的に認めていない企業が多い。

では、管理職はどの様に在宅勤務者の労務管理をしているのだろうか。
常に座席に座ってする仕事でも、打合せや休憩で席を外すことはある。その都度スケジュールを確認するだろうか。また、目の前の部下が、今何をしているのか随時把握しているだろうか。PCを常に覗き込み確認をする、ということはあるのだろうか。
出社をしていても、在宅勤務でも「顔が見えない」というだけで、変わらないことも多いのではないだろうか。
一方で、出社と在宅の違いでいうと、「席にいる、いない」ということの他に、声をかけたい時に話しかけることができる、といったコミュニケーションの取り方についてだろう。

これらのことからテレワークで必要なのは、管理職と在宅勤務者の両方への意識改革とコミュニケーション改革であるといえる。

労務管理と人事評価の課題である、テレワークに対する思い込みや不安解消については、教育することや人的対処にて払拭可能だ。技術的な面でいうと、テレワーク時の労務を可視化するツール等、さまざまなツールが開発されており、管理者が勤務状況を閲覧できる他、従業員側も働いたことの証明ができるようになってきた。数多く販売されている中から、自社に合ったツールを探してみるのも一つの方法である。予算が取れない場合には、テレワーク向け在宅勤務用の労務管理・人事評価規定を策定することで対処することもできる。社労士に相談するのも一つの手だ。

「テレワーク実施者は真面目な人ほど心理的負担が大きい」と言われている。なぜなら、会社に対して「在宅勤務にさせてもらっている」という気持ちから、その負担を発信することが少ない。企業がこの不安をキャッチするためには実際に在宅勤務を実施している社員に対し、アンケートやグループインタビューなどを行い、心理的な負担はもちろん、在宅勤務における課題を洗い出し、解決していく必要がある。

以下はテレワーク導入の評価として、設定しておくべき項目である。
評価項目は数字で定量的に評価できるものと、直接数字としてはあらわせない定性的な評価がある。
この定性的な評価項目は、労務に関わる項目が主となっており、導入後の評価基準となっている。

・業務プロセス(情報共有度、仕事の質、生産性)
・コミュニケーション(頻度と質)
・人事評価(テレワーク実施者の満足度)
・自立性(業務の自立的な管理に対する評価)
・働き方の質(仕事に対する満足度・通勤の疲労度)
・生活の質(個人生活・家族とのコミュニケーションの満足度)


上記の項目において評価が高かった場合には、テレワーク実施における社員の満足度が高いということに繋がり、企業価値を高めることができると言えよう。

-事例から労務管理を考える
B社では、外部アクセスができない会計専用端末、および紙資料が必要となる業務以外の全業務をテレワークで実施したが、テレワークシステムの導入や運用に膨大なコストがかかり、コミュニケーションツールの強化に予算を回すことができなかった。それにより在宅勤務者と管理者とのコミュニケーション不足による情報の共有に支障をきたした。その結果、生産性の低下が課題となっていた。また、現行の法制度では深夜勤務を希望する場合に深夜手当を払わないといけないが、会社として認められなかった。経営者のテレワークに関する理解が得られず、企業風土の問題もあり、結果として在宅勤務制度を断念した。

このように、経営者を含め、社員の意識改革、コミュニケーションツールの重要性、テレワーク導入前の計画、守るべき法令など、テレワークを成功させる為には様々なハードルがある。それらをしっかりとクリアにしていくことで、テレワークを実現させていくことができる。

次回はテレワークの人事評価・コミュニケーションについて解説する。
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