英語力以外に必要な能力は何か

米倉:さて、「英語力以外に必要な能力は何か」というテーマはどうですか。

稲垣:グローバルな環境では、やはりロジックが大事です。僕は7年前、英語を話せない状態でいきなりインドネシアに行きました。結果、何とかなるかなと。完全にマインド先行型の人間ですね(笑)。さらに僕は仕事柄、人の前でしゃべることが多かったので言葉をうまく扱えないのは困ったんですが、解決策としては資料を一生懸命作りました。パワポで資料を作りこんでいって、こちらの英語はたどたどしくても目力で訴えかけて、詳細はパワポの英語を読んで理解してもらうという感じ。ただ、資料のロジックが間違えていると彼らは納得しないので、どうやって相手に伝えたいことを伝えるか、説得するかっていうロジックの部分は逆に海外に行って鍛えられたかもしれないですね。

米倉:海外に出てみて鍛えられたのは英語じゃなくロジックだった。面白い。岡田さんはどうですか。

岡田:私はさっきの話に戻ってしまうんですけれども、自分の英語力を過小評価しない能力は結構重要かなと思いますね。それこそ日本人の英語力がそんなに低くないということは事実だと思っています。自分自身の経験を考えてみても、実はこのビジネスをやっているのもそれが最初の発端なんですけど、私はマッキンゼーに入って英語が全く分からなかったんですね。仕事が基本的に英語で行われて、もちろん自分もミーティングで英語をしゃべらなきゃいけない。自分としては英語がすごい苦手だと思っていたので、自分の話なんかは多分誰も興味ない。下手な英語で話すのは恥ずかしいっていうのがあって、自分は英語が話せないなと思っていたんです。

ただ、ある時すごいゆっくり英語を話すように変えた瞬間があって、そうしたらみんながしっかりと聞いてくれたんですね。そこから自信ももちろんつきましたしパフォーマンスが上がりました。特に、今のこの世の中はノンネイティブ同士のコミュニケーションじゃないですか。なので、誰も別にうまい英語を求めてないということを考えると、実は自分の英語力はそんなに低くないんだっていうことを自覚する。その能力がかなり大事なんじゃないかと思いますね。
第28話:日本企業の革新のために必要な「強いバイタリティ」や「リスクを恐れないチャレンジ」とは
米倉:そうですよね。日本人って英語ができないことはないですよね。だから一介のアメリカ人が「I can speak Japanese.」っていうのと同じで、「I can speak English.」だと。バンバン気にせず英語を話すのが大事なんだってことでいうと、やっぱり中身かな。僕はアフリカの留学生を日本企業に紹介するっていうプロジェクトをやっているんですけれども、ある建設会社に紹介したアフリカ人達が1日目の夜に、女子寮にナンパしに行ったっていうのを聞いて、負けているなと思ったね。このままいったら日本はマイナーな生物になってしまう。バイタリティが違いますよね。どこであっても何があっても生き残るぞという精神。自分がどこかアメリカの企業に行って初日に女子寮に行くバイタリティがあるかなと思うと、いやこれ駄目だなと思うわけ。だから英語の中身ももちろん大事だけど、どんなところでも生きていくぞっていうようなバイタル、そこが必要かなと思うんですよね。

稲垣:インドネシアには、チャイニーズインドネシア人といわれる華僑の人達が3%ぐらいいるんですが、その人たちでインドネシアの60%の富を占めているといわれるぐらい強烈なパワーを持っています。彼らとミーティングをしていると話が決着するまで終りませんし、時間なんか関係なく喉がカラカラになるまで話し続ける。日本人って1時間でミーティングを区切るじゃないですか。会議が終わる5分前ぐらいになるとまとめに入ろうとする。では次回のMeetingでは……と言って。でも華僑の人達と話しているとその後の予定とかは置いといて、決着をつけてくる。まさにバイタリティを感じます。

米倉:人間は動物だから、食うか食われるか、生きるか死ぬか、やるかやられるかっていう世界もあるわけね。僕、松下幸之助が初めてニューヨークに出て行った時の話を読んだんだけど、当時日本から持ち出していい金額は300ドルだったんですよ。そんなので暮らしていけるわけないのにみんな行って、松下幸之助も「俺がパナソニックを背負ってきた」って言ってニューヨークで勝負をしてきた。その頃の日本人ってすごかったなと思いますね。

それから、僕はミラノのボッコーニ大学というところで教えていたんだけど、ミラノではファー(毛皮)のファッションショーがあるわけ。日本人なんかはその頃、10年ぐらい前かな、行くとみんなおしゃれな格好して、「oh yeah!」とか言ってイタリア人とか世界中のバイヤーとシャンパンを飲んでいた。その横に5~6人、ドブネズミルックと呼ばれる格好をして、メガネ、カメラを持った人たちが、そんなパーティーには混ざらないで裏のほうでJINROを飲んでいた。「なんだあいつら?」と思っていたらそれが「JINDOファー」っていって世界最大の韓国の毛皮カンパニーなんですよ。そういうのを見るとその韓国人達のパワーもすごいと思ったし、50年代60年代の日本人のパワーもそう。我が師匠、野中郁次郎先生がよく言うのは、彼は八王子で米軍のグラマン機の射撃を受けたとき、パイロットと目があったっていうわけ。彼がいまだに海外で論文を発表するっていうのは、なにくそっていう気持ちがあるんだよね。日本人が英語力以外に必要な能力は何かとしたら、俺が日本人だぞっていうような精神。そういうのが大事かなと思います。

稲垣:それを今の日本人がどうやって取り戻せばいいのでしょうか。

米倉:「なめるなよ!」というパワーを持って、どんなことがあっても生き抜いていくぞ、という力が僕は大事な気がする。ただ謙虚であることは大事。どんな人間でも謙虚じゃなきゃいけないし、僕は謙虚さがない立派な人に会ったことがない。信念とか生きていることに対するギラギラ感では、やっぱり柳井さんとか孫さんとかはすごいよね。ギラギラしているもんね。文句あるかっていう世界だから、そうじゃないとある意味成功できない。大企業に勤めてコロナ禍も生きるっていう穏やかな人生が日本社会の一つの憧れのゾーンみたいになっているのがいかんと思う。あんまりハッピーじゃないよ。もっと楽しい生き方があるよっていうのをみんなが示すことが大事かなとは思いますけどね。

自ら修羅場を作ってみる

稲垣:視聴者からのご質問です。「自分に自信を持つには、いわゆる修羅場体験が必要だと思います。修羅場というとビジネスで海外子会社の社長をやる等といいますが、もっと日常で修羅場を体験するにはどうしたらよいでしょうか」。

米倉:自ら修羅場を作って、やっちゃいけないことをやる。修羅場は降ってこないから、修羅場を作っていくしかないよね。

稲垣:先生は昔からそういう気質なんですか?

米倉:いや僕は謙虚な人間ですからそんなことはしませんでした(笑)。でも、易しいほうと難しいほうの選択肢があったら「難しいほうをとれ」っていうのは結構昔からですね。

岡田:プログリットを受けていただいているお客様で、一番有名な方が本田圭佑さんなんですが、彼も全く同じことを仰ってまして。彼はいまもすごく忙しいんですけど、1日2時間半、朝5時から英語の勉強をされているんですね。お話をしたときに、なんでこんなに続くんですかという質問をしたんですけど、彼が仰ってたのが、「3ヶ月に1回ぐらい自分だと絶対に失敗する英語の場面を作る。例えばアメリカの生放送のインタビューとか、こういうのを無理やり入れる」っていうんですよね。絶対に失敗する経験をつくって悔しい想いをして、だから頑張れる。これが自ら修羅場を作るということだと思いました。
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リスクをとらないことが最大のリスク

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