就職活動の不安

稲垣 ICS卒業後、みなさん就職活動をすると思いますが、不安はありますか?

アルム 就職そのものが不安ですね。どのぐらい時間がかかるかもわかりません。

プーリット 日本の就職活動は、1次面接、2次面接、3次面接、最終面接もあるじゃないですか。タイの場合だと、1ヵ月以内に全部が決まり、就職できるかできないか、はっきりした回答がもらえます。でも日本はちょっと長く回答がわかりにくいです。また、日本は新卒を基準に考えるから、中途や第2新卒でも、新卒の給料とあまり変わらないことも、不安です。

稲垣 ドイツや韓国ではどれくらいで決まりますか?

ドロテア 面接は大体1つ、多くても2つなので、1ヵ月以内には済むと思います。

アルム 韓国も結構短いかな。1ヵ月ぐらいの間に面接が何回あっても、スピーディです。

稲垣 なるほど。日本は面接官が単独で決められないので複数人で合意形成する。そのために時間がかかってしまうんですね。その反面、人を採用するっていうのはとても大事なことで、簡単に辞めずに長く働いてもらいたいという慎重さはあると思います。就職するうえで大切な条件。譲れないことは何かありますか?

プーリット 「休み」です。

ドロテア 賛成です。

稲垣 「休み」とは、どういうことですか?

プーリット 日本の場合は、規則や要項に休日の日数を書いていても、実際には土曜日に出社しなければならないといった会社がたくさんあるので、そこは大事だと思います。

ドロテア 私はちゃんと休みをとれるかどうか。例えば、娘が病気になったら、普通に半日休みをとれるのかとか。あと、家で働けるフレキシブルなシステムがあるかどうか、とか。私にとってはとても大切です。

アルム 私は「ジョブディスクリプション」ですね。「何でもやってください」というのは駄目だと思っています。

プーリット タイも業務内容については、詳細に、具体的に書きますね。私は、もし1つの会社はジョブディスクリプションをはっきり書いていて、もう1社が曖昧だったら、はっきり書いてある方に就職しますね。

稲垣 ほかに、日本の会社で働くうえでの不安はありますか?

ドロテア 外国籍の人を公平に評価するかどうか、です。

プーリット それ、私も賛成です。
第23話:日本ならではの新しいダイバーシティマネジメントを構築する
稲垣 プーリットさんは、以前の会社で感じたと言っていましたね。

アルム 私は今までは経験しななかったけれども、外国で働く時、その不安はいつも感じています。特に日本だけ、ということではなく、アメリカで働いていても外国籍ですから。また、正直なところ、日本で外国人がトップマネージャーになるのは珍しいと思いますが、それは韓国でも同じです。

ドロテア ドイツでもそうだと思います。有名企業でもトップマネージャーにドイツ人以外の人がなるのは本当に珍しいと思いますね。

アルム 卒業後日本で働きたいという気持ちはありますが、実際に入社したらどこまで私が組織の中でステップアップできるかは、ちょっと疑問です。

稲垣:なるほど。先ほど話に出た、ジェンダーのダイバーシティマネジメントはどうですか?

ドロテア ジェンダーも不安ですね。ドイツでもやっぱりマネジメント層には女性は少ないですが、日本よりはまだ多いと思います。

アルム 韓国もまだ少ないです。女性もだんだん増えいてると思いますけれども、やっぱり難しいですね。

プーリット タイは半分半分ぐらいです。

稲垣 タイは、結構進んでいるんですね。

プーリット そうですね。仕事がすごくできる女性達が活躍してCEOとかディレクターとかになっていることも多いです。

稲垣 では最後に、「自分の国の誇らしい文化」を教えてください。

アルム 韓国だったら「スピードが速い」ということですね。

ドロテア ドイツは「効率的に働く文化」ですね。

プーリット タイは「柔軟性」です。

稲垣 なるほど、わかりました。今回のディスカッションを通じて日本の特徴であったり、進化して変わっていかないといけなかったりする部分がたくさん見えました。みなさんのような優秀な方々に、是非、自分・母国の素晴らしい部分を活かして、日本で働いてほしいと思います。本日はありがとうございます。
第23話:日本ならではの新しいダイバーシティマネジメントを構築する

対談を終えて

今まで、何百人と日本・日系企業で働く外国人の方々にインタビューをしてきた。今回のテーマは、何度も何度も聞いてきた、外国人の方々が感じる疑問や不安である。正直なところ、ディスカッションの中であがったキーワードは、7年前に私がこのような情報収集を始めた頃と変わらず、新たな発見はなかった。これは、逆に言えば、その課題が、変化なく、まだまだ根強く残っていることだともいえる。

このコラムを読んでくださった日本の方々の頭の中には、コミュニケーションの仕方、残業や休暇、昇格の考え方について、「そうは言っても仕方がない」、「これが日本人のやり方だ」と感じられた方もいたと思う。かくいう私も、外国の方から日本文化の特徴を指摘されて、そう感じることもある。しかし、人手不足により外国人の方々の働き手を増やしたり、グローバル展開のために優秀な外国人を雇い入れたり、ビジネスの相手が国境を越えていく現在、我々日本人の「特徴」を客観的にとらえ、改善すること、強みに変えること、異文化を取り入れることを見出し、「日本ならではの強いダイバーシティマネジメント」を作っていく時代なのだと思う。


【取材協力】
チェ・アルムさん

1988年、韓国ソウル生まれ。中学校の時から海外留学。初めて日本への渡航は2008年、早稲田大学入学のために。 現在、一橋大学ICSのMBAコースに在学中。

得能ドロテアさん
1984年、ドイツ生まれ。ボン大学 教養学部 日本学科を卒業後、2012年来日し、東京横浜独逸学園の事務室に入社。2019年に一橋大学ビジネススクールのMBAコースに入学。

キントン・プーリットさん
タイ生まれ。大学では経済学を専攻し、2012年長崎大学に交換留学で日本語を覚えた。2017年日本に転職。現在、車業界のコネクテッド・モビリティやMaaSなどに興味をもっている。
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