すでにダイバーシティ対策は落ち着いたのか?

そんな日本のダイバーシティも、最近では一服感があります。大手企業では女性活躍推進が落ち着き、女性役員も多く誕生しました。女性活躍に一定の成果がみえたため、人事部は「働き方改革」ブームに移行し、「ダイバーシティと女性活躍は落ち着いた」という認識があるでしょう。

とはいえ、まだまだ課題もある状況です。政府は2010年に、女性管理職比率を2020年に30%まで引き上げる目標を掲げました。しかし帝国データバンクが2019年7月に全国約2万社に実施した調査によると、女性管理職比率は平均7.7%に留まっています。

人事部としての実感では、女性社員の多い職場と少ない職場との間で、ダイバーシティに対する格差が広がっていることが考えられます。実際にダイバーシティの成功事例として取り上げられている企業は、女性社員が多い企業ではないでしょうか。

日本はもともとものづくり大国です。メーカーのなかには、そもそも女性社員がいない職場もあります。また、BtoB企業では女性活躍がまだまだ追いついていません。例えば、食品メーカーや化粧品メーカーなどのBtoC企業では、「女性が活躍することで新しい商品が生まれる」などの目に見える効果があるでしょう。しかし部品メーカーなどのBtoB企業では、女性活躍推進の効果が見えづらいため、経営者や役員に対してダイバーシティの重要性を説得しづらいという事情があります。

例えば、日本にはベアリングや半導体といった、優れたニッチメーカーがたくさん存在しています。こうしたニッチメーカーでは、技術力とコスト効率が重視されます。加えて、女性社員も全体の数%しかいない状況です。「効果のわからないダイバーシティ推進にかける工数や時間がもったいない」というのが、こうした日本企業の本音です。実際に某大手BtoBメーカーで働く人事部長の方と話した際には、「正直、ダイバーシティがうちの会社にどんなメリットがあるのか役員に伝えるのが難しい」と話していました。

最近のダイバーシティは、ダイバーシティで成功を収めた企業、ダイバーシティに取り組みたくても女性や外国人が少なくて取り組めない企業、そしてダイバーシティのメリットを理解できない企業にわかれていると考えられるでしょう。

「手段」が先行してしまう人事部の現状

近年、日本企業の人事部のブームは、目まぐるしく変わっています。ダイバーシティに取り組んでいたかと思えば、次は働き方改革の波が押し寄せ、さらには通年採用や終身雇用制の終焉、そして在宅勤務普及にコロナ禍がやってきました。経営陣からは息をつくまもなく目標が設定され、「他社はみんなやっているぞ」と軽く脅されながら、なんとか職場環境を世間水準に合わせようと必死になっているのです。

一方で、この10年間で本当に企業成長に貢献できる人事施策ができたかというと、自信をもって首を縦にふれないものです。自戒の念を込めてお伝えしますが、日本企業の人事部では、ついつい手段が先行しがちです。というのも、この10年ほどの人事は、ブームに乗っていればそれなりに「仕事をした」と言えたからです。

ダイバーシティにしても、働き方改革にしても、それらは単に手段でしかありません。本当に会社を成長させ、より生産的にするためには、他にも取り組むべきことがたくさんあるでしょう。正直に言えば、人事担当者だって、本当はもっと会社の課題解決になる仕事がしたいと思っています。しかし、世間のブームに押されてしまい、本当にやるべきことができていないのです。

人事担当者は、時には世間のブームにNOと言いながら「いまウチの会社にはもっと重要なことがあります」と、経営陣に上申できる勇気を持つべきなのかもしれません。
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