日本型「ジョブ型雇用」時代の始まり

この先業務が高度化、専門化していくとはいえ、現在の日本はまだ過渡期です。多くの企業は未だに年功序列型で、業務内容にかかわらず、ある程度一律の賃金を社員に支給しています。しかし、徐々にゆがみが起き始めています。

転職市場が活性化したことで人材の価値が評価されるようになり、同じ年齢や職種でも、より専門性やスキルの高い人材の方が、年収が高くなるケースも出始めています。しかし現行の制度では、仕事(ジョブ)ではなく、会社に所属することに対して賃金を支払う方法が主流です。個別に賃金を設定することは難しいため、業務の種類や難易度によって差をつけることが、人事の現場で検討され始めています。

新たな雇用制度をつくる手法として、「人材ポートフォリオづくり」が注目されつつあります。人材ポートフォリオとは、事業に必要な人材の種類を定義したものです。金融の世界で、ポートフォリオは投資対象の資産を組み合わせることを指します。それと同じように、企業でも人材を「組み合わせて」保有することが考えられているのです。

最も簡単な考え方は、業務の専門性の高低と、定型・非定型の軸で人材を分ける方法です。例えば新規事業開発は「専門性が高く非定型業務のできる人材」として定義され、反対に事務作業をする人は「専門性が低く定型的な人材」として定義されます。

企業で働くほとんどの人は定型的な業務をしています。基本的に毎日同じことを仕事としてこなし、自ら企画を行うことは稀です。また定型的な業務の中でも、例えば法務や情報システム部門などは、高度な知識が求められる場合もあります。

企業の価値の源泉をつくるのは、戦略や新技術を考える「高度な非定型人材」です。このように考えていくと、高度非定型人材は最も賃金が高くなるべきで、次に賃金が高いのは高度定型業務を担う人材であることがわかります。

このように業務内容で人材を区分すれば、企業にとって必要な人材を確実に確保しつつ、賃金のバランスを取ることもできるようになります。欧米では個人ごとに賃金が異なることは当然ですが、日本ではまだ難しいため、こうした業務区分別の雇用制度がこれからの主流になると考えられます。

今後は「2極化」と「個別待遇」になっていく

こうした人材ポートフォリオに基づく雇用が主流になっていくと、これから日本の人事はどのように変わっていくのでしょうか。キーワードを考えてみました。

現地化の加速
グローバル企業ではさらなる現地化が進んでいくでしょう。これまで日本企業では、海外法人の責任者は日本人が担い、現地の人材は定型的な業務を行うことが中心でした。しかし最近は、責任者も現地人材が担うようになってきています。特に昨今の社会情勢の影響で海外渡航のリスクが顕在化した中では、今後、現地化の流れがますます加速すると考えられます。現地人材が責任者を担えるように、人事も採用や育成の面で施策を考えておくべきでしょう。

人材の2極化
人材ポートフォリオに基づく雇用が中心になると、今後は専門性が高い人材とそうではない人材の2極化が進むと考えられます。また在宅勤務が主流になれば、専門性が低い事務作業を担う人材は、主婦や学生のアルバイトで補う可能性も広がります。そのため人事としては、専門性が高い人材だけを残し、専門性が低い人材は外注することを検討してもよいでしょう。また、地方の優秀な人材を在宅のまま採用することも可能です。人件費の費用対効果を高めるためにも、広い視野で人材ポートフォリオづくりを行うべきではないでしょうか。

優秀人材への個別待遇
非定型かつ高度な業務を担う人材の中でも、AIやIoTなど新たなテクノロジーを活用できる人材はかなり限られています。こうした人材には、個別で待遇を設定することが既に始まっています。限られたAI人材に対しては、新卒でも年収1,000万円以上を支払う企業も出てきました。人事としては、優秀な人材に対しては、他の人材と大きく差をつける個別待遇を考えることが、これからますます求められるでしょう。

このように、これからの日本では、雇用のあり方が大きく変わっていくことが考えられます。新たな時代に向けて、どんな雇用制度がよいのか、人事として今から検討を進めるべきではないでしょうか。
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