【第1部】大学キャリア教育の最前線から見るイマドキ若手の就活とキャリア観とは 講師 法政大学キャリアデザイン学部・田中研之輔教授

「令和時代のキャリア開発をアップデートする! 研究者と調査から紐解く、新人からはじめる『キャリア開発3.0』とは?」Original Point主催セミナーレポート
令和時代のキャリアアップデートには3つの要素があると考えています。キャリアデベロップメント(開発)を考えるときに、キャリアストラテジー(戦略)が必要。そして、世の中が不透明で変化が激しい中、意思決定ができずに路頭に迷う人が増えてくるので、キャリアキャピタル(資本)による支援も必要と考えています。

私は企業顧問と大学のキャリアワークをライフワークとしています。これまで5,000人ぐらいの就活生を送り出してきて、600社ほどの企業でヒアリングを続けています。令和時代のキャリア開発でみなさんに最初に届けたい言葉をまとめると、「大学生と社会人を『つなげる』」、「大学と社会を『橋渡しする』」ということになります。

企業は、生産性を高めることから逃げてはいけないし、変化に適合する人材をひとりでも増やさないといけない。55歳で役職定年したのちのミドルシニアのキャリア開発も大事ですが、これから長く働いていくであろう若手に何を伝えるかがより大切です。点としての就活を伝えるよりも、もう少し広い意味で組織と個人の生産性をいかに高めていけるかということを考えながら、大学生と社会人をできるだけリアルにつなげていく。大学と社会の橋渡しがキャリア開発のベースとしては必要だと考えています。

キャリア開発をしていく上で、人事戦略・採用戦略・事業戦略はあるのに、キャリア戦略がないのはおかしい。キャリア戦略を自社で考えることは、令和時代のキャリア開発のアップデートには不可欠です。では、キャリアとはなんでしょう。それは「生涯のプロセス」です。

「仕事に就く人は、誰でもキャリアを形成する」とは、アメリカの心理学者、ダグラス・ホールの言葉ですが、ビジネスの視点だけで考えず、これぐらいシンプルに理解していてください。ここにいる参加者の方々もそれぞれのライフイベントの中で別々のキャリアを形成してきたと考えてもらえばいいのです。たとえば、サイボウズでは、100人いれば100通りの人事施策をやっていますので、この点で少しリードしています。これは部署サイズから始めていってもいいと思います。

昨年、経団連の中西会長やトヨタの豊田会長が終身雇用の制度疲労に言及しました。中西会長は「自分のキャリアは自分で設計する」とも述べています。こうした言葉がいまの若者に入っていき、「最初に就職する会社でフィットしなければ、次に行くかもしれない」という想像がリアルになっています。転職はネガティブイメージではなくなってきています。News Picksでも30代以下の方々に調査すると、およそ5割が転職を経験しています。キャリア形成ができないと判断すると、キャリアをほかの場所に移していく。中には、30歳で6社を渡り歩いている人もいる。さすがにそれではキャリア資本が貯まらないので、少しブレーキをかけないといけませんが、時代背景としては、そういったいままでにないことが起きています。国も「働き方改革」を掲げ、多様な働き方、自分に合った働き方を選んでくださいと言っている。キャリアは自分で形成しなければいけないんだなということが伝わってくると思います。

私自身が大切にしているのが、「プロティアン」という感覚です。プロティアンというのは「組織と個人が共に成長し続ける術」であるというキャリア論で、1976年にダグラス・ホールによって提唱されました。火にも水にも蛇などの動物にも変わるギリシャ神話の神・プロテウスからきていて、英語では「変幻自在」という意味です。これまでのキャリア論・キャリア観とプロティアンはまったく違います。これまでは組織の中でも昇進・昇格といった垂直的なキャリア形成についてフォーカスしていたものが多かったのですが、いまはキャリアの形成は自分でハンドリングする時代。主語が組織から自分へと変わります。個人個人が力を発揮してくれている場所が、いまのこの会社なんだと捉えることです。個人を主語にキャリア開発支援部やキャリア開発部をやっていくことが、いまの時代のキャリア観に合っているのです。

これは、令和時代のキャリアアップデートは自由にいろいろなところに行き来する、自分たちで好き勝手に転職していいよということではなく、あなたのキャリアをアップデートさせていくチャンスがうちの会社にはあるというメタメッセージを打っていくというのが新卒採用におけるキーポイント。うちに来てくれれば鍛えるよ、うちで使える人材になるよというような閉じた話ではなく、「結果的には転職も応援していく」といったくらいのメッセージが若者に“刺さり”ます。転職と副業が2つのキーです。55歳で役職定年になってそのあとは年収が1/3になる、というような会社には、学生たちは行かなくなります。

こうした流れは「キャリア自律」という言葉でひとくくりにできます。組織にいながらキャリア形成をしていくということを、キャリア開発の現場では最重要事項として舵取りをしていくことが大事です。

「楽しい」とか「やりがいがある」とか、「時間を忘れるぐらい仕事に打ち込んでいる」という環境をどうやって職場に作るか。企業にヒアリングすると、そういう職場は少ないです。スキルを獲得しているけどチャレンジがない。負荷が低いと、人は飽きてしまうんです。仕事がつまらないと文句を言い続ける。スキルに対して相関で高いレベルのチャレンジを与えていく。つまり、業務をしっかりマネージメントしていけば、本人たちはやりがいを感じながらキャリア形成をしていくことができるのです。

大学生を見ていると、誰もが自分らしく社会の役に立ちたいと考え、成長意識を強く持っています。そういう職場を見せていってあげればいいのです。彼らは情報に対するアクセシビリティがいいので、いろいろな情報を手にしています。役に立っていきたいからそのために勉強しているし、社会に出たときはちゃんとやろうと思っています。

彼らのタイプは2つに分かれ、割合は「6:4」程度です。統計ではなくヒアリングで得た感覚ですが、現状維持でいいかなというのが4割ぐらい、自己変革・成長したい、社会のために役に立ちたいと思っているのが6割ぐらいです。
「令和時代のキャリア開発をアップデートする! 研究者と調査から紐解く、新人からはじめる『キャリア開発3.0』とは?」Original Point主催セミナーレポート
図:大学生のタイプ別行動特性

現状維持組は高校生の延長のままの「ポスト高校生」、自己変革のスイッチが入った大学生のことを「プレ社会人」と呼んでいますが、とにかく大学の現場でプレ社会人を増やしていくことが重要だと思っています。キャリア体系という授業では、1年間のプログラムの中で企業の方に毎週来てもらい、いろいろなワークを行っています。

私は、大学教育というものは大学の中に学生を閉じ込めないということがポイントだと思っています。そこで、企業の人事の方々はどういった戦略性を持って、どのような採用をしているかということを、そのまま学生に伝えています。そうすることで、大学生が人事の方々の目を持つようになるのです。そうして就活に入っていくことで、プレ社会人を増やしていっています。

いま、「インターン」は違うフェーズに来ています。キャリア開発をうまくやっている学生たちは、たとえば水曜日の午後と金曜日の合計1.5日を使ってベンチャー企業などのビジネスシーンの現場に入ってみています。雇用関係上、1.5日を受けいれる大手企業はなかなかないのですが、そういった経験をした学生たちが将来大手に入社することはありえるし、ベンチャーにそのまま入る人や起業する人もいます。

一方、企業に目を向けると、人事の方の選択眼は的確です。大学側の評価基準、見る目と似ています。自社に合っているかいないかというジャッジメントはフィットしています。大事なのは、どのような行動をしてきた若者なのかをきちんと捉えること。採用イベントで採用のテクニックだけを共有していても、これからの社会の大きなうねりにはならず、「自社の認知度を高める」、「母集団を形成する」、「採用コストの削減や内定者辞退を防止する」といった方法に悩んでいることがわかります。

企業としては、包み隠さずきちんと届けていくことが大切です。採用活動だけをうまくやろうとしても、全部口コミで伝わってしまうからです。

最後に、「働くリアル」をどうやって伝えていくかということについてです。実際に業務として行っていることをしっかり伝えて、バージョンアップさせていくことが、若手には“ハマる”し、“刺さり”ます。たとえば動画コンテンツのようなオウンドメディアを持っている方は、経営者のメッセージ動画があるということですね。動画に出ることをリスクと捉えるかもしれませんが、よいものをリアルに伝えていくことはとても大事です。いま、私は学部の広報委員長としてPRのためにOriginal Point撮ってもらった動画をSNSで流しています。働くことのリアルを知りたいという若い彼らに、動画でも記事コンテンツでもきちんと届ける。企業の自社採用ページは、情報が多すぎるんです。人に届ける仕組みも戦略的に練っておくこと、設計することが大事だと思っています。

そして、自社の取り組みを伝えてください。学生はテレビを見ないし本もなかなか読まないので、方法としては自社のよい取り組みを動画で伝えるのがベストです。動画は音声を出さずに見ていることが多いようなので、字幕を入れたほうがより効果的ですね。

従来、過去からいままで何をしてきたのかを考えることがキャリア論でした。たとえば自己分析もそうです。しかしそんなことよりも、どのようにこれからをフィットさせていくかということに重きを置いてください。大学と企業の壁を「内破」するには、企業からも大学からも、いろいろなことを変えていかなければいけないでしょう。採用活動は「選考」ではなく「育成」でもあることを意識してほしいと思います。

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