現在の在宅勤務の課題や改善点

最寄り駅のサテライトオフィスまでの「駅まで通勤」がテレワークの理想的な働き方
簑輪氏 「おやこワークスペース」が普及すると仕事と子育ての両立ができて、ワークライフバランスがとりやすく、就業者が働きやすい環境となるでしょう。しかし、オフィスをいくら充実させても、子どもを連れて満員電車に乗るのはさまざまな問題があります。やはり、通勤を回避する在宅勤務がテレワークの目指す方向となるのでしょうか。

真鍋氏 在宅勤務がベストとは言い切れません。私自身、在宅勤務の時に、スカイプで会議中に宅配便が来て非常に困った経験があります。そのため、自宅は働く場に適しているのかという疑問が拭いきれません。

簑輪氏 在宅勤務のメリットはたくさんありますが、個人や家族、企業それぞれの立場でさまざまな考え方があると思います。ここからは、在宅勤務の課題や改善点について教えてください。

永塚氏 在宅勤務は勉強と同じで、家で仕事ができる人は家で仕事をするのが一番です。しかし、自宅には家族がいるうえ、机や椅子、Wi-Fi、エアコンなど勤務に最適な自宅環境を持つ人はそう多くありません。勤務に適した自宅環境がない人の選択肢として、当社はNewWorkを立ち上げました。その結果、自宅で仕事ができない人がNewWorkを利用していることがわかりました。

簑輪氏 真鍋さんは、企業からみて在宅勤務にどのような考えを持っていますか。

真鍋氏 情報漏洩の観点で「業務内容を家族にも秘密にすべきなのでは?」と在宅勤務については議論になりました。住宅メーカーの設計者から聞いた話によると、自宅に書斎をつくる家庭はほとんどないようで、家に父親の居場所がありません。そのため、ほとんどの人がリビングで仕事せざるを得ない状況です。現在の在宅勤務の課題は、仕事のためのエリアを十分に確保できないことだと考えています。

簑輪氏 日本の住宅事情では、在宅勤務は課題が多いと思います。NewWorkの実際の利用状況を聞かせてもらえますか。

永塚氏 NewWorkの利用者に利用目的のアンケートをとったところ、一番多かったのが「移動時間の効率化」です。その次が「会社ではできない集中作業」でした。会社にいると上司に呼ばれたり、余計な仕事を振られたりなど自分のやりたい仕事に集中できません。しかし、NewWorkだと社内の人が誰もいないので自分の仕事に集中できます。また、通勤ラッシュを回避すると体力を消耗しないので身体が楽になるとの意見もありました。どこでテレワークをしたいかアンケートをとった結果は「自宅の近くの主要駅」が一番で、その次が「自分の会社や取引先の近く」でした。

NewWorkを利用する時間帯については、朝に利用する方が一番多いことがアンケートから判明しました。当社としても、皆様に週1回テレワークをしてもらうだけで、東急田園都市線の混雑率が2割減少すると概算しており、新たに線路を作る必要がなくなるので助かります。また、帰宅前にNewWorkに立ち寄る方もかなりいます。通勤ラッシュのタイミングでテレワークを行うと時間を有意義に使えた、と実感する方が多いようです。

テレワークの理想的な働き方は「駅まで通勤」

簑輪氏 話を伺う限り仕事はあくまでもオフィス中心で、通勤電車の混雑をずらすために利用している方が多い印象を受けました。ここまでの話で、オフィス環境を充実させても通勤が避けられない、また、在宅勤務の課題も残されています。シェアオフィスは満員電車を回避できるけど、通勤時間は減っていないように思えます。

真鍋氏 自分の最寄り駅にNewWorkがあるのがベストだと思いました。1日1~2時間の通勤時間を自分の時間に充てることができれば、かなり充実した生活になるでしょう。勤務場所が自宅の最寄り駅にあれば電車に乗る必要もありません。「駅まで通勤」がテレワークの理想的な働き方ではないでしょうか。

簑輪氏 「駅まで通勤」とは、良いアイデアですね。駅前にサテライトオフィスができることで、就業者、家族、企業、地域社会にどのようなメリットがあると考えていますか。

真鍋氏 駅前のサテライトオフィスは、自宅を中心とした領域と仕事の領域の中間地点にあるものです。地域の就業人口が増えることで、地域商店街の活性化にもつながるでしょう。利益の出ている商店街は全国で2%程度しかないといわれています。商店街全体がシャッター街というところも13%もあるそうです。地域商店街にオフィスができることで、仕事の合間のランチや、子どもと一緒におやつの時間を過ごすなど、場所と時間を自由に使う機会が増えるのではないでしょうか。地域社会に人が増えることで、地域経済が活性化し、駅前商店街の個性もできるのかと思います。

簑輪氏 「駅まで通勤」をすることで、通勤時間の大幅な削減が実現するため、ほどよい緊張感で業務に集中できます。個人にも地域社会にもよい変化をもたらすでしょう。永塚さんの「駅まで通勤に」対する考えも聞かせていただけますか。

永塚氏 自分の住む地域でお金を使うことは地域の活性化にもつながります。当社は、鉄道事業者なので沿線が活性化することは非常にありがたいことです。当社も地域活性化を目的に街作りを行っています。電車を利用していただきたい気持ちもありますが、「駅まで通勤」は地域にいい影響を与えるうえ、家族との時間も増えるのでよい取り組みだと思います。近年、企業のBCP(事業継続計画)に対する考えが強くなっています。しかし、台風のような自然災害時に電車は通常通り運行できません。運行を再開しても最初の1本が動いているだけなので、そこに乗客が集中して長蛇の列ができることになります。災害時でもシェアオフィスやテクノロジーを使って、電車の混雑状況がわかれば、業務の効率化が実現するでしょう。

簑輪氏 真鍋さんは「駅まで出勤」を実現させるために何が必要だと思いますか。

真鍋氏 オフィスと同じことができる環境作りにはITの活用が必要だと思います。従来のようにオフィスビルを作るのではなく、街作りの一つのムーブメントとして地域のステークホルダーの方と連携することが必要不可欠です。日立製作所が地域のステークホルダーの方と協業していくことを期待しております。

簑輪氏 「駅まで通勤」の実現には、オフィスと同じことができる街作りが必須で、そのためには幅広いステークホルダーを巻き込み、ムーブメントを起こすことが必要と考えられます。永塚さんからみて当社が貢献できそうなことはありますか。

永塚氏 日立製作所から東急線アプリで当社の駅の混雑状況が見えるシステムを提供いただいています。当社は、ビジネスインフラとしてサテライトオフィスを展開していますが、さまざまな形で日立製作所のICTが活用できると思っています。例えばNewWorkの直営店は無人運営なので、混雑状況やWi-Fi環境、ネットワークセキュリティなどで日立製作所と協業できる分野はたくさんあるでしょう。

簑輪氏 現在のテレワークや在宅勤務にはさまざまな課題があります。駅前にサテライトオフィスを作り、「駅まで通勤」を実現することで仕事や家庭の両立、個人の生活がより充実することが本日のセミナーでわかりました。会場の皆様ご清聴ありがとうございました。

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