大企業志向であり、起業家志向であるインドネシア人!?
稲垣 インドネシア人のキャリアの考え方について教えていただけますか。小林 インドネシアには新卒採用という文化がありません。チャンスがあればアルバイト感覚ですぐに働き始め、1年も満たない間に辞めてしまうので、赴任されて間もない日本人の方は驚かれるようです。20代で2~3回転職するのは一般的で、30歳になってようやく自分の専門性を決める。そこから1~2回転職をして結婚をして、40歳くらいでようやく落ち着くという感じですね。定年が55歳なのでキャリアについても日本人よりも早い感覚で動いていて、日系企業がじっくり育てようと考えていると、チャンスがないと思ってやめてしまいます。どんどんキャリアアップできないと、見切りをつけて転職してしまうんですね。
稲垣 インドネシア人は国内大企業志向が強いと聞きます。
長濱 外資企業はトップが2~3年で変わってしまうので、不安定と感じるようです。上層部は外国人が占めているし、トップまで上り詰めることもできないイメージがある。現在のインドネシア企業は、欧米系外資企業と比較してもある程度高い給料で雇用する力があるので、安定感のある財閥とか、国営企業の人気が高いんです。
起業を将来の目標に置いている人も多いと思います。日本では退職したら生涯年金をもらえますよね。インドネシアでも2015年8月にやっと生涯年金の制度ができたのですが、十分な額をもらえるわけではありません。退職金は最大28カ月分出ますが、2~3年でなくなってしまう。つまり、国がすべて面倒を見てくれるわけではないので、安定するためには自分でどうにかしなければならない。大学でも一般教養としてアントレプレナーシップの授業があります。
インドネシアでは面接時に「将来起業したい」と発言するのは普通です。日本では「この会社でずっと頑張りたい」と言わないと採用されないことが多いようですが、この国は違います。これについては日本人の感覚ほうが特殊なのかもしれません。
彼らのキャリアアップ思考と起業志向は、日本のそれとは大きく異なります。そこを的確に捉えて、彼らに自社の従業員として働くメリットを、わかりやすい形で提示することが求められると思います。
インドネシア人の日系企業に対するイメージ
稲垣 就職市場において、日系企業はどのように見られているのでしょうか。小林 JACリクルートメントが作成している「アジア人材戦略レポート」によると、アジアのローカルスタッフは、製品・サービスの品質や雇用の安定、組織の規律などをメリットと感じており、言うなれば「精神的満足感」を得ているように思われます。一方で、給与条件や昇給・昇格を日系企業のデメリットと感じているようです。
長濱 当社が調査した、インドネシアにおける給与レンジデータがあります。これは、各職種・役職ごとに、Japanese Company(日系企業)とMNC(欧米系の多国籍企業)とLocal Company(インドネシア企業)の募集給与額を比較した図です。この図を見ていただくと、大体の職種において、非管理職クラスは日系企業のほうが高いのですが、課長職以上になると、日系企業とその他の企業の差がどんどんついてきます。この給与格差は、管理職クラスになると、日系企業から離れてしまう要因の1つになっていると思います。
小林 給与レンジに関しては、従来の給与システムを見直すことが必要かと思います。最近は金融業界をはじめ、市場ニーズに合わせてきている日系企業もあります。当然ですが、そうなると採用成果も大きく変わってきます。
また、日本人駐在員の方は2~3年で帰任してしまう方が多いのですが、それは非常にもったいないと感じます。どうしてもローカルの人たちとの人間関係が分断されてしまう。例えば、韓国の駐在員は片道切符で来ている人も多くて、じっくりローカルの方との人間関係を育てることを重要視している会社が多いです。もちろんこれは、それぞれ会社や家庭の事情があり、簡単な問題ではありませんが、長く駐在してじっくりと人材や人脈を育てていく制度を作ることも必要かと思います。
一方で、先ほどの調査でもあったように、日系企業に精神的満足感を感じている方も多く、これはどの国にもない強みなので、ぜひ引き続き強化していただきたいです。
本来、穏やかなインドネシア人と、従業員思いの日本人の性格は、非常に相性がいいはずです。賃金形態や社員のキャリアアップの仕方や駐在の仕組みなど、試行錯誤しながら、よい組織運営を作っていただきたいですね。我々は人材関連の面で強力にサポートさせていただきます。