のび太とドラえもんの関係が、人間とAIの理想の関係
野田氏:組織には、いろんな人材がいます。やんちゃな人もいれば、おとなしい人もいますし、力押しが得意な人もいれば、緻密なことが得意な人もいます。さきほど伊藤さんがおっしゃったように、個別にそれぞれのパフォーマンスを測れる評価制度が必要です。「働くこと」自体で価値を生み出すのではなく、最終的に「創造すること」で価値を生み出す時代に入ってきたということです。私はこれを、働き方改革ではなく、「成果の出し方改革」と言っています。いかにして社会にとって価値のある仕事をしていくのか。それには、心理状態や健康面まで含め、人が仕事を行う上で必要なあらゆるデータを集めることが重要になってくるでしょう。問題はこのデータを、誰がどのように扱うかです。ビッグデータを集めたはいいが、どう活用していいかわからない、という例がたくさんあります。
このとき、人のデータの解析を全部機械に任せるのは、私はありえないと思います。最後は必ず、人が判断すべきです。さきほどの囲碁や将棋のAIの例でもありましたが、人間とAIが、自分たちの得意なところを出し合って、業務を効率化し、精度を高めていくという使い方が正しいと思います。
私は、これから人間とAIは、のび太とドラえもんのような関係になっていけばいいと思っています。のび太はどちらかというと冴えない普通の子ですが、青いAIのドラえもんが彼の良いところを引き出し、支えてあげることによって、その心の内に眠っていた勇気や友愛の心が呼び覚まされ、映画になるような活躍ができるようになるのです。
働き方改革とは経営改革と個の力を高めること
ピョートル氏:伊藤さん、産・官・民のつながりは、どのように作っていこうと考えていますか?伊藤氏:志を同じくしている人たちがこうして、ネットワークを繋げていくことだと思います。そのときに大事な媒介は、異質な「知」を組み合わせることです。そういった意味で、ダイバーシティはすごく大事です。
ピョートル氏:世界のダイバーシティは、企業と企業の競争だけじゃなくて、国と国の競争でも必要になってくると考えます。野田さん、これからの日本は、そのような世界の中でどう戦っていくべきでしょうか?
野田氏:日本が本来持っている強みを活かすことです。たとえば、かつて日本には、社会価値を求めて作られた企業が多くありました。子どもたちの健康を願って乳酸菌飲料をつくったヤクルト。清潔な国民は栄える、ということで石鹸をつくった花王。社会問題解決型の企業、いわゆるCSV(共有価値創造)型企業は、もともと日本企業の基本的な特質でした。そういった日本の強みを再び打ち出すために、大学からもサポートできればと思っております。
ピョートル氏:経産省は今、ベンチャーを増やしたいという意図で、「ベンチャー・チャレンジ2020」を進めています。日本の起業率が低いことを受けての動きですが、今の日本の教育制度で、みんな大手企業に入りたがるのはなぜでしょうか?
野田氏:学生が大企業志向になる理由は、流動的な労働市場でないことを認識しているからです。学生たちは皆、先輩たちをみて、転職をしたら現状より所得がダウンしてしまうことを分かっています。ですので、一番はじめに高いところに行く、高いところからなら、多少下がってもまだやっていける、という考え方です。ただし、最後まで同じ会社にいようとは思っていません。
ピョートル氏:ウィーさん、海外で日系企業と接していて、日本企業のここが強い、ここがいい、というのがあれば教えてください。
ウィー氏:日本の労務管理でしょうか。社員に対して、雇用主の責任感が高いと思います。できる限りリストラしないようにしている企業が多いですね。また、技術だけではなく、会社の文化や教育面がしっかりしていると思います。
ピョートル氏:最後に皆さん、これからの日本の働き方改革だけでなく、経営改革も念頭に置き、心に深くささるキーワードを挙げていただけますか?私は「自己実現」だと思っています。
伊藤氏:「モチベーション」と、それを支えるために「学び続けること」です。
野田氏:「楽しむ力」です。
ウィー氏:「テクノロジーで自分を知る」ということではないでしょうか。
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