アメリカが強い理由

タケダのグローバル化への挑戦
なぜタケダが急速なグローバル化を進めるようになったかというと、それは世界の医薬品市場にもパラダイムシフトが起きていたからです。

世界の医薬品市場規模は、2015年から2025年の10年間にかけて、100兆円の市場が1.7倍の170兆円ほどに増える、という予測があります。その市場増加分の53%をアメリカが創出します。なぜ、アメリカに偏っているのか?その理由は3つあります。

1つは、アメリカの強みの1つであるスタートアップのエコシステムです。世界中からタレントを集めてその強みを存分に発揮しています。シリコンバレーでは、80か国以上の人たちが出入りしており、そのぶん衝突も起こりますが、イノベーションも起きています。日本でも同じようなことを何度も試みていますが、危険を避けたがる日本人の性格が災いして、なかなかうまくいっておりません。

2つ目の理由は、新しい薬を創出するモダリティ(基盤技術)が、低分子化合物から生物学的製剤へシフトしてきたことです。タケダを含め日本は、低分子化合物で成功してきましたが、この状況が変わってきました。過去の栄光に胡坐をかいて、生物学的製剤に取り組まなかったことが、今、ツケとなって回ってきています。もちろん、中外製薬さんのように、その分野に早く取り組まれ、成功している日本企業もあります。

ではアメリカの製薬業界は、きちんと先を見通してやっていたのかというと、決してそうでもありません。ただアメリカには、マサチューセッツ州のボストン、ケンブリッジなどにある様々な企業や機関が、常に新しいことにチャレンジしているという土壌があります。そういったところが業界の新しい動きを常にウォッチしていて、たとえばこれから生物学的製剤が必要となると、その研究開発をしている企業にいって、迅速に吸収、対応できるようにしているのです。日本にそのようなシステムはありません。

3つ目の理由は、グローバル売上高トップ100内の医薬品の創製元のパラダイムシフトです。2007年は製薬企業が73%、バイオテク、NPO/アカデミアが27%でしが、2015年には逆転し、バイオテク、NPO/アカデミアが54%、製薬企業が46%になりました。

タケダがなぜ急速なグローバル化を進めたのか

このような状況のなか、私が2003年の社長就任前に考えたことは、2010年問題(主力製品の特許切れ)を克服し、成長を持続することでした。血糖や血圧を下げる薬などの主力製品の特許が次々と切れ、6年で6千億円分の売上が消失しました。乗り切る方法は、製品をライセンスインするか、買い取るか、それとも会社ごと買収するかです。しかし、タケダでは買収をやったことがありませんでした。

研究開発生産性向上もそうです。これは製薬企業にとって一番の難題であり、屋台骨でもあります。いかに革新的で差別化された製品を自社の研究のなかでつくれるかが、最大の命題と考えました。高分子の生物学的製剤で成功した例は、日本にはありませんでした。ここでもやはり、経験のある人を取り込まないと難しいと考えました。

事業のあらゆる面でグローバルに競争力のある会社に変革することが課せられた使命だと考えましたが、当時タケダには、グローバルの成功体験がなく、コンサルタントを雇ってもなかなか進むべき道が分かりませんでした。

企業として成功体験のないことにチャレンジする場合は、トップも含め、キー・ポジションには、グローバル・スタンダードで成功体験を有する人材が必要だと考えました。日本人で、そのような人材がいればよいのですが、リサーチした結果見つけられず、外国人を雇うようになり、その流れで、現CEOは、フランス人のクリストフ・ウェバーになりました。

現時点では、キー・ポジションの多くを外国人が占める結果となっています。日本人が目立たなくなり、多くの日本人から不安の声が出るようになりました。そこで今、日本人のグローバル人材育成を加速し、少しでも多くの日本人がキー・ポジションにつけるように取り組んでいます。

タケダが目指すグローバル経営の根幹

タケダのグローバル化への挑戦
タケダが目指すグローバル経営とは、世界中で最も優れた経営資源(人・モノ・カネ・情報等)を最も適切なタイミングで獲得し、活用、育成できる組織にすることです。多様性ある組織のなかに、タケダの「革新と成長」のDNAとタケダイズムの実践を徹底させることです。

タケダイズムとは、常に「誠実」であることを旨とし、「公正」「正直」「不屈」の精神で物事に取り組む姿勢をいいます。

これを、現CEOが分かりやすく次のような4つの重要事項と優先順位に落とし込んでくれました。

1. Patient:常に患者さんを中心に考えます
2. Trust:社会との信頼関係を築きます
3. Reputation:レピュテーション(評価)を向上させます
4. Business:事業を発展させます

タケダの使命(ミッション)は、「優れた医薬品の創出を通じて、人々の健康と医療の未来に貢献する」ことです。これはタケダが存続している限りは、変わることはありません。タケダイズムを根幹に、できるだけ短期間に、事業のあらゆる面でグローバルに競争力のある会社に変革することを、今、現CEOを中心として取り組んでおります。
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