今回のインタビューしたのは、グラマシー エンゲージメント グループ株式会社 代表取締役社長のブライアン・シャーマン(Bryan Sherman)さん。同志社大学に1年在籍し、富山県の黒部市役所に国際交流員として勤めた経験を持つ。また、アメリカでは住商情報システムの人事部長、ファーストリテイリングのグローバル人事などの職を歴任した人物である。生粋のアメリカ人だが、日系組織の経験が豊富で、現在日本に住み、公私ともに日本文化に適合されている。まさに日本のHRのグローバル化を内外から見てきた、希少な人物と言えるだろう。偶然にも私と同じ歳で大学の同窓生でもあり、インタビュー時は初対面だったが、すぐに意気投合した。今回ブライアンさんには、日本人駐在員が海外に派遣される際の注意事項や、日本企業が海外展開する際のHRにおけるポイントをお聞きした。
第7回:海外に拠点を置く日本本社や海外駐在員に求められること
稲垣 ブライアンさんは、「日本の組織文化にはグローバルに通用する良さがある」と発信されていますね。

ブライアン はい。グローバルスタンダードの組織マネジメントでは、役職ごとにJob Descriptionがあり、上司からの要求や自分に与えられるミッションが明確です。でも日本風の考え方では、Job Descriptionはあいまいで、チームで一緒に相談しながら仕事の分担を柔軟に変えていきますね。

日本の組織マネジメントでは、チームワーク、協調性、良いコミュニケーションを重視していますが、これはある意味、VUCA(Volatility:不安定、Uncertainty:不確実、Complexity:複雑、Ambiguity:曖昧)の時代に重要なアジャイル(Agile:素早い・俊敏な)なやり方と捉えることもでき、これからの時代にマッチしていると思います。

稲垣 なるほど、目新しい考えですね。よく日本と欧米の人事制度は、「職能資格制度」と「職務等級制度」で比較され、人の能力を基準とする「職能資格制度」を採用している日本は、仕事の定義があいまいでグローバルでは通用しない、と一般的には言われています。でも、変化のスピードが速いVUCAの時代では、むしろ仕事内容をカチッと決めることのほうが難しい、ということですね。

しかし、ある日系企業に勤める外国籍社員の中には、Job Descriptionが明確に決まっていないことにストレスを感じている人もいました。

ブライアン それはまた別の課題と向き合うことが重要で、おそらく仕事のベースとなっている「良いコミュニケーション」がポイントだろうと思います。日本人同士で良いコミュニケーションを取っているだけではだめで、これからの時代はグローバルに良いコミュニケーションを取っていかなければなりません。日本人同士はハイコンテクストのコミュニケーション文化ですから“暗黙知”が通じるのですが、他の国の人とは具体的にコミュニケーションを取ることが重要です。

たとえば、日本の会社が大切にしている理念を、どうやってグローバルに展開するか考えてみましょう。ある日本の大手メーカーが、自社の理念を英語版にして配ったところ、意味が伝わりにくいものになってしまい、社内から、「この理念は日本的だから外国人には理解できない」という意見が挙がってきました。ですが、その内容は特に日本特有のものではなく、崇高な理念でグローバルに通じるものでした。

この際のポイントは2つです。1つ目は言語の問題。英語と日本語の資料作りなどをやっていてよく感じるのは、意味がぴったり同じ表現がないということ。ですから、表面的な翻訳ではなく、“伝えたい内容”から翻訳をしないといけません。

もう1つの問題は、コンテクストの違いですね。日本の場合、「説明しなくてもすでに皆分かっている」ということがあります。余計な説明は不要、という。しかし他の国の人とは、コンテクストの違い、すなわち常識の違い、把握している情報の違い、腹落ちのレベルの違いがあるので、それらを踏まえた上で、表現に工夫をしないとうまくいきません。この点については、日本の会社がすごく弱いところだと思います。逆に言えば、これさえできれば、柔軟に組織を変えていくことで、時代の変化に対応できると思います。

稲垣 まとめると、(1)直訳ではなく、伝えたい意味を英語で表現すること、(2)コンテクストの違いを意識して伝えること。この2つを意識して、「良いコミュニケーション」をとれば、Job Descriptionに縛られない日本流の組織マネジメントが活きて、いまのVUCAの時代に適応できるということですね。

ブライアン はい、その通りです。
第7回:海外に拠点を置く日本本社や海外駐在員に求められること

日本本社の役割

この記事にリアクションをお願いします!