HR総研では、2015年新卒採用の状況と2016年新卒採用に向けての企業の計画について、採用担当者を対象に8月末にアンケート調査を実施した。今回から2回に分けて結果を報告していく。

全体では企業規模による差が小さい収束状況

「2015年&2016年新卒採用に関する調査」結果報告【1】

今回は、2015年新卒採用の状況です。
8月末時点での採用活動の状況だが、全体データでは大企業、中堅企業、中小企業による差があまり見られない。「採用活動を完全に終了した」「採用活動をほぼ終了した」の合計は、大企業で65%、中堅企業で58%、中小企業で65%となっており、いずれの企業規模でも6割前後の企業が(ほぼ)終了している。一方の「活動継続中(まだ新規の応募を受け付けている)」「これから採用活動を開始する」の合計は、大企業で29%、中堅企業で33%、中小企業で31%と、こちらもいずれも3割前後となっている。
大企業の採用活動のほうが早く終了して、中堅・中小企業は遅くまで採用活動をするという通説は間違っているのだろうか。

[図表1]8月末時点での採用活動の状況(全体/企業規模別)

「2015年&2016年新卒採用に関する調査」結果報告【1】

ただし、メーカー、非メーカー別に集計したデータで見ると、状況は大きく異なる。メーカーでは、「(ほぼ)終了した」企業の割合は、大企業で73%、中堅企業で71%、中小企業で43%と、企業規模が小さくなるほど苦戦している様子が分かる。この差は、主に理系学生の採用力の差ではないかと推測される。企業側の理系学生の採用意欲は文系学生よりも高く、競争率が高くなっている。さらに、かつてよりは減ったといわれるものの、理系学生にはまだまだ推薦制度による就職活動が少なくない。大学とのパイプを持たない、あるいはパイプが弱い中小企業は不利になる。

[図表2]8月末時点での採用活動の状況(メーカー/企業規模別)

「2015年&2016年新卒採用に関する調査」結果報告【1】

一方、非メーカーでは状況がまったく異なる。採用活動を「(ほぼ)終了した」企業の割合は、大企業で54%、中堅企業で48%なのに対して、中小企業では72%にもなる。採用人数が多くないため、中小企業でも採用力の高い企業では終了企業が多いことも考えられるが、内情は少し異なる。これについては、この後のデータで見ていきたい。

[図表3]8月末時点での採用活動の状況(非メーカー/企業規模別)

企業規模で異なる、終了企業の内定充足率

「2015年&2016年新卒採用に関する調査」結果報告【1】

今度は、「(ほぼ)終了した」企業を対象として、採用計画数に見合う内定者数を確保できているのかどうかを見てみよう。
まずはメーカーからだ。「(ほぼ)終了した」と聞くと、今後の内定辞退を見越して採用計画数に対して「100%以上」の内定者を確保しているか、少なくても「90%以上」の内定者を確保しているイメージを持ちがちだが、実態は少し異なる。大企業では、すべての企業が「90%以上」というわけではないものの、採用活動終了企業で内定従卒率が「70%未満」との回答は1社もない。それに対して、中堅企業では「50~70%未満」の企業が6%、中小企業にいたっては「50~70%未満」の企業(7%)だけでなく、「30%未満」という企業が7%もある。採用計画数まではほど遠いものの、採用活動自体は終了しようというものだ。これ以上継続したとしても、本来自社が求める人材を採用できそうにないとのあきらめ感からなのだろう。
中には、不足分を中途採用でカバーしようと考える企業もあるかと思うが、実は中途採用市場のほうが新卒採用市場よりも人材獲得合戦は熾烈(しれつ)になっている。中途採用に過度な期待をされないほうが無難だ。

[図表4]採用活動終了企業の内定充足率(メーカー/企業規模別)

内定充足率が低くても採用活動を終了する非メーカー

「2015年&2016年新卒採用に関する調査」結果報告【1】

次に非メーカーを見てみよう。メーカーに比べると全体的に内定充足率は低くなっている。内定充足率「90%以上」の企業の割合は、メーカーの大手企業では86%に達していたのに対して、非メーカーでは大手企業でも77%にとどまる。中小企業で比較してみても、メーカーでは79%なのに対して、非メーカーは68%しかない。いずれも約10ポイントの差がある。中堅企業の差はもっと大きく、メーカーの89%に対して非メーカーは69%と20ポイントも低くなっている。

[図表5]採用活動終了企業の内定充足率(非メーカー/企業規模別)

活動継続企業の内情は、企業規模によって大きく違う

「2015年&2016年新卒採用に関する調査」結果報告【1】

「活動継続中」企業についても内定充足率を聞いている。こちらはメーカー、非メーカーで分けずに全体の企業規模別のデータで見てみる。
中堅企業の一部には、充足率が「100%以上」であるにもかかわらず、まだ採用活動を継続している例もある。例年の内定歩留まり率を考えると、まだ心もとないということなのだろう。「90%以上」の企業割合だけは、中堅企業が最も低くなってはいるものの、その他の区分はきれいに企業規模に比例している。例えば充足率「70%以上」の企業の割合は、大企業で69%、中堅企業で51%、中小企業で30%、充足率「30%未満」となると大企業では皆無であるのに対して、中堅企業で5%、中小企業では13%といった具合だ。冒頭のデータ(全体)では、採用活動の終了・継続の状況は企業規模による差は少なくなっていたが、終了企業、継続企業ともに企業規模によってその内情は大きく異なるということが分かる。
今回のデータは8月末時点の調査になるが、現時点で再度継続状況の調査を行ったとしたら、企業規模によって大きく傾向が異なることが予想される。大手企業では継続企業でも残っている採用枠の割合は少なく、採用活動を終了している企業が大きく伸びているだろう。また、採用活動継続企業にとっても10月1日の内定式は一つの大きな節目になっている。内定者は充足していなくとも、この日までに採用活動を終了する企業は少なくない。

[図表6]採用活動継続企業の内定充足率(全体/企業規模別)

大企業でも4割の企業で内定辞退が増える

「2015年&2016年新卒採用に関する調査」結果報告【1】

4月末の調査でも内定辞退数の前年比を聞いているが、今回改めて聞いてみた。グラフを見てお分かりのように、内定辞退は中堅・中小企業だけで「増えている」わけではなく、それどころか大企業での内定辞退のほうが「増えている」傾向にある。逆に、内定辞退が「減っている」とする企業は、大企業が13%なのに対して、中堅企業17%、中小企業19%と、企業規模が小さくなるほど多くなっている。これはどう見ればよいのだろうか。
よくいわれるのが、「中堅・中小企業は早くに選考・内定出しをしても、後から大企業の内定出しがされれば内定辞退されるだけだ」という論調だ。もちろんそういった例もあるだろう。ただし、全体の中でいえば、それよりも大企業同士でのバッティングのほうがよほど多いということだ。大企業が内定出しをする学生層では、内定社数は2社どころか、5社や6社もざらである。
以前、4月下旬時点での大学グループ別の内定社数のデータを掲載しているが、例えば「早慶クラス」の文系学生ではこの時点ですでに半数の学生が内定を2社以上保有していた。未内定の学生も含めての割合であるから、内定保有者における複数内定保有の割合でいえば6割を優に超えることになる。同じくその時点ですでに内定「4~6社」と回答していた学生の割合は、2割近くになるす。これらの学生の多くは、その後もさらに内定を獲得したことだう。6社の内定を持つ1人の学生の裏では、5社の企業で内定辞退が発生する。内定辞退が増えるのは当然といえる。

[図表7]内定辞退の前年比較(全体/企業規模別)

内定辞退率5割以上の大企業も

「2015年&2016年新卒採用に関する調査」結果報告【1】

今回の調査では、内定辞退数の前年比だけでなく、内定者全体における内定辞退率(内定辞退者数÷全内定者数)についても聞いている。中小企業は採用数が少ないため、1人の重みが大きくなる。例えば、内定者が2人に対して1人も辞退しなければ「0%」となるが、1人辞退すればそれだけで「50%以上」に区分されてしまう。したがってグラフ上では両端のデータ(「0%」と「50%以上」)が他の企業規模よりも大きくなりがちだ。

[図表8]内定辞退率(全体/企業規模別)

【調査概要】

調査主体:HR総研(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2014年8月25日~8月28日
有効回答:182社(1001名以上 48社, 301~1000名 59社, 300名以下 75社)

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