2021度より「労働施策総合推進法」の改正により、直近3事業年度の「正規雇用労働者の中途採用比率の公表義務化」が開始された。企業では、これを受けてキャリア採用(中途採用)の方針に、何らかの変化が起きているのだろうか。また、効果的なキャリア採用からオンボーディングに向けて、どのような施策を講じているのだろうか。HR総研は、各企業におけるキャリア採用に関する取り組みや課題、成果等について最新動向を調査した。調査結果をフリーコメントも含めて以下に報告する。

<概要>
●キャリア採用の計画数、大企業では4割以上が前年度より増加
●キャリア採用を行う組織体制、大企業では「新卒採用と兼務」が最多で4割
●中途採用比率を向上する方針の企業の割合、全ての企業規模で前回調査から増加
●特に採用難易度が高いと感じる職種は「IT関連職」が最多
●キャリア採用で重視する項目「経験職種」が最多で8割
●今後利用が高まりそうなキャリア採用の手段は「リファラル採用」が最多で5割
●効果を実感しているオンボーディング施策「上司との定期的な面談(対面)」が最多
●パーパス・経営理念への共感度を重視したキャリア採用で、パフォーマンス「期待通り」が7割
●パーパス・経営理念への共感度を重視したキャリア採用で、定着率80%以上が7割

キャリア採用の計画数、大企業では4割以上が前年度より増加

まず、2022年度の「キャリア採用」採用計画数を企業規模別に見ると、従業員数1,001名以上の大企業では「51~100名」が最多で18%、次いで「11~30名」が16%、「31~50名」が15%などで、「採用予定なし」は14%となっている。301~1,000名の中堅企業では「1~5名」が30%、「11~30名」が26%、「6~10名」が13%などで、「採用予定なし」は26%となっている。300名以下の中小企業では「1~5名」が40%、「採用予定なし」は最多で42%と4割を超えている。「採用予定なし」の割合は、前回調査時(2021年度)と比較すると、大企業では19%から5ポイント減少、中堅企業では33%から7ポイント減少、中小企業では42%から変化なしとなっており、大企業と中堅企業では、キャリア採用を実施する企業がやや増加していることが分かる(図表1-1)。

【図表1-1】企業規模別 2022年度の「キャリア採用」採用計画数

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

「キャリア採用の計画数の増減(前年度比較)」を見ると、いずれの企業規模でも「ほぼ同じ」が最多ながら、大企業では「増えている」が45%と「ほぼ同じ」(47%)と同程度となっており、キャリア採用の計画数を増加させている企業が多いことが分かる。中堅企業では「増えている」は26%、中小企業では19%となっており、企業規模が大きいほどキャリア採用を前年度比で拡大している(図表1-2)。

【図表1-2】企業規模別 2022年度のキャリア採用の計画数の増減(前年度と比較)

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

次に、2022年度の11月時点における「キャリア採用計画数の達成率」については、「すでに達成した」は10%と1割にとどまり、前年同時期に実施した前回調査と比較しても7ポイント減少となっている。また、「50~80%未満」が最多で49%、「20~50%未満」が13%、「20%未満」も13%となっており、キャリア採用に苦戦している企業が少なくないことがうかがえる(図表1-3)。

【図表1-3】2022年度「キャリア採用」採用計画数の、11月時点での達成率

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キャリア採用を行う組織体制、大企業では「新卒採用と兼務」が最多で4割

次に、キャリア採用を行う人事部門の組織体制や、キャリア採用に関する企業の方針について見てみる。
まず、「キャリア採用を行う組織体制」について、企業規模別に見てみると、大企業では「新卒採用と兼務している」が最多で45%、次いで「キャリア採用専任の担当がいる」が34%などとなっている。中堅企業では「新卒採用と兼務している」が最多で43%、次いで「採用以外の業務と兼務している」が39%、「キャリア採用専任の担当がいる」は11%と、1割にとどまった。中小企業では、「採用以外の業務と兼務している」が最多で46%と、5割近くにのぼっている(図表2)。キャリア採用の専任担当者を設けるような組織体制をとっている企業は大企業でも3割にとどまっており、中堅企業・中小企業では約9割が他の業務と兼務の体制となっていることが分かる。

【図表2】企業規模別 キャリア採用を行う組織体制

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中途採用比率を向上する方針の企業の割合、全ての企業規模で前回調査から増加

2021年4月に施行された「改正労働施策総合推進法」により、常時雇用する労働者の人数が301人以上の企業に対して、直近3事業年度の中途採用比率についての公表を義務付けられた。本改正の目的には、労働力人口の減少や働き方に対する価値観の多様化が進む日本において、社会全体で働き方の選択肢を広げ、働く意欲のある労働者が長く働ける環境を整備するとともに、従来型の雇用形態である「新卒一括採用」からの脱却もあるとされている。
この「中途採用比率の公表義務化」についての認知度を見てみると、「以前から知っていた」が33%、「以前から少しだけ知っていた」は25%などとなっており、これらを合計した認知度は58%となっている。この認知度は前回調査時(2021年11月)の51%から7ポイント増加とはなったものの、「言葉は効いたことがあった」が16%、「今回初めて聞いた」も26%となっており、施行から2年近くが経過しているものの、浸透度は十分とはいえない(図表3-1)。

【図表3-1】「中途採用比率の公表義務化」の認知度

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

この法改正を前提に、今後の中途採用比率を上げる予定について聞いた結果を企業規模別に見てみると、大企業では「公表義務化を受けて、向上に取り組む方針となった」が13%、「公表義務化に関わらず、向上に取り組む方針である」が最も多く48%で、これらを合計した「向上に取り組む方針である」は61%となっており、前回調査時から17ポイントの増加となった。中堅企業でも、「公表義務化を受けて、向上に取り組む方針となった」が11%、「公表義務化に関わらず、向上に取り組む方針である」が41%で、これらを合計した「向上に取り組む方針である」は52%と過半数を占め、前回調査時からは27ポイントの増加となっている。中小企業では「規模的に公表義務がなく、向上に取り組む方針がない」が49%と最多となっているが、「公表義務化を受けて、向上に取り組む方針となった」が2%、「公表義務化に関わらず、向上に取り組む方針である」が23%で、これらを合計した「向上に取り組む方針である」が25%と前回調査時から10ポイント増加した。いずれの企業規模においても、前回調査時と比較して中途採用比率を上げる方針の企業が増加していることが分かる(図表3-2)。

【図表3-2】企業規模別 中途採用比率の向上に対する取り組み方針

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特に採用難易度が高いと感じる職種は「IT関連職」が最多

2022年度キャリア採用を実施している企業における募集職種については、全ての企業規模で「営業職」が最多となっており、大企業では66%、中堅企業では60%、中小企業では52%となっている。大企業では「営業職」に次いで多いのが「IT関連職(AI・データ分析除く)」49%、「経理・財務」34%などとなっている。中堅企業では「営業職」に次いで多いのが「経理・財務」35%、中小企業では「IT関連職(AI・データ分析除く)」27%などとなっている。大企業と中堅・中小企業とで傾向が異なる職種としては、「商品企画・マーケティング」や「研究開発職」、「AI・データ分析関連職」などがあり、いずれも大企業の方が高い割合で募集している。DX推進を始めとした大規模なイノベーションに注力していることがうかがえる(図表4-1)。

【図表4-1】企業規模別 2022年度「キャリア採用」で募集している職種

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「特に採用難易度が高いと感じている職種」では、「IT関連職(AI・データ分析除く)」が最多で27%、次いで「営業職」が20%、生産技術職が14%などとなっている。「IT関連職(AI・データ分析除く)」は前回調査に続いてトップとなっており、需要が高く採用の競争率が高い職種となっていることが分かる。DX化が叫ばれる中、「AI・データ分析関連職」は12%で、これからさらに伸びて来るものと予想される(図表4-2)。

【図表4-2】募集職種のうち、「特に採用難易度が高い」と感じている職種

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次に、「キャリア採用で募集している階層」については、「一般社員(中堅層)」が最多で83%、次いで「係長・主任クラス」が60%、「一般社員(若年層)」が57%などとなっている(図表4-3)。

【図表4-3】2022年度「キャリア採用」で募集している階層

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「キャリア採用で募集している年齢層」については、「30~34歳」が最多で86%、次いで「26~29歳」が77%、「35~39歳」が73%となっている。前回調査から大きな傾向の変化はないが、「26~29歳」は前回より13ポイントの増加となった(図表4-4)。

【図表4-4】2022年度の「キャリア採用」で募集している年齢層

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キャリア採用で重視する項目「経験職種」が最多で8割

次に、「キャリア採用の選考時に重視する項目」については、「経験職種」が最多で83%、次いで「人柄」が59%、「仕事での成果」が56%などとなっており、前回調査と概ね同様の傾向となった。やはり、採用ポジションと前職での経験職種との親和性はキャリア採用においては特に重要なポイントとなっていることが分かる(図表5-1)。

【図表5-1】キャリア採用の選考において重視する項目

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

「キャリア採用の選考において重視しない項目」については、「卒業大学等」が最多で60%、次いで「勤務した会社名」が49%などとなっている。キャリア採用においては、卒業した大学や勤務した会社のブランドよりも、業務を通じてどのような経験を積んできたかという点が重視されていることが分かる。新卒採用であれだけ大学名にこだわった採用活動をしている大企業においてもである(図表5-2)。

【図表5-2】キャリア採用の選考において重視しない項目

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

今後利用が高まりそうなキャリア採用の手段は「リファラル採用」が最多で5割

続いて、「キャリア採用で成果が出ている手段・サービス」について見てみると、「人材紹介」が最も多く59%、次いで「転職サイト」が45%、「リファラル採用(従業員からの紹介)」が28%などとなっている(図表6-1)。傾向としては概ね前回調査と同様となっており、やはりキャリア採用では、自社のニーズに合う人材をピンポイントで紹介してもらえる人材紹介サービスや、リファラル採用を重視しており、新卒採用とはやや傾向が異なることが分かる。近年話題となっている「アルムナイ採用(元社員の再採用)」は、今回調査では4%にとどまっているが、今後注視していきたい手段である(図表6-1)。

【図表6-1】キャリア採用で成果が出ている手段・サービス

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

「今後、利用が高まると思われるキャリア採用の手段・サービス」については、「リファラル採用」が最多で46%、次いで「ダイレクトソーシング(転職者データベース)」が34%、「転職サイト」が30%などとなっている(図表6-2)。

【図表6-2】今後、利用がより高まると思われるキャリア採用の手段・サービス

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

「人材紹介会社を利用するにあたって苦労していること」については、「コストが高い」「紹介される人材が少ない」がともに最多で50%、次いで「紹介される人材が募集要項とマッチしていない」が38%などとなっている。人材紹介サービスは、ニーズに合わせてある程度絞り込んで人材を紹介してくれるため、採用の工数を削減することはできるが、その分コストが高いことや、紹介される人材の数が十分でないなどの課題もあることが分かる(図表6-3)。

【図表6-3】人材紹介会社を利用するにあたって苦労していること

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効果を実感しているオンボーディング施策「上司との定期的な面談(対面)」が最多

キャリア採用者の定着や早期戦力化を目的として実施している「オンボーディング施策」については、「入社直後での導入研修」が最多で54%、次いで「上司との定期的な面談(対面)」が45%、「人事との定期的な面談(対面)」が34%などとなっている。前回調査と比較すると、「人事との定期的な面談(対面)」が前回から8ポイント増加となっている(図表7-1)。

【図表7-1】実施しているオンボーディング施策

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

「効果を実感しているオンボーディング施策」については、「上司との定期的な面談」が最多で31%、次いで「入社直後での導入研修」が27%、「人事との定期的な面談(対面)」が25%などとなっている。「人事との定期的な面談(対面)」は前回調査から10ポイント増加となっており、以前より対面での人事面談を実施する機会自体も増え、その機会を活用できている企業も増えていることが分かる(25%)。

【図表7-2】効果を実感しているオンボーディング施策

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

「オンボーディング施策の具体的な内容」について、フリーコメントで回答を得た。一部を抜粋し、以下に紹介する(図表7-3)。

【図表7-3】オンボーディング施策の具体的な内容(一部抜粋)

オンボーディング施策の具体的な内容従業員規模業種
入社後オリエンテーションを各事業所で実施していたが、人事主導で実施し、平準化を図っている。1,001名以上サービス
キャリア採用者に対する昇格条件の拡充1,001名以上メーカー
エグゼクティブからのウエルカムメッセージ1,001名以上メーカー
いつでも必要な個所を確認できるように、ハンドブック(電子)で掲載1,001名以上情報・通信
理念研修1,001名以上情報・通信
研修、オフライン会議301~1,000名マスコミ・コンサル
基本的に定期的な面談のみ。 その他何かあれば都度面談している301~1,000名メーカー
入社時期の近い社員との交流会、食事会301~1,000名商社・流通
入社時の導入研修は新卒・キャリアを問わず実施し、横のつながりを意識させながら業務対応してもらっています。また、なんでも気軽に話せる相談窓口の設置など日々の社内コミュニケーションの活性化を図っております300名以下マスコミ・コンサル
ブラザーシスター制度を若年層に検討しています300名以下メーカー
入社後、先輩社員と1対1の関係でメンターを決めてフォローすることです300名以下メーカー
自己紹介サイトの活用(現社員、新たに加わる経験者採用者双方が記載)300名以下金融

パーパス・経営理念への共感度を重視したキャリア採用で、パフォーマンス「期待通り」が7割

本調査では、各企業がキャリア採用において、パーパスや経営理念への共感度を重視しているかどうかの方針を問う質問を設けており、この方針とキャリア採用における成果とのクロス集計も行った。これにより、パーパス・経営理念の共感度を重視している企業とそうでない企業の傾向の違いを見てみる。
「ターゲット人材の採用成果」については、キャリア採用において「パーパス・経営理念への共感度を重視している」と回答した企業では、ターゲットとする人材の採用が「できている」が73%と、7割以上に上った。一方で、「パーパス・経営理念への共感度を重視していない」と回答した企業では、ターゲット人材の採用が「できている」は41%と、4割程度にとどまった。パーパス・経営理念への共感度を重視した採用を行っている企業ほど、ターゲット人材の獲得ができていると感じている割合が高いことが分かる。(図表8-1)。

【図表8-1】採用方針別 ターゲット人材の採用成果

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

次に、「キャリア採用で入社した社員のパフォーマンス発揮」については、キャリア採用において、「パーパス・経営理念への共感度を重視している」と回答した企業では、入社後の社員のパフォーマンス発揮が「期待通りである」が70%と7割に上っている。一方で「パーパス・経営理念への共感度を重視していない」と回答した企業では、「期待通りである」が44%と4割にとどまった。パーパス・経営理念への共感度が高い社員は、業務に対しても使命感を持って取り組むため、高いパフォーマンスを発揮するものと考えられる。この点を重視した採用を行っている企業の方がキャリア採用で入社した社員のパフォーマンスに満足しているという、この結果もうなずける(図表8-2)。


【図表8-2】採用方針別 キャリア採用で入社した社員のパフォーマンス発揮

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

パーパス・経営理念への共感度を重視したキャリア採用で、定着率80%以上が7割

次に、「キャリア採用で入社した社員の定着率」については、「80~100%未満」が最多で54%、次いで「50~80%未満」が29%、「100%」が11%などとなっている(図表9-1)。

【図表9-1】キャリア採用で入社した社員の定着率(直近3年間)

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

定着率について、キャリア採用に関する方針別で見ると、「パーパス・経営理念への共感度を重視している」と回答した企業では、「定着率80%以上」が66%となっているのに対し、「パーパス・経営理念への共感度を重視していない」と回答した企業では、「定着率80%以上」が56%と、重視している企業の方が10ポイント高い結果となった(図表9-2)。経営理念・パーパスは短期間では大きく変化しないものであり、これに共感しているかどうかを重視した採用を行うことで、高い定着率につながっているという結果もうなずける。

【図表9-2】採用方針別 キャリア採用で入社した社員の定着率(直近3年間)

HR総研:キャリア採用に関するアンケート 結果報告

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「キャリア採用」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年11月14~21日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:242件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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