今回は「採用動向」についてレポートする。
<概要>
●全従業員に対するITエンジニア不在の企業が3割比率
●ITエンジニアの採用に取り組んでいる企業割合が3分の2
●需要が高いITエンジニア職種ランキング トップは「SE」
●「ITエキスパート/ITスペシャリスト」ITエンジニアの募集ポジションがトップ
●「ITエンジニアに伝わる求人票の作成」は「出来ていない」が、4割の企業が「出来ていない」と回答
●2022年度の採用目標数と達成率「50%未満」が6割以上
●ITエンジニアの採用サービスの利用ランキング トップは「マイナビ転職」
●効果を実感した採用サービス トップは「エージェント」
●ITエンジニアへの平均提示年収 トップは「600万円未満」
ITエンジニア不在の企業が3割
全従業員に対する企業内ITエンジニア(ハードウェアエンジニアを除く。以下同様)の比率が10%未満の企業は76%であり、かつITエンジニアを有していない企業は全体の31%にも及ぶことが分かった。
ITエンジニア比率が10%未満の企業は、メーカーでは89%、非メーカーでは64%であり、メーカーに顕著な結果となったが、これは「ITエンジニア」の定義から「ハードウェアエンジニアを除く」という条件を付与したためと思われる(図表1)。
「IT人材白書2017」(情報処理推進機構)によると、日本ではIT人材の72%がベンダー企業に、28%がユーザー企業に属している。例えば、アメリカでは35%がベンダー企業に、65%がユーザー企業に属しており、海外と日本では、社内外の人材構成比率が逆転している、という事実がある。
日本における企業内ITエンジニアの割合は、まだまだ非常に少ないと言わざるをえない。
【図表1】全従業員数に対する、ITエンジニア(ハードエンジニアを除く)の割合
ITエンジニアの採用に取り組んでいる企業が3分の2
ITエンジニアの採用に取り組んでいる企業は、全体の66%に及んだ。従業員数300名以下の中小企業では、メーカー/非メーカーともに50%台にとどまったが、中堅・大企業では、いずれも8割の企業がITエンジニアの採用に取り組んでいる。特に、メーカーでは従業員数1,001名以上の大企業で84%、非メーカーでは従業員数301~1,000名の中堅企業で85%が採用意向を示している(図表2)。
【図表2】ITエンジニアの採用意向(N=244)
需要が高いITエンジニア職種ランキング トップは「SE」
企業が採用を希望しているITエンジニアの職種を質問した結果、トップは「システムエンジニア(SE)」、次いで「社内SE」となった。前者は顧客向けシステム開発を行い、後者は社内システムの開発・運用を担当する。
次に採用ニーズが高い群は、「ネットワークエンジニア」「セキュリティエンジニア」「サーバーエンジニア」の3職種で、30%前後を占める。これらは保守系のエンジニアである(図表3)。
【図表3】ITエンジニアの職種別需要(N=160)
「ITエキスパート/ITスペシャリスト」の募集がトップ
本調査では、企画、設計、製造、マネジメント、経営職など、大きく9つのポジションについて募集状況を質問した。
調査の結果、「製造」を担当する「ITエキスパート/ITスペシャリスト」が46%でトップを占めた。続いてニーズが高いポジションは、プロジェクト全体を統括する「プロジェクトマネージャー」(41%)、プロジェクト内のチームを監督する「プロジェクトリーダー」(36%)である。特に中堅企業では、「プロジェクトマネージャー」の需要が突出している。このことから、中堅企業では、外注による社内外のマネジメントでビジネスを拡大しようとしている傾向が読み取れる。
一方、これらの「用語の意味が分からない」と回答した企業は全体の9%存在した。人事主体で適切な求人票が作成されていない企業も、一部存在することが予想される。
※VPoE(Vice President of Engineering)とは、エンジニアのマネジメントを統括する役職のこと
【図表4】ITエンジニアの募集ポジションの割合(N=160)
「ITエンジニアに伝わる求人票の作成」は「出来ていない」が4割
ジョブ型雇用のトレンドから、ITエンジニアの採用とジョブ・ディスクリプション(職務記述書)の詳述は、今後重要になってくることが予想される。
そこで、ITエンジニアの職種、役職が多岐に渡ることを認識した上で、改めて、求人票に「期待する職務内容」「仕事の目的・重要性」を、ITエンジニアにも伝わるように記載できているかを質問したところ、39%の企業が「出来ていない」と回答した(「1(まったく出来ていない)」と「2」の合計)。この傾向は、従業員規模が小さくなるほど顕著になり、中小企業では「出来ていない」という回答が過半数の53%にも及んだ(図表5-1)。
【図表5-1】期待する職務内容や仕事の目的・重要性が、求人票に記載できているか(N=160)
上記の回答理由に関するフリーコメントを以下に抜粋する。
【図表5-2】求人票に関するフリーコメント(N=160)
適切な求人票の記載 | 理由コメント | 従業員規模 | 業種 |
---|---|---|---|
1(まったく出来ていない) | 特に「ITエンジニア」というくくりで募集していない | 1,001名以上 | サービス |
1(まったく出来ていない) | 職種別の採用を行っていないため | 1,001名以上 | メーカー |
1(まったく出来ていない) | 採用担当が、ITエンジニアの職務詳細を理解できていない | 301~1,000名 | 商社・流通 |
1(まったく出来ていない) | 求人票ではなく、コネで採用しようとしているから | 300名以下 | 運輸・不動産・エネルギー |
1(まったく出来ていない) | 文字数が限られているので、働き方の柔軟性などを前面に押し出しているため | 300名以下 | 情報・通信 |
2 | ITエンジニアに求める役割が不明確だから | 1,001名以上 | メーカー |
2 | そもそもの必要な要件や職位について、プライオリティがついていないため、総花的になっている | 1,001名以上 | メーカー |
2 | ITエンジニアの採用経験自体に乏しい | 301~1,000名 | メーカー |
2 | IT人材の業務範囲が広く、ざっくりせざるを得ない | 301~1,000名 | メーカー |
2 | 採用ノウハウがないので、しっかり言語化出来ている確信が持てない | 300名以下 | 商社・流通 |
2 | 仕事の重要性は書かれているが、期待する職務内容が大まかであるため。 | 300名以下 | 情報・通信 |
3 | 標準的な内容であとは面接等で直接具体的に説明するため | 1,001名以上 | メーカー |
3 | そもそもゼネラリスト的な活用をしているので詳細ジョブディスクリプトに落とし込めていない | 1,001名以上 | 情報・通信 |
3 | 客先によって求められるスキルセットが異なるため、求職者にストレートに求人内容が伝わらないと思うから | 301~1,000名 | サービス |
3 | 社内制度ではITエンジニアの職種が細分化されていないため、そういった形式を求める求職者にはわかりづらいかも知れないと感じる | 300名以下 | 情報・通信 |
3 | エンジニアと求人票の内容について打ち合わせを行なった上で記載しているから | 300名以下 | マスコミ・コンサル |
4 | 人材紹介会社と何回も記載内容をブラッシュアップしてきて、応募者が増やすことが出来た | 1,001名以上 | サービス |
4 | 「採用の背景」を明確にすることで、仕事内容と必要なスキルに落とし込めているため | 1,001名以上 | サービス |
4 | 求人者からの評価 | 301~1,000名 | 情報・通信 |
4 | ITエンジニアに職務内容等ヒアリングを行い、求人票を作成しているため | 300名以下 | サービス |
4 | エンジニアが作成しているから | 300名以下 | 情報・通信 |
5(とても出来ている) | 外注しているため | 300名以下 | 情報・通信 |
5(とても出来ている) | 希望する人材を採用できているため | 301~1,000名 | 情報・通信 |
5(とても出来ている) | 採用の目標数につながっているため | 301~1,000名 | サービス |
2022年度の採用達成率「50%未満」が6割以上
2022年度の採用目標数を質問したところ、76%の企業が「10人未満」と回答した。一方で、採用の達成率については、64%の企業が「50%未満」と回答している。また、「0%」と回答した企業は、全体の26%にも及び、中小企業では44%が該当した(図表6-1,2)。
依然として、ITエンジニアの採用が困難であることがうかがえる。
【図表6-1】2022年度のITエンジニア採用目標数(N=160)
【図表6-2】2022年度のITエンジニア採用達成率(N=160)
ITエンジニアの採用サービスの利用ランキング トップは「マイナビ転職」
ITエンジニアの採用サービスについて、「求人メディア」「エージェント」「ダイレクトリクルーティングサービス」の3つの分野で、それぞれ具体的なサービス名を挙げて利用状況を質問した。
まず、上記3つのサービスごとに「利用していない」と回答した企業を調べたところ、「求人メディアを利用していない」(60%で)、「エージェントを利用していない」(65%で)、「ダイレクトリクルーティングサービスを利用していない」(83%で)となった。
このことから、「求人メディア」を利用している企業が最も多い傾向にあることが分かった。
以下、何らかのサービスを利用している企業には、具体的なサービス名を複数選択してもらった。その結果を、図表7にまとめている。
【図表7】ITエンジニア採用サービスの利用状況(N=160)
効果を実感した採用サービス トップは「エージェント」
採用手法別に効果の実感を聞いたところ、トップは「エージェント」(28%)という結果になった。以下、「リファラル採用」(13%)、「求人メディア」(11%)と続く。
図表5-2にまとめた「求人票」に関するフリーコメントでは、自社の求人票に満足している企業から「作成を外注しているから」「人材紹介会社と何回も記載内容をブラッシュアップしてきて、応募者を増やすことが出来た」などのコメントがあり、こうした細やかなサービスが、「エージェント」に対する高い効果の実感に繋がっているのかもしれない。
一方で、「効果を実感している手法はない」と回答した企業は32%に及んだ。特に中小企業は47%と半数近くが効果を実感していない(図表8)。
【図表8】ITエンジニア採用手法で最も効果を感じている手法(N=160)
ITエンジニアへの平均提示年収 トップは「600万円未満」
最後に、ITエンジニア採用における、平均提示年収額を質問した。トップは「600万円未満」(47%)であるが、非メーカーの大企業では「800万円以上」が36%で最多となるなど、従業員規模が大きいほど、平均提示年収も大きくなることが分かった(図表9)。
【図表9】ITエンジニア採用における平均提示年収(N=160)
【調査概要】
アンケート名称:【HR総研】「ITエンジニアを取り巻く人事の取り組み」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年12月26日~2023年1月18日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:244件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当調査のURL記載、またはリンク設定
3)HR総研へのご連絡
・会社名、部署・役職、氏名、連絡先
・引用元名称(調査レポートURL) と引用項目(図表No)
・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp
※HR総研では、当調査に関わる集計データのご提供(有償)を行っております。
詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。
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