企業の採用意欲はさらに高まる
採用計画数(見込みを含む)では、昨年に引き続き「前年並み」が56%と過半数を占めているものの、「(採用数を)増やす」(24%)が「(採用数を)減らす」(5%)を大きく上回る結果となっている。昨年と今年の違いは、メーカーと非メーカーでの差がほとんどないこと。昨年は、非メーカーの「減らす」は4%だったものの、メーカーは13%が「減らす」とかなりの温度差があった。゛ 前回調査時点では、2012年秋の政権交代により、円高から円安への動きは見せつつも依然としてまだ円高水域にあり、海外依存度の高いメーカーはまだ業績がどう転ぶか見極められない状況にあった。それに対して今年は、最高益を更新する企業が何社も現れ、春闘に向けて一時金だけでなくベアも検討されるほど、環境が大きく好転しており、非メーカー(4%)だけでなく、メーカーでも「減らす」は6%に止まっている。
4月からの消費税率の変更に伴う消費の冷え込みを懸念する声はありながらも、一時的なものに止まるとの見方も強く、採用意欲は高いままで本格的な選考シーズンに突入するだろう。
図表1:2015年新卒採用計画数の増減
中小企業ではプレエントリーが減少傾向
企業のプレエントリー数の対前年比は、大企業・中堅企業と中小企業では大きく異なる傾向が見られる。約半分の企業が「昨年並み」と回答しているところは変わらないものの、大企業では「減っている」の24%に対して「増えている」が29%、中堅企業でも「減っている」の19%に対して「増えている」が29%と、「増えている」企業が多くなっているのに対して、中小企業だけは「増えている」16%に対して「減っている」が2倍にあたる32%にもなっている。景気が良くなると大企業の採用数が多くなり、学生の大手志向がより強くなると言われているが、それをよく現すデータとなっている。
図表2:プレエントリー数の増減
同程度か微増する学生のプレエントリー総数
学生から見たプレエントリー数を昨年のデータと比較してみよう。
文系では、「21~60社」の割合が昨年よりも減っている代わりに、「1~20社」「61~80社」が増えている。「141~160社」なども微増しており、全体量としては昨年とほぼ同程度のプレエントリーが企業に届いていることになる。
図表3:文系学生のプレエントリー数
理系では、「0社」「1~20社」「81~100社」が減っている代わりに、「21~40社」「61~80社」「201社以上」などが増えている。全体量としては昨年よりもやや多いプレエントリーが企業に届いていると推測される。
図表4:理系学生のプレエントリー数
大きく伸びた就職ナビの掲載企業数
ただし、今年ひとつ気をつけなくてはならないのは、学生のプレエントリーの総量が同程度あるいは微増だとしても、その受け取り側である企業数が大きく違うということ。主要な就職ナビである「リクナビ」と「マイナビ」を例にしてみよう。2014年1月13日現在の「リクナビ2015」と「マイナビ2015」の掲載社数は、それぞれ9,731社と11,109社。昨年同時期の「リクナビ2014」「マイナビ2014」と比較すると、「リクナビ」で約2,000社、「マイナビ」にいたっては約5,000社も多くなっている。複数の就職ナビに掲載している企業も多数あり、純粋にこれだけの社数が受け取り側として増えているわけではもちろんない。しかし、主な就職ナビのいずれかに掲載している企業数は、昨年対比で4桁は増えていると推測される。となれば、1社あたりが受け取る平均プレエントリー数は減るわけで、そんな環境下でもプレエントリー数が増えている企業(勝ち組)と、プレエントリー数が減っている企業との二極化はさらに進んでいるということができる。大企業、中小企業という企業規模によるだけでなく、普段の生活でなじみのある企業(B to C)とそうでない企業(B to B)、人気業界と不人気業界といったものが複合的にリンクしていることになる。
プレエントリー数が大幅に減った企業は、早めに対策を考える必要がありそうだ。ただし、ここではプレエントリー数の総数のみを見ているが、もっと大切なのは自社が求める対象(ターゲット層)からのプレエントリーが昨年対比でどうなのかだ。総数が減っていても、ターゲット層からのプレエントリー数がそれほど変わらないのであれば、採用広報の戦略は間違っていなかったことになる。
ターゲット大学設定企業、調査開始以来初の減少
「ターゲット大学の設定の有無」について、2011年新卒採用(2009年12月調査)から毎年調査をしている。これまでの調査結果の推移を見てみると、ターゲット大学を設定している企業の割合は、2011年卒 33%→2012年卒 39%→2013年卒 48%→2014年卒 52%と右肩上がりの上昇を見せてきたが、2015年卒採用では44%と大きく減少することとなった。
図表5:ダーゲット校設定の有無(年次比較)
ターゲット校設定が減ったのは大手以外
設定している企業の割合を企業規模別にみてみよう。回答企業を「300名以下」「301~1000名以下」「1001名以上」の3区分に分けてみると、「300名以下」37%、「301~1000名以下」48%、「1001名以上」55%と、企業規模により傾向が異なる結果が浮かび上がって来る。前回(2014年卒)の調査では、「300名以下」47%、「301~1000名以下」57%、「1001名以上」54%となっており、「1001名以上」の大企業では減少していない(というよりも微増)のに対して、それ以外の中小・中堅企業で大きく設定率が減少しているのがわかる。
中小・中堅企業で大きく設定率が減少したのには3つの理由がある。一つは、景気回復基調から各企業の採用意欲が向上し、昨年に比べて採用計画数の増加が予測されること。企業側の採用計画が膨れ上がれば、需給バランスからして企業側の学生争奪戦が激しくなり、昨年以上に採用には苦労することになる。
二つ目には、学生の大手企業志向が再燃していること。ここ数年、景気の低迷から大手企業の採用数はリーマン・ショック以前と比べるとかなり減ってきており、必然的に学生は中堅・中小企業にも目を向けざるを得なかった。ところが、企業の経営状況は大幅に改善してきており、最高益を更新する企業も少なくない。ただでさえ需給バランスの悪化が予測される中、さらに学生の大手企業志向が復活するとなると、中堅・中小企業側(大手企業の中にもB to B企業や不人気業界などは、採用の苦戦が予想されるのだが)の条件はさらに厳しいものになる。
三つ目には、昨年の採用活動の反省。昨年は、4月1日には内々定をもらう学生が続出するなど、大手企業の採用選考活動の早期化・短期化が指摘されたが、中堅・中小企業の選考活動もそれまでと比べるとかなり早いものだった。4月後半に採用選考のピークを持ってきた企業も多かったようだ。結果的に大手企業と選考時期や選考学生がバッティングし、選考辞退や内定辞退を数多く招く結果となってしまった。
これらのことに鑑み、中堅・中小企業ではターゲット校設定の見直しをした企業が多かったと推測できる。ただ、中堅・中小企業におけるターゲット大学は、必ずしも多くの大手企業がするように入試偏差値ランキングをもとに設定されているわけではない。地元の大学であるとか、OB/OGが多いなどの理由によるところも多い。今回、ターゲット大学設定を見直した企業の多くは、大手企業のように入試偏差値ランキングをもとに大学を設定していた企業群に多かったのではないかと推測している。
図表6:ダーゲット校設定の有無(企業規模別)
【調査概要】
■採用担当者
調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2013年12月17日~12月26日
有効回答:504社(1001名以上 84社, 301~1000名 1637社, 300名以下 257社)
■学生
調査主体:楽天「みんなの就職活動日記」
調査企画:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:2015年卒業予定の就職活動中の大学生、大学院生
調査方法:webアンケート
調査期間:2013年12月18日~12月27日
有効回答:824名(文系550名、理系274名)
- 1