「学生が学業に専念する期間が延びる」「海外で学ぶ留学生の就職活動機会が広がる」という政府の狙いは実現できるのか。
今回の大学向け調査は、キャリアセンターへの郵送アンケートではなく、弊社スタッフと名刺交換されたことのある方々にメールでアンケート調査を依頼し、WEBアンケートフォームにご回答いただく形をとった。キャリアセンターの表向きのオフィシャルな見解というよりも、それぞれの担当者の“本音”が垣間見える結果となった。
企業・大学・学生の考えを比較するとともに、それぞれのコメントを紹介したい。
学生は過半数が現状スケジュールを支持
学生の調査結果については、文系と理系によるカリキュラムの違いもあるため、あえて別々に集計してみた。
キャリアセンター担当者では、立場的に政府提言を支持する声が最多であるものの、4割に満たない。現状の12月解禁を支持する声も3割ある。
採用担当者、学生はというと、いずれも現状支持派が最多となっており、学生に至っては文系、理系ともに過半数が「現状がよい」としている。さらに注目すべきは、学生では「今より早い方がよい」とする声が企業よりも多く、卒業実験で忙しくなる理系では2割近くに及ぶ。
それぞれのコメントを紹介する。
【今よりも早い方がよい】
・就職活動に向けた準備をすることが大学生活のほとんどを占めるようになってしまうのではないか。(企業)
・就職活動を終わらせてから卒論や単位修得等に真剣に取り組む方が効率がいいと思う。(学生)
【現状がよい】
・4月採用広報開始により冬季・春季休業期間を利用して選考に向けての十分な準備期間がなくなる。(大学)
・高校選考も行っている為、後倒しになると厳しい。(企業)
・3年生の春休みを就活に使えないのはもったいない。(学生)
【政府提言がよい】 ・現行の就職・採用活動の早期化がもたらす学業への影響(学業や正課外活動に専念できないなど)は大である。(大学)
・現在の採用スケジュールは入社までに時間がありすぎ、学生とのコミュニケーションをとるために必要以上に時間がとられる。(企業)
・あまり広報や選考が早いと早く決まった時に遊ぶ時間が出来てしまい、余計に社会に出るのが嫌になってしまっている状態の先輩の姿を見たため。(学生)
図表1:採用時期の繰り下げについてどう思うか
スケジュールを変更しても学生が学業に専念することは期待薄
今回の方針の目的のひとつである「学生の学業に専念」について、「専念すると思う」と回答したのは、企業で19%、大学でも29%しかない。「専念すると思わない」とするキャリアセンター担当者が53%と過半数を占める。
当の学生本人たちはと言うと、「専念すると思わない」との回答が文系76%、理系79%とどちらも8割近くに及ぶ。あきれたものである。
こちらもコメントを見てみよう。
【専念すると思う】
・「就活」を直近のものとして意識する時期が遅くなる分、学生生活に余裕ができ、学業に専念する学生はより増えると考える。(大学)
・3年生で取得すべき単位がしっかり取れるようになるのではないかと思う。(企業)
・採用スケジュールを遅らせることで、自身の研究テーマをより深く研究すると思います。(学生)
【専念するとは思わない】
・就職活動に左右されることなく、やる学生はきちんとやるし、やらない学生はやらないと思われる。(大学)
・学業に専念させたいのであれば、時間を取るだけで無く、少なくとも、教育制度そのものを変更するくらいの改革が必要であろう。(企業)
・何もしないでいると過密スケジュールのために業界研究など行えずに失敗するかもしれない。それを防止するためにも結局は就職活動の為の準備期間にあてられるのでは。(学生)
図表2:学生は学業に専念すると思うか
就活時期の変更で海外留学が増えると考えるのは短絡的
「海外への留学生増加」についても、「増えるると思う」企業は25%しかなく、「増えるとは思わない」企業の方が65%と多くなっている。
大学も「増えると思う」31%に対して、「増えるとは思わない」が55%と過半数を占めている。
学生では、理系は「増えると思う」が21%なのに対して、文系は38%と大きく異なる。留学生の割合が文系の方が多いことにもよるのだろう。ただし、「増えるとは思わない」がそれをはるかに超える割合であることには変わりはない。
採用スケジュールの問題というよりも、学生の海外志向の変化や、親の経済的理由の方が大きいのではないか。「増える」との回答の中には、「少しは増えるのでは」といった声も少なからずあり、海外留学生が劇的に増えることを期待するものはわずか。
【増えると思う】
・4年生からであれば、欧米圏を含めて留学を希望する学生は増えると思う。ただ、激増するという段階まではいかないと思う。(大学)
・昨年に比べ、留学経験のある学生の応募数が格段に増えていたため、まとまった時間がとれる時に留学をする学生は増えると思う。(企業)
・帰国してからの猶予期間が長くなり、3回生からでも安心して留学にいけるから。(学生)
【増えるとは思わない】
・現在でも9割の学生が地元志向であり、せめて日本の中だけでも知見を広めるよう県外就職を勧めているが、なかなか出て行こうとしない。このような状況の中で、海外へ目を向けるような変化は出てこないと思うから。(大学)
・企業側がメッセージとして海外留学経験者を優遇するようなことをすれば、増えるかもしれないが、海外に留学する学生が目指すものは、就職のためだけはなく、もっと他に大きな目標を持っていると思うため。(企業)
・海外留学を行う学生は裕福な家庭であり、採用スケジュールを遅らせることで裕福な家庭が増えるわけでない。(学生)
図表3:海外への留学生は増えると思うか
中小企業の採用はより困難になる
大手企業の選考時期が後ろ倒しになることで、中小企業の選考時期はそこからさらに後ろ倒しにならざるをえない。学生が中小企業に目を向ける機会を増やさない限り、中小企業の採用環境が改善することはありえない。
大学関係者は55%が、採用担当者はさらに多い62%が中小企業の採用はより困難になると考えている。
それぞれのコメントを紹介する。
【より困難になる】
・採用機会が短期化して3月卒業まで充足できない可能性はあると思う。(大学)
・高校生の採用時期と重なり企業内での対応に問題が生じるのではないか。(大学)
・大手より早くに活動を開始しても、活動が遅い大手からの内定が出たら、辞退されてしまうと思う。(企業)
・大手企業の内定状況に中小企業の採用は大きく左右されるため、スケジュールが後ろ倒しになればなるほど、採用活動は長期化するため。(企業)
【変わらないと思う】
・学生の中小企業への分散化も進みつつあり、中小企業がより魅力を伝えていくことで採用活動の困難さは乗り越えられると考えます。(大学)
・時期の問題ではない。大手企業の採用枠が広がれば中小企業への影響はあると思う。(大学)
・学生が身の丈にあった就職活動を行ないやすくなるので、中小企業にとっても本当に入社したい人に限って選考が出来る。(企業)
・変更となった初年度は大きく影響があると思いますが、2、3年目には学生側も先輩から話を聞いて要領を掴んでくると思いますので、今と同じような状況に戻ると考えます。(企業)
図表4:中小企業の採用はどうなると思うか
未内定者については意見が分かれる
この質問に限っては、大学関係者と採用担当者では意見が分かれた。大学関係者は55%が「変わらない」とするのに対して、採用担当者は反対に55%は「未内定者は増える」としている。
こちらもそれぞれのコメントを見てみよう。
【未内定者は増える】
・採用スケジュールの変更でますます短期決戦が進むため、十分な企業研究・業界研究が出来た学生とそうでない学生の二極化がより一層進み、未内定のまま卒業する学生が増えるのではないか。(大学)
・卒業論文等、大学での学修のまとめの時期と重なり、大学卒業を優先した場合、当然就職活動が後回しとなる。(大学)
・大手企業の内定を得られず中小企業に舵を切っても、卒業までもう半年もない、という学生が増えると思われるため。(企業)
・期間が短くなれば、それだけ学生が見る企業の数も少なくなるので、マッチングの数も少なくなると考えられます。(企業)
【変わらない】
・未内定者の数は求職者と全体の採用数に関係すると考えるので卒業時点ではあまり変わらないと思う。(大学)
・学生も馬鹿ではない。活動時期が短縮されることで無駄なエントリーを減らせば内定の可能性が高くなる。(大学)
・優秀な学生は早くに決まるし、そうでない学生は決まらない、開始時期には相関はないと考える。(企業)
・内定式には間に合わないが、卒業までには決着がつくと考えている。(企業)
図表5:未内定者は増えると思うか
倫理憲章が守られると思うのは極めて少数
「守られると思う」企業は全体で7%、大企業に限れば5%しかない。「どちらともいえない」とする企業が過半数と多いものの、4割は「守られなくなる」と考えている。企業規模による差異はそれほどないのは興味深いところである。
それぞれのコメントを見てみよう。
【守られると思う】
・守らない企業等を公表する手段を講ずれば防げる。(企業)
・少なくとも、心理的ブレーキにはなっていると思う。まともな企業なら。(企業)
【どちらともいえない】
・大手は守っても、それでは太刀打ちできない企業は、結局守らないと思う。(企業)
・実際のところ、今どの程度の企業が賛同・実施していて、していないか、よく分からない。(企業)
【守られなくなると思う】
・きちんと守っている企業が馬鹿を見るような状況で、早く内定が出たところに決めている学生も居るから。(企業)
・結局、各社水面下では、いろいろと手を打っているし、守っていない企業も多い。取り決めが曖昧。本気でやるなら法制化(罰則有り)して徹底的に規制すべき。(企業)
図表6:倫理憲章が守られると思うか
大手ほど外資系を警戒
「どちらともいえない」とする企業がどの企業規模でも多いものの、大企業では「どちらともいえない」45%、「より有利になる」42%と拮抗する形になっている。「より有利になる」とする回答の裏側には、外資系への警戒心が隠れているのではないだろうか。
それぞれのコメントは以下の通り。
【より有利になる】
・外資系企業など早期の選考で、早めに優秀な学生を持っていかれることも想定されるため。(企業)
・早めに内定が欲しくて学生が早い時期の採用試験を受けることが予想されるため。(企業)
【どちらともいえない】
・一部企業が採用時期を早めても、学生にとっての本命企業が倫理憲章を守っていたら、本命企業の結論が出るまでは学生も決断できなくなる。(企業)
・有利になる面もあれば、内定辞退が多発することで不利になる面もあると考える。(企業)
【変わらない】
・企業側全体の動きが遅くなるのに合わせて、学生の動きも遅くなると思うので、外資系が現状どおり動けば有利になるとは思いません。(企業)
・そもそも外資系を希望する学生の数は一定であると思う。早く就職できるからと言って、肌合いの合わない企業に行く学生が大きく増加するとは思えない。(企業)
図表7:外資系に有利になると思うか
3月まで採用広報を控える企業は3割
広報解禁が3月になった場合、それまでの期間をどう使うかを聞いたもの。「3月までは採用広報は一切しない」とする企業は3割に過ぎず、「インターンシップ」や「キャリア講座への講師派遣」などで学生との接点を創り出そうとする動きが活発化しそうである。大学との関係づくりなど、2016年卒を見据えた動きが、2015年卒から始まるものと思われる。
図表8:3月前までにどう動くか
8月選考開始を守る企業はさらに減って2割
10月の正式内定がそのままとすると、8月選考開始からの期間は大きく短期化することになる。その対策としてどんな動きをするかを聞いたところ、「8月以前に一切選考をしない」とする企業はわずか2割強しかない。広報開始は守れても、選考開始は守れないということか。「8月前に選考」や「8月前に予備選考」を行うという企業がいずれも3割前後という結果に。注目すべきは、「リクルーターを強化」とする大企業が多いことである。こちらも3割を超えている。
図表9:8月以前にどう動くか
【調査概要】
■採用担当者
調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2013年4月19日~5月1日
有効回答:436社(1001名以上 86社, 301~1000名 147社, 300名以下 203社)
■キャリアセンター
調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:全国の大学キャリアセンター担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2013年4月17日~4月25日
有効回答:77大学
■学生
調査主体:楽天「みんなの就職活動日記」
調査企画:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:就職活動中の大学生、大学院生
調査方法:webアンケート
調査期間:2013年4月22日~5月1日
有効回答:2,678名(文系1,527名、理系1,151名)
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