昨年を上回るペースで内定出しが進んでいる2019年新卒採用。HR総研が3月下旬に実施した採用担当者を対象としたアンケート調査から、垣間見える今年の動向を2回に分けて報告する。
2回目の今回は、ダイレクトソーシング、AI採用、2020年卒向けインターンシップ、2021年卒採用のスケジュールについて見ていきたい。

4分の1の企業がダイレクトソーシングを活用

HR総研:「2019年新卒採用動向調査」結果報告 vol.2

新卒採用施策の定番と言えば、「就職ナビ」と「合同企業セミナー」であることは今も変わらない。ただし、これまでのように採用広告を掲載して学生からのプレエントリーを“待つ” 「就職ナビ」、あるいは大規模なセミナー会場に企業ブースを出展して、ただひたすら訪問学生を“待つ”「合同企業セミナー」の捉え方が変わってきつつある。インターネットが普及する以前の就職情報誌が全盛だった時代から変わらない考え方のひとつに「母集団積み上げ方式」というものがある。最終的な採用計画数を起点として、内定辞退率を考慮した内定者数、選考辞退や不合格者を考慮した最終面接者数、同様に二次面接者数、一次面接者数をはじきだし、さらにはエントリーシート(書類選考)合格者数、自社主催セミナー・会社説明会参加者数、プレエントリー・合同企業セミナー面談者数をシミュレーションし、それぞれにKPIを設定して追いかけるというもの。プレエントリー・合同企業セミナー面談者数を「母集団」と呼び、この数字をできるだけ大きくすべくプロモーション活動を展開するのである。その企業の過去の各採用ステップにおける歩留まり率によって、採用計画数と母集団の比率は異なるが、概ね50~100倍くらいとする企業が多い。プレエントリー者数の対前年での増減に一喜一憂する担当者がほとんどだった。
ただ、近年、この考え方に少しずつ変化が見られるようになった。自社が求めるタイプの応募者数だけが重要であって、玉石混交といえる母集団がどれだけ増えようがあまり意味はないことに気づきはじめたのである。母集団からどんどん絞り込んでいく採用から、最初から絞られたターゲットとより深いコミュニケーションをとっていく採用、いわば「マスの採用」から「個別の採用」へとシフトしてきたのである。それを可能にした1つの手法が「ダイレクトソーシング(ダイレクトリクルーティングと称する場合もある)」である。
“待つ”採用から“攻める”採用へ、“入りたい学生”から採る採用ではなく、“採りたい学生”を採る採用といってもいいだろう。学生のエントリーシートデータベースを検索して、自社が採りたい学生を抽出してオファーメールを配信する「逆求人型サイト」や、社員や内定者からの紹介学生を選考する「リファラー採用」などがその代表格である。新卒採用だけでなく、キャリア採用でも年々利用が増えている。

今回、新卒採用におけるダイレクトソーシングの活用状況を確認したところ、23%とほぼ4分の1の企業が「活用している」と回答している。昨年同時期の調査では、「活用している」企業は16%にとどまっており、この1年で8ポイントも上昇している。なかでも採用に苦戦している中堅企業は、昨年の14%から今年は25%へと11ポイントも伸びている。大企業ですら昨年の12%から今年は19%へと7ポイントの上昇がみられる。企業規模を問わず、従来からの採用プロモーション手法だけでなく、ダイレクトソーシングを採り入れる傾向がある。

[図表1]新卒採用におけるダイレクトソーシングの活用状況

半数以上の企業が「逆求人サイト」を活用

HR総研:「2019年新卒採用動向調査」結果報告 vol.2

次に、実際に活用している企業に対して、どんなダイレクトソーシング手法を採り入れているのかを確認したところ、トップは「逆求人サイト」で55%、次いで「社員からの紹介」のリファラル採用が48%が続く。3位には「内定者からの紹介」が23%で、4分の1の企業が内定者を採用活動に活用していることが分かる。かつても内定者を活用して後輩(次の就活世代)の名簿を作成させ、採用活動に利用する例は見られたが、「個人情報保護」の機運の高まりとともに、徐々に下火になっていった経緯がある。今も「個人情報保護」の意識は継続しているものの、内定者が本人の同意を得た上で情報を収集したり、企業の連絡先窓口情報を後輩に伝えて本人から企業に連絡させるようにしたりと、そのやり方に工夫が見られるようになった。4位には「逆求人セミナー」が入ったが、16%とまだまだ少ない。このタイプのセミナー自体がまだ少ないことと、企業がブース出展する従来の合同企業セミナーと違って、学生がブース出展する「逆求人セミナー」はまだまだ参加学生数がそれほど多くなく、参画する企業数も限られてしまうためであろう。今後は、このタイプのセミナーが増えていくのではないかと推測する。

[図表2]活用しているダイレクトソーシングの内容

大手が先行する「AI採用」

HR総研:「2019年新卒採用動向調査」結果報告 vol.2

昨年、ソフトバンクがエントリーシートの書類選考にIBM社のAI「ワトソン」を導入して、書類選考に要する時間を前年までの4分の1にしたと話題となった。今年の採用では、サッポロビールなど他社でも導入の声があがっている。また、エントリーシートの書類選考だけでなく、面接の合否判定にもAIを活用したサービスが現れた。企業が「AI採用」をどう考えているのかを聞いてみた。
全体では、2019年新卒採用において「AI採用」を「実施する」とした企業はわずかに2%ながら、「検討する」とした企業が11%もある。企業規模別に見ると違いは明らかで、大企業では「実施する」が5%、「検討する」が22%と3割近い企業が関心を寄せている。中堅企業では「検討する」の7%のみ、中小企業では「実施する」と「検討する」で10%という結果になった。中堅企業よりも中小企業のほうが、関心が高いようだ。応募者の多さというよりも、人事担当者の労力をいかに省力化するか、あるいは面接スキルをいかに補うかといった理由からなのであろう。

[図表3]2019年新卒採用での「AI採用」の実施状況

エントリーシートの書類選考を効率化したい大企業

HR総研:「2019年新卒採用動向調査」結果報告 vol.2

AIを活用した採用支援サービスは他にもあるだろうが、よく目にするサービスは「エントリーシートの合否判定」と「面接の合否判定」であろう。前問で「実施する」「検討する」と回答した企業に、その領域を聞いたところ、「エントリーシートの合否判定」が53%、「面接の合否判定」が33%、「その他」が33%となった。大企業では、すべての企業が「エントリーシートの合否判定」をあげている。面接は対面で実施するものであるという意識がまだまだ強く残るが、エントリーシートについてはAI任せでも構わないということなのであろう。大量のエントリーシートを読み込む業務に、かなりの人員と時間を要しているのだと思う。それでいて1つのエントリーシートを複数人で読み込んで、ダブルチェックで採点を行っている企業は、読むことに長けている一部の出版社ぐらいのものであろう。ほとんどの企業では、1人の判断で合否が決められており、その妥当性の担保にも疑わしいものがある。また、時間的・物理的理由ですべてのエントリーシートを読み込むことが困難で、最初から大学グループ等で絞り込んだエントリーシートのみを判定している企業もあるだろう。その点、AIによるエントリーシートの合否判定であれば、すべての学生のエントリーシートについて判定を出すことも容易にできる。これまで取りこぼしていた学生を拾うこともできるかもしれない。

[図表4]AI採用の活用シーン

まだまだAIに疑心暗鬼な人事担当者

採用活動におけるAIの活用について感じていることを自由記述で回答してもらっている。いくつか紹介しておこう。

・本当に活用できるのかどうかが不安(1001名以上、メーカー)
・学生の納得感がないと報道されているので、手間をかけてでも学生との対話を重視する(1001名以上、メーカー)
・母集団の大きな企業においては業務改善、軽減・工数削減できるので有用だと思う(301~1000名、サービス)
・ヒトを判断するのが機械であっていいとは思わない。大手企業とは違い、応募数が格段に多いわけではないので、可能な限り個人と向き合いたい(301~1000名、メーカー)
・AI活用=大手企業のイメージがあります(301~1000名、メーカー)
・AIを活用する規模ではないし、採用時の評価データと入社後の評価データの相関分析や、それによる採用時のデータ活用方法の改善などは、普通にAIを使わなくても実施できる(301~1000名、情報・通信)
・AIに判断させるための材料となる情報を集めるのが大変そう。しかし、ちゃんと準備が出来れば是非使いたい(300名以下、運輸)
・まだ活用手法が見えないが今後広まっていけば検討する必要がある(300名以下、金融)
・基礎となる多くの学生のデータが蓄積するのに時間が掛かる(300名以下、金融)
・ある程度の人選眼の醸成にはつながると思う(300名以下、マスコミ)

インターンシップを実施しないと明言したのは12%のみ

HR総研:「2019年新卒採用動向調査」結果報告 vol.2

2020年卒採用に向けてのインターンシップの実施予定を確認したところ、3月下旬段階では「未定」と回答した企業が36%と3分の1以上に達しているものの、「実施しない予定」と実施しないことを明確に回答した企業は12%にとどまる。残り52%の企業は「実施する予定」と回答しており、仮に「未定」企業がすべて実施することになれば、実に88%もの企業がインターンシップを実施することになる。「未定」とした企業の半数が実施したとしても70%の企業が実施するということになる。3月の採用広報解禁から活動を始めるのでは遅すぎるとして、インターンシップを実施する企業が今年はさらに増えそうである。

[図表5]2020年卒採用に向けてのインターンシップ実施予定

インターンシップのピークは今年も「2月」

HR総研:「2019年新卒採用動向調査」結果報告 vol.2

次に、インターンシップを「実施する予定」とした企業に実施予定の時期を聞いてみた。最も多かったのは「2019年2月」の59%で、「2018年8月」が58%で続く。「2018年8月」に実施するためには、6月1日の就職ナビのプレオープンとともに、インターンシップの告知及び受付を始める必要があり、「未定」としていた企業がインターンシップを実施するとしても秋以降に実施する企業が多くなるであろう。そう考えると、「2019年2月」に実施する企業はまだまだ大きく伸びる余地がある。

[図表6]インターンシップ実施予定時期

激増する1Dayインターンシップ

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実施予定のインターンシップのタイプでは、「1日」が55%でトップ、次いで「半日」が38%で続く。昨年まで経団連が最低日数の縛りを設けていた「1週間(5日間以上)」は18%にとどまる。昨年の同時期の調査と比較してみると、「1日」48%→55%、「半日」22%→38%と大きく伸びているのに対して、「1週間」は25%→18%、「2週間」は19%→13%と大きく減少している。「1週間」以上のタイプから、「半日・1日」タイプへと大きくシフトしていることが分かる。「半日」や「1日」を選択した企業の割合は大企業と中堅企業で差はないものの、「2~3日間」となると大企業とそれ以外では大きく異なる。大企業では47%にも達するのに対して、中堅企業では17%、中小企業で16%といった具合である。経団連は最低日数条件を廃止したものの、1Dayインターンシップにありがちな「セミナーまがい」のインターンシップまでをも認めたわけではない。「教育的効果が乏しく、企業の広報活動や、その後の選考活動につながるような1日限りのプログラムは実施しない」と規定している。大企業の中には、「1日限り」を避けるために、「2~3日」でプログラムを組んでいる企業も多い。

[図表7]実施予定のインターンシップのタイプ

「スケジュールを見直すべき」が8割超

HR総研:「2019年新卒採用動向調査」結果報告 vol.2

最後に、2021年卒採用のスケジュールについて見てみる。経団連は、2020年の東京五輪の影響で大型のイベント施設などが使用できなくなり、採用活動に支障を来すという理由から、2021年に入社する学生を対象とした採用活動のスケジュールを見直すと発表した。2020年入社の採用活動までは、現在の「3月 採用広報解禁、6月 面接選考解禁」ルールが継続されるとのこと。経団連では、かねてより「指針」のスケジュールである「3月 採用広報解禁、6月(16年卒は8月) 面接選考解禁」は政府に押し付けられたもので、自分たちが望んだものではなく、15年卒採用までの「12月 採用広報解禁、4月 面接選考解禁」の復活を求める声が少なくなかった。そういう意味では、東京五輪は採用活動スケジュールを見直すための「いい口実」になったとも言える。
「スケジュールを見直すこと自体をどう思うか」と聞いたところ、半数近い48%が「どちらともいえない」と態度を保留しながらも、明確に「反対(変えないほうがいい)」とする声はわずか9%にすぎず、残りの43%は「賛成」と回答している。賛否を明確にした人の中だけで見れば、8割以上の人が見直すべきと考えていることになる。意外にも大企業では、「反対(変えないほうがいい)」とする回答が13%で最も多くなった。

[図表8]2021年卒採用スケジュール改定について

現状支持派も多い大企業

HR総研:「2019年新卒採用動向調査」結果報告 vol.2

具体的なスケジュール案についても聞いてみた。経団連が検討の複数案として挙げていた「3月 広報・選考開始に1本化」「12月 広報開始、4月 選考開始(かつての倫理憲章の日程)」「ルールを一つの目安と緩める」「一切のルールの廃止」に加え、「3月 広報開始、6月 選考開始(現在の指針)」「3月 広報開始、4月 選考開始」「12月 広報開始、3月 選考開始」「その他」の8択にしてみた。結果は、全体では「ルールを一つの目安と緩める」が26%でトップ、次いで「12月 広報開始、3月 選考開始」が23%で続いた。「3月 広報・選考開始に1本化」はわずか2%、かつての倫理憲章の日程である「12月 広報開始、4月 選考開始」も8%と少数意見にとどまった。こちらは企業規模の違いにより意見が分かれている。大企業では、「ルールを一つの目安と緩める」は16%、「12月 広報開始、3月 選考開始」も13%と、他の企業規模より少なくなっている。その代わり、現在の「3月 広報開始、6月 選考開始」とする企業が19%で最多、「12月 広報開始、4月 選考開始」も16%と他の企業規模より多くなっている。やはり大企業では、倫理憲章時代の「12月 広報開始、4月 選考開始」の人気が依然として高いようだ。
経団連は、今年の秋には方針を固めたいとしている。どんなスケジュールになるのか、注目したい。

[図表9]2021年卒採用のあるべき採用スケジュール

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「2019年新卒採用動向調査」
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2018年3月19日~3月26日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び未上場企業の採用担当者
有効回答:145件

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